東京脳梗塞見落しカルテ改ざん訴訟

  事件番号 終局 司法過誤度 資料
一審東京地裁 平成19年(ワ)第26540号 判決平成21年3月18日 妥当 判決文
二審東京高裁 平成21年(ネ)第2051号 和解 妥当  

 ある日,当サイト各ページ下部に設置されているメッセージ欄から,「本文公開可」として以下のような興味深い文章が寄せられました。(赤文字強調は筆者による)

村田渉判事を尊敬しておられる眼科医殿

前略ご免下さい。貴サイトを拝読し、メールをお届けさせて頂きました。私は、今般、貴方様が尊敬する村田渉裁判長から一審判決言い渡しを頂戴した者です。メールでは詳しい内容を記載することが難しいので省略させて頂き、ただ一つだけお伝え致したいことがございます。どうぞ、出来るだけ早いうちに、村田渉裁判長の眼をご診察して差し上げてください。私が訴訟提起した事件においては、中立・公正であるべき眼(まなこ)が曇っておられましたことを明言致します。これは、決して冷やかしメールではありません。事件番号は、平成19年(ワ)第24560号で、東京地裁平成21年3月18日判決言い渡しでした。私はその後、控訴審へ進めていますが、一審同様の棄却判決が言い渡されるとしたならば、日本は司法界までも歪みが及んでいると考えざるを得ないと思っております。原判決は、明らかに真の事実経過を切り捨て、不自然に被告医師に片寄った判決文でした。患者側は誰もが医療裁判は起こしたくて起こすのではありません。患者や家族が頼りとするのは紛れもなく医師だけなのです。医師に頼ることしかできない患者や家族は、医師が力を尽くしてくれて不幸な結果になったのだとしたら、医師の誠実さを肌で感じ取れるものですし、悲しみの後には感謝しか沸き起こらないものです。事実を覆い隠そうとすることで、そこに歪みが生じるのではないでしょうか。医療従事者と患者側とが、より誠実に話合いができれば裁判などはせずに問題の殆どは解決できると思うのですが、貴方様は如何お考えでしょうか。

控訴提起した事件番号を記しますと、平成21年(ネ)第2051号です。控訴人及び被控訴人のどちらにも偏らない正しい判決を期待している私です。最後になりましたが、貴方様におかれましては、ご健康とご多幸とともに益々のご発展をお祈り申し上げさせて頂きます。拝

 このメッセージを受け取る以前からこの事件の存在は知っていましたが,事件内容は知らなかったので,「あの鋭い村田渉裁判長の眼が曇っているなどと言われるとは,どんな事件なのだろう?」との関心から,調べることとなりました。

 この事件は,86歳女性で亡くなられたAさんの遺族が,主治医である開業医が脳梗塞を見落とし,診断・治療に適切な病院への入院を勧めなかったとして強く争ったものでした。86歳とご高齢であり,普通に考えれば寿命だったということになるかと思いますが,遺族の主張する「見落とし」に対する判断は,ちょっと気になるところです。

 さて,記録を確認すると,この遺族は「カルテには,脳梗塞との診断をしていたことや入院を勧めたこと,そしてそれを遺族が拒否したことが記載されているが,それらの記載は改ざんされたものである」と主張していることがわかりました。そして,改ざんの証拠として,当時に遺族が書いていたという日記メモを ,甲A第14号証として提出した模様です。ところが……

 裁判では驚くべきことに,遺族が提出した日記メモのほうが改ざんであると認められていたのです。以下,被告側の主張です。(赤文字強調は筆者による)

平成20年12月19日 被告準備書面(4)より

1(前略)
そもそも被告医院における診療記録自体が改ざんにかかるデタラメであると指摘し,尋問において裁判所から指摘があったからか,その決定的証拠として甲A第14号証を提出してきた。

2 ところが驚愕すべきことに,甲A第14号証には書き直し箇所が随所に見られているのであり,殊に原告らが過失時点とされる9月10日前後からは,どうしたことかF医師が関与した箇所に限って書き直しが指摘されるとの不可解を,被告は指摘せざるを得ない。

3 甲A第14号証に関し,裁判所より書き直しが指摘された箇所は別紙の黄緑色のマーカーで囲った部分である。

(中略)

 そのような観点から考えてみると,このような偶然が起こり得べきはずもなく,上記2で「不可解」と述べてみたものの,これは偶然でも不可解でもない,要するに必然,すなわち,本件訴訟の証拠として供する目的で後日書き直しに及んだものであることはあまりにも明白であり,そのようなことを書面にて指摘することも面映いとは思ったが,原本に引き当たることなくカルテ改ざんを主張される原告らへの対応には度肝を抜かれ,最後の最後になって原告らからこのような「決定的」な証拠と称して改ざんの痕跡が明瞭な証拠が提出されて拍子抜けをし,被告はその不条理さが理解できないうえ,書証を作成するにあたりマーカーを引く際に,ことマーカー箇所に限って書き直し痕があるといった程度のことは見れば容易く分かったはずなのに,尋問において裁判所からの指摘があったとはいえ勇躍果敢にも甲A第14号証を提出してくる意図についてはやはり不可解を覚えたので,敢えて指摘する次第である。

(中略)

6 言うまでもないことであるが,このような原告らにとって有利な記載箇所に限って書き直しの痕跡のあるような書証には証明力は絶無である。
 敢えて何らかの証明力があるとすれば,原告らが自らの主張に理由のないことを認識しているということに対してであろう。

以上。

 この文章を書いたのは被告側代理人弁護士であると考えられますが,その被告側弁護士も驚愕しております。そりゃあそうでしょう,「カルテ改ざん」を主張する遺族の提出した日記が改ざんだらけだったのですから。そして実際にその遺族が提出した日記メモを確認すると,確かに被告医師に関する記述の部分には擦れた痕が多数見られるのでした。結局,自らの改ざん痕を見落とした遺族の眼は曇っていたけれども,村田裁判長の眼は澄んでいたので改ざんを簡単に見抜いた,という話でした。

 そういうことで,この事件は原告側にまるで勝ち目がないC級事件と考えて良いと思いますが,どうにも気持ち悪さが残ることは,このような事件でも遺族側に弁護士が2人もついていたという事実です。それも医療裁判素人ではなく,医療事故研究会の弁護士だというのですから,なお一層の驚きです。 遺族側は一審で終わらせずに控訴までしていますが,この遺族側弁護士は一体何ができると思ってこの事件を受任したのか,と小一時間問い詰めたいものです。

 控訴審では早々に和解となり,和解金は当然ゼロである上に,被告側の反省を求める文言すらありませんでした。つまり,被告医師には最後まで過失も不手際も認められなかったということです。こんな無意味な裁判に巻き込まれた先生は,本当にお疲れ様でした。

平成21年11月17日記す。

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