2018年12月の記事

弁護士は懲戒請求ぐらいでガタガタ言うべきではない?

2018年12月23日

大元は,「ぽぽひと@常時発動型煽りスキル持ち」(平成30年12月23日時点での呼称。以下,ぽぽひと先生と記す)という弁護士の先生のツイートです。

「医療過誤訴訟における医師の被害妄想でありがちなんだけど、実際は医療事故で医療側が敗訴するケースの何倍ものケースで医療側が勝訴してるし、その何十倍も訴訟提起すらせず断念してる事案がある。」

とのことです。確かに,以下の最高裁発表の資料によれば,医療側が勝訴するケースは医療側が敗訴するケースの3~5倍程度となっています。

地裁民事第一審通常訴訟事件・医事関係訴訟事件の認容率

また,「その何十倍も訴訟提起すらせず断念している」という点は,統計があるのかどうか知りませんが,少なくともあながち間違っているともいえないだろうという肌感覚を私も持っています。

ぽぽひと先生は,「医師の被害妄想」だと述べられました。引用元ツイートには「世界一産婦が死なない国であるのに,死ねば産婦人科医は訴えられて負ける」と書かれており,訴訟リスクへの不安を述べたものと考えられるところ,それは被害妄想だということのようです。

このやり取りには若干の齟齬があるように思われ,全てをそのまま受け取るのは適切ではないと思いますが,少なくともぽぽひとさんが「医師の訴訟にまつわるリスクは高くない」ということを言っていると捉えて良いだろうと思います。

ところでここに,弁護士に対する懲戒請求事案の集計がありました。

懲戒請求事案集計(平成5年~平成29年)

これを見ると,懲戒請求された件数に対して,実際に懲戒された件数は概ね3%台と,極めて低いようです。細かく見るとさらに指摘できる点はありますが,ざっくりいって医師の訴訟リスクと比べて特段高いリスクということはないと言えそうです。

昨今話題になっている,北周二先生,佐々木亮先生らに対して内容不明の大量懲戒請求がなされた事件は論外と思い,私も一部カンパをさせて頂きましたが,そういう異様な事例は別として,基本的には懲戒請求は弁護士が意に介するほどのものではないと考えて良さそうです。しかも医師が訴えられれば医療の素人である法律家に裁かれ,多くの医師が到底承服できないような内容の判決を出されることがあるのに比べれば,懲戒請求は同業者による評価がなされるものであり,その点でも心理的な負担は軽いだろうと思います。

もっとも,私の考えでは,たとえ同業者による評価を受けるものであったとしても,負担は決して少ないというものではないと思っています。私が傍聴した以下の弁護過誤訴訟では,被告(弁護士)に敗訴する理由が到底あるようには見えないにもかかわらず,「これ以上被告乙1として,原告の請求に煩わされる時間が増えれば,事務所経営者として業務上取り返しの付かない損失を被る危険が」あると主張されており,少なくとも時間的負担は少なくないだろうとの印象を持ちます。

魅惑の弁護過誤訴訟・結末編

ぽぽひと先生は,医師が訴えられれば,異業種の素人に全てを説明しないとならず,大変な負担であるという現実に,少しは配慮した発言はできなかったのかなと思います。

また,医療訴訟について触れるのであれば,中には本当にとんでもない事例があるという現実も知ってもらいたいと思います。最悪の例は以下のものです。

大橋弘裁判長トンデモ訴訟指揮事件(法律家向けバージョン)

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