医療訴訟の患者側勝訴率が急低下

 平成20年の医療訴訟の患者側勝訴率(正式には認容率という)が,裁判所のホームページに昨日発表されました。平成19年には37.8%であったのが,平成20年には26.7%へと大幅に低下しました。法律家,特に患者側弁護士からすれば,「一般の民事訴訟の勝訴率は80%を超えるのに,もともと低い医療訴訟の患者側勝訴率が,さらに低下するのは問題だ!」ということになるのかも知れません。

 しかしながら,最近提起されている医療訴訟の内容からすれば,まだまだ患者側勝訴率が高すぎるというのが私の印象です。そもそも裁判の結果で最も重要視されるべきは,個別の訴訟に法的に妥当な判断がなされているか否かという点であって,判決結果の集合である患者側勝訴率の高低を重視するような姿勢はおかしいのです。私はこれまで,そして今でも,医療者に対して不法な判決,あるいは不法とはいえなくても医療崩壊の原因となりうるような非常に厳しい判決が,少なからず出されていると考えます。今回患者側勝訴率が低下したのは,単に平成19年に比べると平成20年になってそのような問題判決が少し減ったからかな,という程度の印象です。平成21年には,そのような問題判決がさらに減少し,医療崩壊を止める方向に進んでほしいと考えています。


(↑裁判所ホームページ医事関係訴訟委員会より) 

 医療訴訟の患者側勝訴率が低いことを,「医療の専門性(医療の密室性,閉鎖性)」の問題に帰そうとする意見を,一部の患者側弁護士が発しているのを見かけることがあります。なるほど医療の専門性を超えて,医療者の法的責任を問うことが難しいのは理解できます。しかし,だからと言って,一か八かで闇雲に訴訟を乱発して当然顔をする弁護士が一部にいると思われるのは,如何なものでしょうか(この辺の事情は,患者側弁護士として活躍する,寺島道子弁護士のサイト「プロローグ」に詳しく書かれています。)。裁判所でじかに医療訴訟の傍聴および閲覧をしていると,「本人訴訟ならともかく,どうしてこんな無理筋を弁護士が請負ったんだろうか」という例を多数見かけます。それをまた,裁判所が正しく理解しないまま患者側勝訴判決を出したり,患者側勝訴的和解に持ち込ませる例が時折見られるのです。医療者は,医療者から見て「これが負けるようではやっていられない」というような事例が実際に目の前で負けて行くのを見て,医療者の立場からすれば「医療訴訟の専門性(医療訴訟の密室性,閉鎖性)」のために,医療者に責任がないと思われる裁判でも負けるのだ,とあきらめ続けていたのではないかとすら思います。

 幸いなことに実際には裁判は,公正さを担保する目的で公開原則の下で進められていくため,上記のように医療訴訟に重大な問題があると感じられれば,実際にその公正さを自分の力量の範囲内で検証することができます。医療訴訟は専門的ではありますが,決して密室で閉鎖的に行われているのではありません。しかしそれを知らずにできる限りの検証もせずに,裁判の結果だけを見て「不当判決だ!」と叫ぶ医療者は,ともすると「医療の専門性」を盾に,闇雲に訴訟を乱発して当然顔をする弁護士と同類ということになりかねません(尤もその場合でも,医療者の叫びは自らの死活問題であるのに対し,患者側弁護士の訴訟乱発はそれ自体が収益事業であるのですから,公平な対比ではないのですが。)。

 私はこれからも,自分の力量の範囲内ではありますが,医療訴訟の内容をできるだけ検証して報告していきたいと思います。このような活動が,不可解な判決の減少や,そもそも勝ち目のない裁判の提起の減少につながる一助になればと淡い期待をしています。そして医療訴訟が健全さを帯びるようになり,それによって患者側勝訴率が通常訴訟のように上昇するのならばそれはそれで良いことですし,さらに進んで,医療事故に対するより妥当な補償のあり方を考えるための材料になればと思います。

平成21年6月9日記す。


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