医療訴訟の原告の方へのアドバイス

医療訴訟,医療裁判に研究的に接して,感じたところを書き述べます。

1. 裁判官の当たりはずれが大きい。

 これが一番大きいかもしれません。患者側敗訴の判決で,法律や証拠に照らして判断がおかしい,という例は今のところ見たことがありませんが,患者側勝訴の判決の中には,無理に法律を曲解したり,無理のある証拠を用いて患者側を勝訴にしている判決を時々見かけます。特に地方の裁判所の判決にそのようなものがあり,もともと勝ち目の薄い例でも,あわよくば勝てることがあるようです。しかし昨今,医療裁判の厳しい判決が医療崩壊の主要因の一つであるとの指摘があり,そのような患者側に偏向した判断は徐々に減っていく予感がします。ともかく,医療裁判を起こすことは,裁判官の当たりはずれの要素が大きいバクチの面を持つことを肝に銘じましょう。

2. 弁護士の当たりはずれも大きい。

 医者がピンキリであるのと同様に,弁護士もピンキリのようです。普通なら勝てる裁判も,依頼する弁護士によっては負けてしまう場合があるようです。裁判所で傍聴していても,「この弁護士は鋭いな」とか,「この弁護士は頼りないぞ」とか,感じ方は色々です。

 また,先に述べたように,普通なら負けるはずの事故でも裁判官によって患者側を勝たせてくれるような特殊例があるので,それを呼び水にして「これは勝てるかもしれません」と説明する弁護士も,まれにはいるのではないかと想像します。例えば注射の合併症であるRSDという病気に関して,この方は裁判を起こして6800万円の和解金を得ています。しかしながら,理由は長くなるので省略しますが,普通に考えればこの病気にかかって裁判を起こしても勝ち目は薄いし,首尾よく一部勝訴しても200万円くらいの慰謝料がせいぜいと考えられます。東京地裁で先日傍聴したRSDの裁判などは,賠償額0円で和解になっていたほどです。そんな病気でも「6800万円を勝ち取った例がある」と説明されれば,患者側としては「ふーん,そうかぁ」と思ってその希望に賭けたくなるかもしれません。この病気での6800万円和解について「あれは例外。普通はそうそう勝てない」と正直にアドバイスしてくれる誠実な弁護士ならば良いのですが,なにしろ6800万円の訴えの場合に弁護士が得る着手金は標準的には273万円にもなるので,着手金の273万円だけでも取れるなら,負けてもいいから請け負おうかな,と考える弁護士がいてもおかしくはないように思います。

 弁護士選びは,医療機関選びと同様に,くれぐれも慎重にする必要があります。特に,医療事故専門の弁護士に相談して「これは難しい」と自重を勧められるような例では,他の弁護士が請負ってくれそうでも本当に大丈夫か疑ってかかるべきです。

3. そもそも勝率が低い。

 普通の訴訟なら原告側の勝率は一部勝訴を含めて8割ほどですが,医療裁判は患者側が負ける例が多く,一部勝訴を含めても勝率が4割程度と格段の違いがあります。敗訴する事件の中には前項で述べたような,そもそも勝ち目がないのに着手金目当てに請け負われたという例も入っているかも知れません。また,弁護士に「これは勝つのは難しい」といわれたにもかかわらず,諦めきれずに弁護士を付けずに提訴をして(本人訴訟といいます),案の定負けた,という例もあるようです。

4. 裁判所の勝ち負けの基準と,患者が考えるものとにギャップが大きい。

 勝ち負けに大きく関係するのは,「明らかに不適切な治療をしたか」と,「不適切な治療のために障害が残った(あるいは亡くなった)のか」の二つです。この二つが揃わないと大きくは勝てません。結果が悪かっただけでは勝てません。ましてや「誠実な治療をしていなかった」などという漠然とした訴えは,勝ち負けにはほとんど関係がありません。

 ここで一つ目の「明らかに不適切な治療をしたか」の見極めが,特に難しいようです。治療方針というのは医者によって考え方がさまざまで,結果的にうまく行かなかったとしても,その治療が明らかに不適切だったかどうかは微妙な問題です。なかには高名な医師が「これは医療ミスだ!」などと助言してくれる場合があるようですが,そのような助言一つでは明らかに不適切だとは言えないどころか,むしろ特殊な意見として裁判所が取り合わない場合もあるようです。それは例えば,その高名な医師が普段行わない(けれども一般的には珍しくない)治療について,結果だけを見て「不適切だ」と言っているに過ぎない場合などがあるでしょう。そういうわけで,どこかの医師が「これは医療ミスだ,証言してもいい」と言っているからといって,それだけで勝てるとは限らないということです。この場合,その証言が裁判に意味のある「不適切」の意見であるか否かを,まず弁護士に判断してもらわないとなりません。どこかの高名な医師が「不適切だ」と助言したとしても,医師は法律には素人であるため,裁判所が賠償を認めるための「不適切さ」の基準を知らずに答えているとなると,それが裁判所が考える「不適切さ」に叶った「不適切さ」であるか否かは,法律家に考えてもらうしかないからです。

 ここは弁護士選びにも大きく関係しますが,この部分の判断をきちんとせずに,「不適切だったと証言してくれる医師がいるので,やってみましょう」などとそそのかしてくるような弁護士はダメです。医療裁判で患者側に立つ医師の証言を傍聴していると,こんなことを思うことがあります。「この医師は『不適切だ』と証言してはいるが,こんな証言で勝てるわけがないだろう。これで患者側が勝つと思っているのだとしたらこの弁護士は能力が低いな。あるいは勝ち負けを抜きにして着手金のために請負ったのだろうか,だとしたら患者は無駄な着手金を払ってかわいそうだな」と。

 もし,今現在医療訴訟に訴えて難渋している方がいたら,この点を改めて弁護士に確認してみたほうが良いと思います。

5. 最後に

 繰り返します。医療訴訟は裁判自体が苦労が多いものですが,弁護士から見れば請負った場合の負担が大きくても,訴訟の請求額が高額であるために着手金も高額にのぼる場合が多く,着手金だけでもかなり儲かることが多いことを理解しましょう。ヘタをすると,医療事故で傷を負っている上に,提訴はしてみたものの当然のように敗訴して「泣きっ面に蜂」になりかねません。どうかそのような無駄な戦いで大事なお金をさらに浪費するような結果を掴まないように,ご注意ください。また,今現在医療訴訟を起こしている方や,既に敗訴した経験をお持ちの方は,その訴訟の弁護士の活動に疑念があれば,弁護過誤の可能性をも念頭において,しっかり確認してみることをお勧めします。世の中では,医療過誤訴訟が起こされているのと同様に,弁護過誤訴訟も起こされています。弁護士を訴えることを請負っている弁護士も,実際に存在します。

追記

 以上,医師として医療裁判に関心を持つ私の意見ですが,患者側弁護士の意見としては,弁護士寺島道子の医療過誤訴訟の「プロローグ」のページをご覧頂くことをお勧めします。

平成20年8月24日記す。平成21年4月10日、軽微な修正。平成21年6月21日,追記。平成22年11月28日,追記を修正


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