癒着を剥がそうとすると出血する脳動脈瘤をクリッピングした際の合併症で争われている事例

2021年12月17日

昨日の横浜地裁医療集中部。脳神経外科の、脳動脈瘤クリッピング術の事例、被告病院の担当医の尋問。

一過性脳虚血発作があり、複数の未破裂脳動脈瘤が発見された。クリッピング適応と判断されて、十分な説明の上で手術施行。動脈瘤にアプローチしたところ小脳テントと癒着しており、癒着を鈍的剥離しようとしたところ尋常でない出血があり、剥離することができなかったと。癒着は広範囲で、3ヶ所から剥離しようとしたが、いずれの場所からも出血してしまったと。ただしテンションを加えるのをやめると自然に止血したと。それでもできるだけの剥離をして、動脈瘤の上や裏等を見て後交通動脈がないことを確認して(ただし起始部は確認できず)、頸部クリッピング施行、後交通動脈を恐らくは挟んでいないと考えて手術を終了。手術室で待機していたところ麻痺を認めたため、再開頭して頸部クリッピングをはずし、体部クリッピングを施行。

 損害(後遺症)はその日の尋問からは不明。本人は生存、その後9年半に渡って出血は発生していない。

 原告側からは、頸部クリッピングして瘤体部の血液を意図的に出血させて瘤を縮小させれば後交通動脈の起始部が見えたのではないかとか、術中にMEP(運動誘発電位モニタリング)を施行して確認すべきだったとか、ミラーを使って後交通動脈の位置を確認すべきだったとかの主張。担当医は、いずれもリスク要因にもなることで、そこまではせずと。傍聴した限りでは、極めて異例の動脈瘤の癒着事例で、剥がそうとすると出血するという状況ではやむを得なかったのではないかと感じさせられた。

 癒着の3ヶ所の剥離アプローチでいずれからも出血した原因はとの問に、担当医は、今にして思うと癒着部に新生血管が発生していたのではないかと想像するとの答え。ただしその考えは数ヶ月前に着想したものであり、これまでの被告側の主張には記載していなかったという。

 何にしても、ただでさえ生死が隣り合わせである手術を請け負って、始めてみたら想定外の事態があり苦戦を強いられ、うまく行かずに後から手術時の短時間での決断に文句を付けられるとなると、これはやっていられないということになるでしょうね。こういう例を見ると、医療訴訟をめぐる法曹の仕事ぶりについては、瞬時とはおよそかけ離れた仕事であるだけに、より厳しい目をもって批評をしたいとの思いを強くするばかりです。

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