カルテ改ざん訴訟

(事件番号:東京地裁平成18年(ワ)第24347号,東京高裁平成19年(ネ)第3701号)

(「カルテ改ざん」を検索していらした方へ: こちらのカルテ改ざん訴訟が,より興味深いと思います。)

 病院が本物のカルテを開示しながら説明をしていたにもかかわらず、「カルテが改ざんされた」「本物のカルテを出せ」と原告患者女性が執拗に要求したため、病院側がさじを投げて「法的措置がなければこれ以上対応はしない」と原告に通告したところ、原告患者が提訴した裁判。裁判記録を見ると、原告側はすべての準備書面を手書き(誤字多数)で提出しており、弁護士のつかない本人訴訟であることがわかる。原告側はこれといった証拠も提出しておらず、単なる思い込みによる提訴と考えられた。

 一審東京地裁は、ごく短い判決文を示した。

 控訴審東京高裁は、患者の行動の問題点を指摘しながら、一審判決を支持した。

 原告は上告(最高裁判所)までしたが、ほどなく上告を取り下げて判決は確定した。

 医療関係者としてこのような患者を経験することは、ままあり得ると考え紹介することとした。

平成20年2月6日記す


一審(東京地方裁判所)判決文

平成18年(ワ)第24347号

主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 被告は原告に対し、金2000万円を支払え。

第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
 被告は、その住所地において、乙田大学付属病院(以下「被告病院」という。)を設置運営している学校法人であり、原告は、同病院にて診察等を受けた者である。
(2) 被告の不法行為
 《1》 カルテの塗りつぶし
  平成13年7月23日、原告が被告病院神経科外来で訴外丙川医師の診察を受けた際、同人のカルテ中、平成12年10月16日の部分が黒く塗りつぶされているのを発見した。
 《2》 カウンセリングについての説明義務違反
  平成15年6月9日に原告が被告病院においてカルテ記載のカウンセリングの内容について説明を受けられなかった。
 《3》 カルテの偽造
  平成16年8月5日に原告が被告病院でカルテを確認したところ、カルテ用紙が以前と異なり、カウンセリングの内容の記載もなく、検査結果用紙の貼付もなかった。
 《4》 被告病院の不誠実な対応
  原告がカルテの記載について説明を受けようと被告病院に行った際、診察券の機械での受付ができなかったり、受付で診察券を返されたり、カルテの開示を受けられないまま警備員によって同病院から退去させられた。
(3) 慰謝料請求
 被告病院医者等による前記(2)の各行為により、原告は多大な精神的苦痛を受けた。これを金銭に換算すれば、金2000万円に相当する。
(4) よって、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として金2000万円の支払いを求める。

2 請求原因に対する認否等
(1) 請求原因(1)は認める。
(2) 請求原因(2)はいずれも否認する。本件病院の医師等によるカルテの塗りつぶしや偽造はなく、原告に対してはカルテを誠実に説明をしてきた。
(3) 請求原因(3)および同(4)は否認ないし争う。

第3 当裁判所の判断
 1 請求原因(1)については争いがない。
 2 請求原因(2)について判断する。まず、カルテの黒塗り(請求原因(1)《1》)及びカルテの偽造(請求原因(2)《3》)については、本件全証拠を検討しても、これら事実は認められない。また、カウンセリングに関する説明(請求原因(2)《2》)については、証拠(乙1)によれば、被告病院職員が原告に対し、カルテを示しつつ説明していることが認められ、これに反する証拠はない。また、請求原因(2)《4》については、損害賠償を基礎付けるに足りる違法行為があるとは認められない。よって請求原因(2)に関する原告の主張はいずれも理由がない。

第4 結論
 よって、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第61条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第43部

裁判官 甲野太郎


控訴審(東京高等裁判所)の判決文の一部

2 請求原因(2)について
 証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)(2)(3)(4)略
(5)控訴人は、平成15年6月4日、被告病院に電話して、初診日及びカルテの記載内容を尋ねたが、これに対応した看護助手が内容について答えられないと返答したところ、執拗に要求を繰り返し、『病院で騒いでやる。』等の発言をしたため、被告病院では翌日医師により説明を行うと応対した。翌5日、控訴人は被告病院を訪れ、医師は控訴人に対しカルテを示して説明したが、控訴人はカルテが違うと言い、以後控訴人はカルテが改ざんされており、本物を見せるよう被告病院に要求するようになった。そして、本物を見せるまでは帰らないと新患診療室を離れようとせず、医師が退出してようやくその場を離れた。
 控訴人は、同月9日、子息とともに被告病院を訪れ、被告病院精神神経科医局長らはカルテ(乙1)を示して控訴人に説明したが、控訴人は、示されたカルテは偽物であり、本物のカルテを出すように要求し、説明に納得しなかった。当日控訴人に同席したその子息には、被控訴人側としては、控訴人の思い込み違いで、被控訴人に対して何を主張しても進展しないことの理解を得たと思ったが、上記子息としても、控訴人は家庭でも手に負えないので、被控訴人のほうで適宜対処してもらいたいという態度であった。そこで、被控訴人は控訴人らに対して『不満があれば、控訴人の方で法的措置を執ってもらわないと被控訴人としては対処はしない』旨伝え、被告病院から退去してもらった。さらに、控訴人は同年6月12日、翌平成16年3月30日、同年7月1日、同月8日(知人と共に)にも本物のカルテやその写しを要求して被告病院を訪れた。
 それのみならず、控訴人は平成16年2月26日には真相究明を求める書簡を被告病院に郵送し、上記同年3月30日に被告病院を訪れた際には、被告病院は控訴人が面談後退去しないため、警察署に協力を要請して控訴人に退去を求めたが、結局、控訴人は3時間も被告病院の医療連携室にとどまった。
 その後も、控訴人はカルテの開示を求める書簡を被告病院に郵送するなどしていた。
 本件訴訟にいたる経緯は上記のとおりであるところ、控訴人は、被告病院が控訴人のカルテを改ざんしたとか、カルテが黒く塗りつぶされていた旨主張する。
 しかしながら、控訴人のカルテとして被控訴人が提出した乙第1号証の体裁や記載内容からして、乙第1号証は控訴人が被告病院を受診した当時作成された真正なカルテと認めることができるから、被告病院がカルテを偽造したとか、カルテが黒く塗りつぶされていた旨の控訴人の主張には理由がない。
 また、控訴人は平成15年6月9日に被告病院においてカルテ記載のカウンセリングの内容について説明を受けられなかった旨主張するが、前記認定のとおり、被告病院精神神経科医局長は、同日、控訴人に対し真正なカルテ(乙1)を示して説明をしたが、控訴人は本物のカルテを出すよう求め、説明に納得しなかったのであるから、被告病院において説明をしなかったということはできない。
 さらに、控訴人は、被告病院には控訴人に対する不誠実な対応があった旨主張するが、前記認定の事実によれば、控訴人は、被告病院が真正なカルテを示して説明しているのに、それは真正なカルテではないとして被告病院に『本物の』カルテの提出を要求して被告病院に長時間とどまるなどしたのであって、被告病院に不誠実な対応があったとか、警備員が控訴人を退去させた行為が違法であるということはできない。
 よって、請求原因(2)に関する控訴人の主張はいずれも理由がない。


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