アヴァンギャルド癌治療訴訟

  事件番号 終局 司法過誤度 資料
東京地裁 平成18年(ワ)第27318号 和解 妥当 尋問メモその2その3

 3ヶ所の病院で早期の胃癌を宣告され手術を勧められたにもかかわらず,手術を嫌って漢方・気功といった特殊な治療法を施すクリニックに通院し,癌が進行して1年半後には末期癌となり最終的に死亡したため,そのクリニックを相手に遺族が起こした訴訟です。

 3ヶ所の病院ではいずれも表在型と診断され(0型のIIc~III,stage IB),この場合手術を受ければ少なくとも5年間生き続ける確率(5年生存率)は90%以上と考えられるにも関わらず,手術を嫌った患者が非手術療法を求めて探した結果たどり着いたのが ,切らずに漢方・気功で癌を治すという,一般の西洋医学とはかけ離れた科学的に立証されていない治療を行うクリニックでした。

 原告側協力医は,「早期癌で手術によって完治が期待できるのに,不十分な説明と非科学的な治療によって,正当な治療の機会が奪われた」と,被告医師の過失を指摘しました。

 被告側協力医は意見書で,「3回も一般的な治療について勧められたにも関わらず,それを拒否して特殊な治療を受け入れたのは患者の自己責任」と,患者自身の選択であることを強調しました。

 訴えられたクリニックの治療法に妥当性がないことには,一般の医師が見れば誰もが同意すると思いますし,この事例で慰謝料の支払いが認められるのもおかしくはないと思うのですが,さてそのような請求を「未知のことだらけの科学」である医学を対象に,どこまで認めて良いのかというと,難しい問題だと思います。

 例えば,今では当たり前になってきている「傷は絶対消毒してはいけない」という考え方(「新しい創傷治療」参照)などは,私が小学生であった30年前にはおよそあり得ない考え方でした。もし30年前に,傷は消毒しないで治すという当時にはありえない考え方で治療をして,残念ながら敗血症(血液中にばい菌が繁殖すること)に至り死亡するような事件があったらどうでしょうか。実際には敗血症の原因菌が傷とは関係のない場所から入っていたのだとしても,そのことをきちんと証明することができなければ,当時の常識から言えば「原因菌は傷から入ったと考える高度の蓋然性がある」とされて,今回取り上げた事件と同様に「傷を消毒しないなどという非科学的な治療で死亡,過失あり」として,敗訴する可能性が低くないと思われます。

 科学の世界では,どう見てもトンデモと思われていたことが,実はトンデモではなかったと大化けすることが,稀ながらあります。司法は,そのような「科学的には本当は正しかった」ことを排斥する権力を持っています。その最も有名なものがガリレオ裁判でしょう。また卑近な例では,高裁では逆転しましたが産婦大量出血死亡訴訟のように薬害肝炎患者拡大に一役買うような,医療に重大な影響を及ぼす判断を下すことも稀とは言えません。

 だからと言って,今回取り上げた事件のような非科学的な癌治療が,医師の治療の名の下に横行して良いものとも考えられず,裁判の限界と医療の限界を強く感じるところです。

 この事件は和解金1000万円で終結しました。和解で終結したから良かったものの,原告,被告のいずれかが和解を拒否して判決に至った場合にはどういう判決になったのか,興味もあり,また怖くもあります。

平成21年9月6日記す。


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