2021年6月の記事

民事訴訟、揺さぶられっ子症候群(SBS、揺さぶり症候群)の事例

2021年6月24日

2021年6月17日に東京地裁医療集中部で、尋問を傍聴した事件です。以下傍聴メモと後述の症例報告論文に基づいた記述になります。

事案の概要をかいつまんで書くと、

2017年(以下、年を省略)


生後6ヶ月ごろ、おすわりができるようになった。事故以前にも突然後ろに倒れて号泣することが少なくとも2回あった。

生後7ヶ月のある日(事故当日)、家のリビングでおすわりして父と対面で遊んでいたら、急に背中側に倒れて号泣。あやすために抱きあげて背中をたたく。そのうち両手足の力がなくなり目もうつろに。

18:15 救急車を呼んだ。救急隊から心臓マッサージの指導受けて親が施行(ここまで家族供述)。

18:21 救急車到着
病院で頭部CT→最初の報告では異常認めずと。しかし家で親が心臓マッサージをやるような事態であり、ICUに入院。体重8kg。

事故2日後、平日になってスタッフが揃い、CTを再確認すると2x3x3mmの硬膜下血腫を認めた。院内の子供の安全対策室に連絡。

事故2日後または3日後
全身レントゲン→異常なし
眼科検査→追視良好だが、両眼底出血あり。程度は高度ではないが多層性出血があり、単発ではないと判断。
頭部CT→硬膜下血腫少し増加。症状は問題なし。

事故3日後、家族に説明。
病院の記録に残る家族の言動
「転倒しただけでこんなことになるのか」「揺さぶったということはあった」→虐待という言葉も出たので違和感あり記載した。(医師の供述)
同日、児童相談所に通告

事故6日後

8:19 PR180に上昇。泣いていた可能性は否定できない。
(峰村注:9:19の聞き間違いかもしれない。)
9:05-9:10 SpO2(の記録)が途切れている。
9:33- SpO2(の記録)が途切れている。看護師がケアをしているとかあると思う。
9:37- PR低下(150から低下した)
9:40 ベッドの柵に頭をぶつけた。
痙攣再発、硬膜下血腫増悪。眼底出血も悪化。増悪の原因は不明。
面会時間は早朝8:30までと、11:00からであり、このイベント発生時は面会時間外。


法医学医師「何らかの傷害が考えられる」と。

その後5ヶ月間にわたり子供が一時保護された。
その後児童相談所から親が何らかの指摘を受けたのは、児童相談所の職員が自宅に来て、ベッドに柵を付けられないことはやむを得ないと確認されたことのみだった。
今は健康に過ごしている。

——————————–

事故6日後には病院でICUにいたのに血腫増悪。もし頭蓋内血腫や眼底出血が虐待でなければありえないというのなら、事故6日後の増悪について病院内で(スタッフなどから)虐待を受けた事態も考えないといけないと思うんですけど、あくまでも親の虐待ありきといった対応をし続けたのは、問題があるのではないかと感じました。しかも事故6日後のことについても、親が手を出していたのではないかという趣旨の尋問していて、どうなのかなぁ、と。ICUで面会時間外に親が虐待したというのは、なかなか考えにくいようには思います。


そもそも私自身はSBS症候群の考え方自体があまり飲み込めていないんですけど、子供によっては、虐待とかに限らず、わりと簡単に硬膜下出血や眼底出血が起こるんじゃないかと空想しますが…

原告側からは、この事例の学術報告をした青木信彦医師が証人として登場。その学術報告は以下で全文閲覧可能。CTや眼底写真とかも載っています。
https://www.researchgate.net/publication/340303440_Infant…
これを見ると、硬膜下血腫も、眼底所見も、入院中の増悪が目につく印象です。
そうであれば、まずはその間滞在していた病院内の、スタッフによる虐待を疑わないでいいのだろうかという気になります。SBS理論の「硬膜下血腫と眼底出血を見たら虐待を疑え」というのは、要するにそういう考えを持てということだと思うのですが。


この訴訟は引き続き追いかけようと思います。

#令和2年7月13日、青木信彦医師の敬称が抜けていたのを修正。

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