2012年2月の記事

宮川光治最高裁判事、本日退官

2012年2月27日

先日、光市母子殺人事件最高裁判決で、破棄差し戻しの反対意見を書いたことで一躍有名になった、弁護士から最高裁判事になった宮川光治裁判官が、本日退官です。それ以前にも、学校行事での国歌斉唱の不起立問題の事件では、処分に反対する意見を書く等で耳目を集めました。それらの事件に対する判断は、私には荷が重いので、評論を控えざるを得ません。

私にとっては何と言っても、日航機ニアミス事故の最高裁決定の補足意見で、「緊張感をもって,意識を集中して仕事をしていれば,起こり得なかった事態である」と書いたことが衝撃的でした。他の判決文での宮川判事の文章は、私にとっては判決文よりも、弁護士が裁判所に提出する準備書面を思わせるものでした。判決文を書く訓練を受けていない者が、いきなり司法の最高機関である最高裁の判事になるという今の仕組みに問題はないのかと、強い疑問を抱かせる事件でした。同じようなことは他の組織では到底あり得ないことでしょうから。

なにはともあれお疲れさまでした。退官を喜ばしく思います。

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嘘つくんじゃないよ! 話したことないんだから!!

2012年2月22日

似たような題名の投稿が続きますが、本日傍聴した事件です。

歯科の治療がうまくいかなかったと主張して提訴したらしいのですが・・・

被告代理人が被告医院の歯科衛生士に対して、患者(原告)にどんな説明をしていたのかを尋問している途中、突然原告本人が、

「嘘つくんじゃないよ! 話したことないんだから!!」などと絶叫しだしました。

しかもこの事件、前回日記と違って原告代理人がついており、この絶叫は原告席ではなく、傍聴席で傍聴していた原告からなされたものでした。

これに対して被告代理人や裁判長から注意があるも、原告代理人は沈黙・・・

尋問再開してしばらくすると今度は、引き続き傍聴席に陣取る原告が、背筋を伸ばして挙手。「ちょっと・・・」

ここで裁判長、強い注意。「前にも言いましたが、傍聴席で発言したり・・・これ以上話したら退廷してもらいますよ」と。

再度尋問開始するも、またしばらくして挙手。「ちょっといいですか?!」

裁判長「ダメだと申し上げたはずです」

その後も、声をあげて笑ったり、携帯電話を鳴らしたり、ときには傍聴席の前の柵を握りしめて証人を見つめたりと、なかなかにすごい光景でした。それをまた原告代理人が注意もしないものだから、休廷時間に入るときに裁判長から、原告代理人に対して、原告本人に注意するように指示がありました。

しかし、この尋問で一番面白かったのは、被告関係者に対する被告代理人の質問に対して原告代理人が、

「異議あり! 誘導尋問じゃないですか?!」

というツッコミを入れた瞬間でした。

・・・

・・・

・・・

被告関係者に被告代理人が質問するんだから、被告に有利に質問するのが当たり前だろうが・・・

追記:

私の素人理解と違って、主尋問(味方側の尋問)での誘導尋問は、正当な理由がない限り違反であるとのご指摘を受けました。ただしこの異議が発せられたタイミングは、尋問の最初のほうの、被告側が主張する事実経過の確認段階のもので、わざわざ異議を挟むような場面ではなかったようにも思います。しかし私の素人理解が誤っていたことは明らかで、ここに追記をする次第です。

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嘘を言わないと言ったじゃないですか!

2012年2月15日

東京地裁で今日傍聴した事件です。原告席には濃いサングラスの女性が一人・・・

本人訴訟でした・・・(汗)

眼瞼下垂手術後の不具合を訴えているようで、眼科医の私としては注目するところです。
本日の尋問は被告医師本人。まずは「良心に従って、真実を述べ、何ごとも隠さず、偽りを述べないことを誓います。」と宣誓。
美容目的前提ではない保険適用の手術。裁判前か裁判中の調停では、第三者(と思われる)の先生が、「手術前の瞼の皮膚切除予定4mmは適切、追加切除も1mmくらいで適切だった」と、手術に問題はなかったことを指摘した模様。原告は、瞼の皮膚を1cmも切られたと主張しているようだけど、これについても、第三者の医師から、「1cmも切除すると普通は閉瞼できなくなるはずであり、ちゃんと閉瞼できているので、それはなかった」と指摘されているようでした。
原告の訴えはよくわからなかったのですが、術後のひきつれ感とドライアイ、視野狭窄のことは述べられていました。
手術前に 4mm幅の切開予定線を書いて撮影した写真がカルテに入っていたようでしたが、原告の主張によれば7-8mm幅の切開予定線を書いて撮影した写真がどこかにあるはずだと。
被告医師は「写真は渡したものだけだと思う」と証言していました。
原告は「ちょっと待ってください! 嘘を言わないと言ったじゃないですか!」などと叫び、それを裁判長や被告代理人弁護士から制止されていました。
その後にも、
「終始一貫して、私を悪人のように扱った!」とか、
「悪意のカタマリで、私にこういうことをしたんだとわかった!」とか、
そんなようなことを叫んでいました。いろいろあったのですが、メモが全然追いついていません。
裁判長や被告代理人から、「ここは主張する場ではなくて、質問する場ですから、質問をしてください。」と諭されると、
「人間の心をお持ちなんですか?!」とか、

 

「私を悪人扱いしたのはなぜですか?!」とか、
そんなような質問をしていました。
最後には裁判長が、「尋問としては、以上で」と、サラリとおまとめになりました。
皆さんご苦労様でした。
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弁護士は、嘘を通そうとすることがある

2012年2月7日

御殿場事件で、強姦未遂で服役終えた元少年4人が、事実無根だと、被害者女性を相手取り提訴したそうです。以下、読売新聞記事です。

静岡県御殿場市で2001年9月、少女(当時15歳)に乱暴しようとしたとして強姦未遂罪に問われ、最高裁で有罪が確定して服役した当時16~17歳の元少年4人が、「虚偽の被害申告などで有罪判決を受け、精神的苦痛を受けた」として、被害者とされた女性に計2000万円の損害賠償を求める訴えを静岡地裁沼津支部に起こした。
提訴は昨年12月21日付。訴状によると、元少年らは「強姦未遂の事実は全くない」と主張。取り調べや公判などで女性が虚偽の証言を撤回しなかったため、有罪判決で服役し、精神的苦痛と財産的損害を受けたなどとしている。
(2012年2月6日11時48分  読売新聞)

私自身はこの事件の判決文を読んで、裁判所の判断は正しいと感じたのですが、それはさておいて、以下は一般的な話です。その仕事のあり方からいって、弁護士は時として嘘を押し通そうとする場合があるという事実を確認しておきたいと思います。

医師が自分で違っていると思う診断を主張したり、裁判官が自分で違っていると思う判決を書いたり、検察官が自分でシロだと思っている人を起訴したりすることは、極めて特別な例外を除けば無いでしょう。これら三者が間違いを犯す場合というのは、誤った認識を持ったことによって犯すのであり、わざわざ自分の思いに背いて犯すものではありません。

ところが弁護士は、刑事事件で被告人がクロだと思いながらもシロだと主張したり、民事事件で勝訴は極めて難しいと思いながらも受任したりということがあり得ます。これがどの程度追求されるべき問題なのかは、私には判然としません。

御殿場事件についてこれを声高に主張しようというものではありませんが、かつて、北陵クリニック筋弛緩剤点滴事件について調べたときに、上記のことを強く感じたので、今回の提訴報道を見て、改めて上記の問題点を確認する次第です。

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