2010年5月の記事

魅惑の弁護過誤訴訟を傍聴

2010年5月9日

今日の報告は医療裁判ではなく弁護過誤裁判です。東京地裁の医療集中部である東京地裁民事第35部で、約2年前に傍聴したものです。事件番号は平成19年(ワ)第10466号。

 原告は,もともとは追突事故の被害者。左折しようとしたところにトラックに追突されたらしい。実況見分だか調書だかが,加害者に有利に作られてしまったらしい。休業補償なども含めて賠償請求を提起するに当たって,友人のつてで某弁護事務所に相談し,そこのイソ弁とやり取りをしたらしい。
 で,依頼者は10対0を目指しての弁護を期待したところ,そのイソ弁は調書が加害者に有利に書かれていると聞いて「10対0は難しい」と答えたところ,原告は「10対0で押すということができないやる気のない弁護士には頼まない」という旨を述べた模様。原告は何億円もの請求をしてほしい旨を述べていたらしい。
 で,正式な受任がない状態ではあったものの,イソ弁は原告に対して,遺失利益を計算するために確定申告書の写しを送るよう指示したり,事件後2年での自賠責請求時効を延長するための時効停止手続きをしたりした模様。原告は,赤字である確定申告書の写しを送っては不利になると考えたらしく,イソ弁に対して確定申告書を送らなかった。そうこうするうちに損害賠償請求の時効の3年が過ぎてしまった。

 弁護過誤訴訟だが,ちゃんと被告にも原告にも弁護士がついている。

 損害賠償の時効が過ぎてしまったのは,イソ弁とその事務所の代表の説明義務違反などを含む過失だというのが,原告の主張らしい。被告は,原告が確定申告書の写しを送ってこなかったし何の連絡もなかったと主張。

 まず原告が,そして原告妻が証言台に。原告側は,赤字の確定申告書であっても証拠として必要である旨の説明が一切なかったと主張。さらに,イソ弁からの連絡が全然なかったと主張する原告に対して,被告側弁護士は,調停センター(?)でのやり取りの記録を証拠にして「だってあなた,ここでは何度も連絡があったと主張しているじゃないですか」などと突っ込み。原告無言。

 続いて証言台には被告本人(=弁護士)が登場。被告側の弁護士はなかなか優秀そうだけどどこかで見たことがあるなぁ,などと思ったら,実は2週間前に報告した耳鼻科医療訴訟の原告側弁護士である早川修弁護士だと気づく。原告の証人調べでの急所を突くような質問姿勢を含めて,いかにも弁護士の典型と見受けた。

被告(=弁護士)に対する主尋問の一部。

これまでの傾向や判例を覆すことはできるかと問われて,なんと答えたか?
——見込みとしては厳しい,と述べた。

見込みとしては,とはどういうことか
——主張することはできるが,そのような判決を取るとか和解に至るのは難しいと言う意味だ。

過失割合0対100の解決ができるかと聞かれて?
——ご期待には添えない,と答えたら,じゃあ結構です,といわれた。この時点では受任していない。無能な弁護士には用はない,と言われた。

時効について自賠責は2年,本体は3年ということを,原告は理解していたと思うか?
——理解していたと思う。疑問を持っているような受け答えはなかった。

 でもって,続いて反対尋問。おっとりした風貌で,抑揚少なく,笑みを浮かべながら,さほど有効打にはならなさそうな質問をダラダラと続ける。証拠類を机に並べて,途中でどれをどこに置いたかわからなくなる。予定時間を過ぎて裁判長から「時間がだいぶ過ぎてるけど…」と突っ込まれる。

 まあ原告の言い分にはあまり理がなさそうに聞こえました。特に,原告から被告に連絡を取らなかった部分については,浜裁判長も原告に突っ込んでいました。「なんで被告に連絡を取らなかったのか」と。そりゃあそうですよねぇ。「説明がなかったから」とか言っていたけど,なんだかなぁ,と思いました。

(続く)

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村田裁判長の指導的医療訴訟指揮とその後

2010年5月6日

 東京地裁民事第34部、平成21年(ワ)第29097号。昨年10月に第1回弁論を傍聴したところ、村田裁判長から原告代理人に対して、「難しいと思うけれど一回やってみてください。ズルズルやるとズルズル行ってしまいますから。勉強ですから。」と告げられて、「訴訟提起する前に勉強しろつーの(笑)」というファースト・インプレッションを持った事例です。

 で、今日記録を閲覧してみたのですが、

 いやー、この事件を受任するのはどうなんでしょうか。原告代理人は医療問題弁護団ではないですか。この事例で過失は考えにくい(入眠している以上、抑制の要件となる緊急性は認めがたい)し、訴状提出よりずっと後になって出てきた原告協力医(実態は協力と言えない(笑))の意見書を見ても、因果関係なんか全然ダメでむしろ否定されているし。少なくとも因果関係認定を前提とした請求はハナから無理でしょうが。これは原告を説得してお引き取り願う事例だったんじゃないかと思いますけど。これで弁護士費用500万円・・・どうかと思いますよ。医療関係者はみんな司法無知なのでスルーかも知れませんが、ある程度知識を持ってこれを見れば、訝しがってもおかしくないんじゃないでしょうか。

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平成21年(ワ)第29097号
原告X (訴外亡Aの配偶者)
原告代理人 大谷直、今泉亜希子
被告 医療法人Y
被告代理人 加藤愼、鈴木成之

請求額5298万4853円+遅延損害金
内訳 (峰村注:訴状は全て3桁区切り。裁判所提出書類は普通4桁区切りでしょ(笑))
通院慰謝料 32万1000円
死亡慰謝料 2800万円
逸失利益 2088万7911円
(74歳の平均余命11年、国民年金、厚生年金、老齢基礎年金312万1100円、企業年金138万7212円)
ライプニッツ係数7.722
入院雑費 52万8000円
弁護士費用 500万円
証拠保全 13万5942円
損益相殺(遺族年金) -188万8000円

訴外A 昭和8年○月○日生
平成19年9月21日に被告病院ICUで治療中。同院W医師の注意義務違反により、ベッドから転落。左前頭葉脳挫傷、左側頭葉骨折、左半球に外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫。
平成20年○月○日(約1年後) 肺炎で死亡。

平成13年○月 脳内出血→入院
入院歴
平成15年○月 脳内出血
平成18年○月 脳梗塞
平成18年○月(上記入院の1ヶ月以内) 脳出血
既往症 肺気腫

平成19年9月21日、頭痛訴え。血圧169/77、被告病院受診。
MRI、CT施行。ロキソニン処方。カルテに「10月再check」という記載あり。
午後3時頃デパートで食事。途中で急に具合悪くなった。椅子から立ち上がれず、意識薄れ被告病院に救急搬送。ICUへ。
救急外来でJCSII-10, 血圧207/97
18:40 頭部CT、右側頭葉出血性梗塞
20:00 不穏あり。看護記録「ストレッチャー上危険にて抑制帯す」
(病院から反論、19:20とのこと)
20:00 ICUへ。看護師の掛け声に対して時々眼を開けるのみ。
ICU1名、HCU1名、フリー1名の計3人看護体制。ICUは大部屋6人+個室2室。
巡視は1時間に1回、1人の看護師がした。
ICU入室時、救急看護師より、突然起き上がるとの申し送りがあり、抑制帯の準備がなされた。
21:30 Aが起き上がり、ベッドで四つん這いになっていた。オムツに失禁。看護師が確認していた。おむつ交換を行うと再び入眠したため、抑制は行われず、再度観察に。
22:00 看護師2名。別のICU入院患者のオムツ交換処置を行っていたところ、5分ほど経過した際にドスンと大きな音がした。ベッド足元からAが頭を下に転落していた。

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被告第1準備書面
原告は、「意識障害の悪化により、1年弱という長期入院を余儀なくされた」と主張するが、1年弱の入院は意識障害が原因ではなく、療養途中で大腸癌が見つかったり、肺気腫の悪化があったことが原因。

治療費未払 126万9040円

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甲B第4号証 協力医意見書から抜粋

平成19年9月21日受傷後CT
 (受傷前と比べて)左前頭葉に脳挫傷による脳内出血疑いの高吸収域出現。左半球と小脳テント沿いにくも膜下出血、わずかながら左前頭葉付近に硬膜下血腫が見られる。しかし翌22日に意識レベルI-3に回復。9時頃施行のCTで、脳挫傷に伴なう左前頭葉の脳内出血は増大しているものの、くも膜下出血及び硬膜下血腫の増悪は無いように見える。mid-line shiftや脳室変形など、左前頭葉の脳内血腫による占拠効果もそれほど著しくない。グリセオール保存的治療で経過観察したことには問題ないと思われる。
 急性期を脱して見当識障害など認知機能の異常が前面に出現し、頭部外傷による認知症に至ったと考える。
(鈴木二郎編集、最新脳神経外科p252引用)
 A氏は受傷時に75歳と高齢。若年なら軽微な外傷も、高齢で死亡する結果に至る可能性ある。
 一方A氏は、脳血管障害を繰り返し、かつ慢性閉塞性肺疾患に罹患するなど、血管系及び循環器系の合併症を抱えていた。これもA氏の致命傷になり得たと思われる。ただし、死に対して頭部外傷がどの程度寄与しているか、私には把握できない。

藤井聡医師(山形大学医学部生理学教授。ただし医師免許取得後5年余り脳神経外科在籍)

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訴状日付は平成21年8月18日
上記藤井医師意見書日付は平成22年2月2日

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甲A第25号証 原告陳述書 平成22年3月8日、最後の部分
「私には、夫がここまで原因は、ベッドから転落して、頭を打ったからとしか思えません。」

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和解金400万は高いよ,死刑囚失明訴訟

2010年5月5日

死刑囚が拘置所内での眼科治療の過失で失明したとして、400万円で和解になり報道された事件を閲覧してきました。事件番号は、名古屋地裁平成17年(ワ)第3228号です。

参考までに,そもそもの死刑になった事件は、マニラ保険金連続殺人事件

で,閲覧した感想なんですが,

1. 確かに「文句の付け所が無い治療」ではないかも知れないけれど,限られた条件下できちんと診ているし,レーザー治療も考慮しており,これが法的過失かと言われると,疑問符がつく。
2. 新聞記事と違って,最終矯正視力は右眼失明,左眼0.4
3. 鑑定では,遅滞なく治療されていた場合に,右眼が視力を維持できたか否かは30%だか60%だかの,相当程度の可能性程度の判断。
4. 鑑定では,右眼の加療は遅かったが,左眼についてはむしろ時宜に適った手術が施行されたとしている。
5. すると,先に悪化が進んでいた右眼は,最善の加療をされていても最終視力は0.4かそれ以下と推認すべきではないか。
6. すると,仮に過失と因果関係が明らかになったのだとしても,その慰謝料は「7級: 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下のなったもの」と,「9級: 両眼の視力が0.6以下になったもの」とを参考に,両者の差から大きく外れるということはないのではないか。
7. こちらの表によれば,裁判の場合の慰謝料は,7級で1000万円,9級で690万円。差額は410万円。
8. ところが,裁判所の和解案では,単に7級の自賠責金額1051万円を参考にして和解案が作られていた。

カルテのスケッチをメモするのに忙しくて,準備書面をしっかり読むほどの時間はなく,被告側の主張がどんなものだったか良く分からないですが,ちょっと大盤振る舞いの感が否めません。

原告代理人は柴田義朗弁護士ですよ…

ちなみに,今日見てきたもうひとつの事件も,原告代理人は柴田義朗弁護士でした。

さらに,今日名古屋地裁で弁論準備手続をしていた眼科の事例も,原告代理人は柴田義朗弁護士でした。

トウカイチホウ,ホンマニホンマニ,コワイトコロネ

(上記は、平成22年3月の日記を一部改変したものです)

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慶大病院、がん誤診で提訴される?

2010年5月4日

読んでもよく分からない医療記事が多い毎日新聞ですが、今回はわりとわかりやすい記事でした。しかしこれが過失だとか主張する理由はよくわかりません。

http://mainichi.jp/select/today/news/20100502k0000m040107000c.html

賠償提訴:「慶大病院、がん誤診」と死亡女性の両親
2010年5月2日 2時30分 毎日新聞

 慶応大病院(東京都新宿区)で治療を受け、がんの一種「子宮肉腫」で死亡した女性(当時26歳)の千葉県に住む両親が「担当医らの誤診が原因」として、大学側に賠償を求め千葉地裁松戸支部に提訴したことが1日分かった。同大医学部助手だった担当医や向井万起男准教授は「非常にまれな良性の偽肉腫」と診断し、約1年の経過観察中に学会報告もしていた。両親側は「早期の子宮摘出で助かる見込みがあった」と訴え、病院側は「過失はない」と反論している。

 向井氏は腫瘍(しゅよう)病理学の権威で同病院病理診断部長を務め、向井千秋・宇宙飛行士の夫としても知られる。

 訴状によると、女性は03年8月、子宮のポリープで病院を受診。切除した組織片を診た担当医と向井氏は翌9月、肉腫に見えても良性の場合があるとの海外論文などから「良性の偽肉腫が第1候補」と診断、組織片検査など経過観察にとどめた。女性は04年10月に大量出血し開腹手術を受けたが、肉腫が腹にも転移し手遅れの状態で同12月死亡。担当医は診断書に死因を「子宮肉腫」と記した。

 両親側は▽担当医に女性を引き継いだ別の医師は肉腫と診断した▽肉腫の疑いがあれば通常ただちに子宮を摘出する--などとして「担当医と向井氏は初診時に子宮摘出を決める義務を怠った」と主張。損害額は約6700万円に上るとしたうえで、その一部160万円の賠償を求めている。

 今年2月の第1回口頭弁論で病院側は、請求棄却を求める答弁書を提出。訴訟外で遺族に渡した文書では「当時の女性の体調で今回のような肉腫は普通発生しない」と指摘し、まれな良性の症例として学会で2度報告したと認め「良性の可能性があるのに子宮を摘出するのは暴論」と過失を否定した。取材に対し「係争中でコメントできない」としている。【西浦久雄】

 ◇遺族「治療の経緯明らかに」
 研究と治療を担う大学病院で女性が亡くなったのはなぜか。訴状で両親側は「もし偽肉腫なら世界でもまれな臨床診断例で研究的価値が高いため、あえて肉腫の診断・治療をしなかった」と指摘している。女性の母(65)は「娘の死を無駄にしたくない。治療の経緯を明らかにしてほしい」と訴訟に込めた思いを語る。

 「大病院だからと信じたら殺されちゃうよ」。死の間際に女性が漏らした一言が忘れられない、と母は言う。第1回口頭弁論では遺影を胸に法廷に入った。担当医や向井氏からは「肉腫の可能性はゼロではないが良性の線で治療を進める」と説明を受けたという。姉(36)は「黒に近いグレーと言われたら家族全員で子宮摘出を説得していた。医師の仕事は学会発表ではなく、患者の命を守ることではないのか」と憤る。両親側の谷直樹弁護士も治療の経緯に関し「医師の基本的倫理に反する」と批判する。

 これに対し病院側は遺族に渡した文書で「良性だから大丈夫などといった説明は一切していない。子どもを産みたいという女性の気持ちも考え最善の努力をした」と反論しており今後、訴訟でも同様に争うとみられる。

そもそもこのような微妙な腫瘍を、将来出産の希望があるにもかかわらず、それを説得して最初から取れというのは、極端な話、かの「富士見産婦人科になれ」ということに通じるように感じるのですが、原告代理人はそのことは考えているのでしょうかね?

それにしても不思議な裁判であり不思議な報道です。

・普通なら慶應大所在地の管轄である東京地裁に提訴するのが普通だと思うが、なぜに千葉地裁松戸支部に? 東京地裁で医療集中部でやられると勝ち目がないから、裁判官の当たり外れに賭ける作戦かな?

・6700万円の損害を見積もって、そのうち160万円の請求ってことは、とりあえずこの事件で裁判所の判断を見てから、あわよくば残りも、って作戦ですかね?

・本年2月に第1回弁論があったのになぜ今頃リーク? 最初の準備書面で早々に勝ち目がなさそなことがわかって、耳目を集めるためにわざわざリークしたのかな?

・なんで医師の名前が出る? (尤も、公開の訴訟になっているので、法的には問題ないと思われますが)

ちなみに千葉地裁松戸支部の開廷日は毎週金曜日。2月に第1回弁論があってこの時期にまた弁論期日があってとなると、次は6月~7月あたりでしょうかね? 報道だけ触れて、 実際の裁判を確認する術が無いのはもどかしいです。

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治療方法の説明義務違反で70万円?

2010年5月2日

(平成22年3月18日に他所で話題にしたものです)

 この説明義務違反はどうなのよ?? 記録閲覧しておらず、新聞記事だけでは大きなことは言えないけれども書いておきます。

10/03/17 毎日新聞社

室蘭の手術後死亡訴訟:市と執刀医に70万円支払い命令–地裁 /北海道

 ◇「説明怠った」

 03年に市立室蘭総合病院で子宮頸がんの手術を受けた後、がんを再発して死亡した室蘭市の女性(当時41歳)の遺族が「手術に過失があった」などとして、市と執刀医に計約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が16日、札幌地裁であった。杉浦徳宏裁判長は手術に過失を認めなかったものの、治療方法の説明義務違反があったとして、市と執刀医に計70万円の支払いを命じた。

 判決によると、女性は02年1月、子宮頸がんの治療のため手術を受けたが、03年1月に再発して死亡。杉浦裁判長は「執刀医の一連の治療に不適切な点はない」としたが、「治療方法として手術以外に放射線療法があったにもかかわらず、その説明を怠り、女性の自己決定権を侵害した」と指摘した。【水戸健一】

 で、私が某所に投稿したコメント2本。(一部改変)

司法過誤の可能性が極めて高い

 この裁判の問題は、1億円という高額の勝ち目がまずないのに、このような高額の提訴を請け負った原告側弁護士と、過失がないであろうに原告一部勝訴判決を書いた裁判官(注)による司法過誤である可能性が高いと思われるにも関わらず、その尻ぬぐい的賠償金を医療側の財布に求めていることです。司法関係者の尻ぬぐいまで医療のカネで行わせるなんて、こんなバカなことありますか?

注: 実際のところは、裁判記録を見ないことには断言はできません。

放射線治療のほうが予後が明らかに良いのなら

「放射線治療の説明をした方がよい」というのと、「放射線治療の説明をしなかったから賠償しろ」というのは全然別物です。

例えば、だいぶ前の裁判ですが、乳房温存手術の説明義務を認めた最高裁判決は、それを選択していれば乳房喪失という損害を免れた可能性があるのに、その説明をしなかったため、損害を低減できる可能性があったのにその選択機会を奪ったために認められたものと考えられます。

それに対してこの事例の放射線治療は、それを受けることによって、手術療法よりも損害を免れられた可能性があったかどうかが問題です。もし放射線治療のほうが延命していた可能性がそれなりにあるのであれば、今の裁判所の判断基準から言って一部敗訴は有りうるとしても、そのような可能性が極めて薄いのであれば、その説明をしなかったからといって賠償責任を認めることはできないとなるはずです。

 私は個々の医療裁判について、傍聴も記録閲覧もせずに報道資料だけで感想を書くことは滅多にしないのですが、この事件は非常に興味があるので中途半端ながら書いておきます。判決文を読む機会があるといいのですが…

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