医療問題弁護団問題 ~4~

 医療問題弁護団は、民間医局という医師のための転職斡旋サイトに、「医療過誤判例集」として月1回の連載を請け負っています。先例価値がどれほどかも分からない高裁・地裁の1判例から、医療側にやたらと義務を示そうとするその連載物そのものには、私自身は余り関心がなかったのですが、あるとき、判例集としては不適切な掲載事例があったため、民間医局に対して以下のようにメールを送信しました。

御社雑誌ならびにサイトに連載されている「医療過誤判例集」について意見を述べさせて頂きます。最新号に掲載された判例に問題があるからなのですが,あわせて従前より考えていたことを書かせて頂きます。

最新号に掲載された「せん妄のある入院患者への身体拘束が違法とされた事案~身体拘束の適否の判断~」は,今頃になって掲載するには不適切な判例です。なぜなら,1ヶ月ほど前に最高裁判所が上告審の弁論を開くことを決定したためです。
裁判の仕組みを知らないと難しい話ですが,上告審の弁論を開くということは,高裁判決が取り消される可能性が極めて高いことを意味します。医療問題弁護団の弁護士が,この事件の上告審の弁論が開かれるという事実を知らなかったのだとしたら,それは医師が最新の重要知見を見逃していたのと通じるものがあり,大きな問題です。また,この事実を知りながらも高裁の判断を説くことによって,記事を読む医師を感化しようという策略であれば,効果のない治療法を宣伝して感化しようとすることに通じる,狡猾な行為と言わざるを得ません。
この点について担当者にきちんと確認し,釈明したほうが良いと考えます。この件については,後日拙サイトでも「医療問題弁護団問題」として取り上げたいと思います。
http://www.orcaland.gr.jp/kaleido/iryosaiban/
ちなみにこの拙サイトでは,加古川市民病院事件をはじめとするいくつかの重大事件について,問題点を取り上げております。

その他の問題を記していきます。

そもそも「医療過誤判例集」という題名が良くありません。「過誤」か否かはその事例の内容によるのであって,医療訴訟全例に過誤があるかの如き題名は如何なものでしょうか。実際に,責任認定されなかった例も掲載されており,その場合には「医療過誤判例集」という題名は不適切です。

次に,但し書きの「判例の選択は、医師側もしくは患者側の立場を意図したものではなく、中立の立場をとらせていただきます。」という部分が,さも「中立の立場から解説している」という誤解を与える表現になっていることに問題があります。なるほど判例の選択はそうかもしれませんが,その内容は患者側に偏ったものと感じることが多々あります。

端的に言えば,「医師対象の雑誌・サイトで患者側弁護士に連載させるのは如何なものか」ということになります。
私は医療訴訟に研究的に接し,問題点を探ることを趣味としており,先述のようにサイトで批評を展開していますが,医療問題弁護団をはじめ患者側弁護士が,医療過誤ならぬ弁護過誤の疑いが極めて大きい弁護活動(勝ち目がない訴訟提起)をしているのを目にすることがあります。そのような彼らですから,解説が法的に的を射ていない場合が多くても不思議はないと思います。

 これに対して編集部から返事が来たので、調子に乗ってもう一通メールを書きました。

早速のお返事ありがとうございます。
実は私は,「医療過誤判例集」すべてについて精読しているわけではありません。時間的制約ということもありますが,それ以前の問題として,そもそも民事訴訟の判決一つ一つは,原則として当該事件に対する判決なのであり,そこから一般論を広げるためのものではないのであるから,個々の事例をそう大きく参考にするほどのものでもないと考えているからです。
「医療過誤判例集」では,患者に有利な結果を得た判決一つをとって,さも一般的にその判決で指摘された注意義務が要求されるかのような解説が多いことに辟易しています。医療問題弁護団の弁護士は,ことあるごとに「裁判例から学んで再発防止を…」などと語りますが,単なる一例報告である一個の裁判例をもってそこまでの一般化をすると,私が死神判決と呼んでいる,産婦大量出血死亡訴訟
http://www.orcaland.gr.jp/kaleido/iryosaiban/S44wa1117.html
のように,かえって健康被害を拡大する結末を呼ぶ場合があります。
ちなみに最高裁判決は例外で,それ以降の下級審(高裁,地裁)の判断の規範となることになっているので,最高裁判決から学ぶことは,訴訟対策としては意味があるものです。しかしそれでも,現場が到底承服できないような最高裁判決もあるのですから,それをそのまま受け入れて医師に注意義務があることを当然のように書き連ねるのは,決して医療関係者のためにはなりません。

私は3年前からおおむね週1回,主に東京地裁で医療訴訟の傍聴や記録閲覧をしていますが,「あなた方が医師のことを言えるのか」とつい言いたくなるような,医療問題弁護団弁護士による弁護過誤と思しき医療訴訟を見ることがあります。その中でも特に気になっていたものが先日結審したようなので,近々記録を閲覧して拙サイトで紹介するつもりです。その訴訟では,提起前にきちんと原告協力医に聞き込みを行っていれば,勝ち目がないことが容易にわかったはずであるところ,提起から1~2年も経ってから行われた証人尋問で,わざわざその原告協力医から敗訴を決定付けるような証言を引き出していました。
訴訟提起前の調査が不十分だったわけで,同様に医師が手術前にきちんと検証せずに手術を行って失敗すれば当然非難の対象になるものです。
加古川市民病院事件や,大野病院事件についても,最近になってまたいろいろと声明を出しているようですが,「自分に甘く,他人に厳しい」医療問題弁護団に,まともに耳を傾ける医師はいないと思います。

医師も人間ですからミスもするし,また問題点はもちろんたくさんありますが,弁護士や裁判官とて人間ですから同じことなはずです。しかも司法も医療と同様にその場に集まる情報と人間によって結果が左右される不確実なものであり,現場の判断ミスなどは医療に負けず劣らず多くあるはずのものであるところ,そのような事情が医療でも同じであることを感じることもせずに,一方的に医療者にばかり義務を科すような彼らの記事にはうんざりだというのが率直な意見です。

 今回記事は、上記メール2通の提示をもっておしまいとしておきます。

平成22年6月13日記す

医療問題弁護団問題: ~1~~2~~3~、~4~、~5~~6~


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