不要な点眼処方は暴力行為だ!

  事件番号 終局 司法過誤度 資料
一審東京地裁 平成23年(ワ)第348号 和解平成23年6月14日
(確定)
妥当  

 緑内障になるからと言われて緑内障の点眼を処方され続けた患者が、他院に受診したところ緑内障ではないと言われて、怒りを抱いて提訴した事件です。我々眼科医から見ると、緑内障は医師によって診断・治療についての見解が大きく異なる場合が少なくなく、その見解の相違からトラブルになりやすい病気と考えられます。さてどのような事件だったのでしょう。

 自宅で転倒し左眼のまわりを打撲した原告が、被告医院を受診したところ、眼圧が右22、左48(mmHg、以下略。通常は15前後が多い)と極端に上昇し、また眼球内に炎症が見られたことから、ポスナーシュロスマン症候群(眼圧が上昇して緑内障を引き起こしやすい)または糖尿病虹彩炎の疑いとして、炎症を抑える目薬を処方されました。ところが翌日も左眼眼圧が45と高値であったため、眼圧を下げるための薬を4種類まとめて処方されました。初診3日後にも左眼眼圧は52で、眼圧を下げるための内服を処方されました。初診5日後にようやく左眼眼圧は14となり、事なきを得て、眼圧を下げる点眼は2種類に減らされました。

 その後、約4ヶ月間の自己判断による通院中断があり、久しぶりに受診(再初診)すると、眼圧は右24、左26と上昇していました。2種類の眼圧を下げる点眼を再開し、その後も左眼圧が25を上回ることが4回ありましたが、緑内障の所見は現れないまま、約2年8ヶ月が経過しました。

 その2年8ヶ月後に他院を受診し、眼圧は正常で緑内障の所見はなく、緑内障ではないと言われて、患者が怒ったようです。しかし被告医院での診療と投薬は、専門的にはいろいろと議論できるところはあるとしても、法的過失と評されるような問題がないことは、普通の眼科医が見れば明らかだと思います。

 しかるに患者とその夫が原告となり提訴しました。しかも代理人がついていました。やまと法律事務所の後藤栄一弁護士で、そのサイトでは医療訴訟も取り扱い事件の一つに挙げられています。しかしこう言ってはなんですが、その訴状を見ると、こんな訴状を弁護士が書くのかと思わずにはいられないものでした。

 曰く、再初診時に、根治せず失明に至る緑内障と告知し、原告らを絶望に追いやったとか、そのために患者は自殺未遂に至ったとか、被告は必要がないのに緑内障薬剤を投与し続ける暴力行為を行ったとか、必要がないのに逆さまつ毛を抜くという暴力行為を行ったというのです。患者は失望のために自宅を飛び出して自殺未遂をしたと主張するのですが、いつどの時点でどのようにして自殺未遂をしたのかについては、言及がありませんでした。

 さて、これに対する被告の反論にも驚かされました。なんと患者には認知症が疑われるというのです。患者は単独通院が困難で、通常は夫に付き添われて通院し、たまに一人で受診すると帰宅が困難となり、医院のスタッフが介助するというのです。また、休診日に来院してしまうこともしばしばあり、更には、行方不明になった患者を夫が探しまわる姿を、医院のスタッフが何度となく目撃しているというのです。

 してみると、患者が失望して放浪したという原告側の主張も、実は認知症による放浪ではないか、などと軽く考えながら読んでいると、これは法律的には単なる笑い話では済まないことのようなのです。もし患者が本当に認知症であるとなると、患者には訴訟能力がないことになり、その場合は成年後見人等を選任した上で、その成年後見人が弁護士に依頼しなければならないのだというのです。訴訟提起前の両者の面談では、患者は精神科にも受診しており、診断書を取ることができるという話も出ていたそうです。

 「暴力行為」に関しては、「暴行」を如何に定義付けようとも、被告の治療内容が暴行に該当しないことは明らかで、原告の主張は極めて不適切だ、と切り捨てていました。ちなみに請求額は、患者が300万円、夫が150万円でしたが、この夫の慰謝料についても、被告側から、何が不法行為なのか特定しろという茶々が入っていました。

 これらの被告側の反論に対して、原告側は再反論しましたが、これまた目を覆うばかりの主張が散りばめられていました。被告は緑内障診断に必要な細隙灯検査(眼科で顎を乗せて眼を見られるアレです)をしていないとか、○月○日と○月○日はそもそも受診していないとか主張するのです。いや、カルテを普通に確認すれば、細隙灯検査もしているし、○月○日と○月○日も受診していることは一目瞭然なんですけど・・・

 とにかく、訴状といい、その後の主張といい、原告側が眼科医に相談していないか、相談してもそのアドバイスを無視している可能性が極めて高いと考えられました。書面もアレですが、原告側はそもそも一体どういう下調べをしたというのでしょう?この事件を受任した弁護士には、医療訴訟を何だと思っているのか、と詰問したいですね。

 認知症については、患者には訴訟能力があると思って受任している、次回期日に同行する、というのでした。

 そしてその同行した期日に、和解となりました。和解金のないゼロ和解でした。当たり前ですね。被告の反省文言なども入っていませんでした。全く馬鹿馬鹿しい訴訟で口あんぐりです。

 実は原告側には代理人がもう一人ついていました。弁護士番号が4万番台の若手弁護士だったようです。ところが、その弁護士番号を日弁連の弁護士検索で検索してみたのですが、ヒットしませんでした。弁護士をやめられたのでしょうかね。なんだかいろいろな想像をふくらませてしまう事件でした。

(以下、眼科医の先生に追記です)

眼周囲打撲は、写真から眼球ではなく眼窩骨と思われました。最初の点眼はリンデロンAのようでした。翌日の眼圧下降薬は、チモプトールXE0.5%, キサラタン、トルソプト1%、デタントールでした。3日後の内服はダイアモックス、アスパラKでした。減薬した後の2種類の点眼は、チモプトールXE0.5%とエイゾプトでした。

平成24年5月24日記す。平成24年10月29日、病気の説明を追記。


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