医療裁判傍聴記
医療裁判傍聴および記録閲覧を通じて得た知見をはじめ,その他裁判関係の話題をご紹介。このブログでラフ・スケッチを掲載し,後日正式記事としてまとめた場合は,拙サイトの医療裁判・医療訴訟コーナーに上梓します。
那覇地裁平成18年(ワ)第1358号. 総胆管結石摘出不成功で敗訴
2012年5月13日
判例時報2126号、判例タイムズ1365号掲載の事例です。結構な問題がある裁判例であるように思われるので、後日検討するかも知れません。
(3)本件外科手術(除去失敗と嵌頓)について
ア 結石除去の失敗と原因
丙川医師において、経胆のう管法、総胆管切開法の順で、本件外科手術を実施し、砕石鉗子、バルーン等も利用しながら原告の総胆管結石一個の除去を試みたが、これを実現できず、本件外科手術を断念したことは、前記(1)のとおり認められる。
そして、経胆のう管以外の方法で除去できなかった原因について、丙川医師は、経胆のう管法の実施中に結石を押し込めてしまうとともに、胆管内の壁に浮腫が生じ、結石の嵌頓により、その他の結石処理法が成功しなかった旨を証言しており、これらの証言は、入院診療録中の経過表の記載と照らし合わせても、信用し得るものである。
したがって、本件外科手術においては、経胆のう管法によって総胆管内の結石を除去することができず、むしろ嵌頓させてしまったため、最終的に結石の除去に成功しなかったものと認められる。
イ 結石嵌頓の原因
丙川医師は、経胆のう管法による採石について、結石を取り出す操作に手間取り、手術自体が通常より長時間かかったこと、手術操作により粘膜面を刺激することになり、長く刺激するほど浮腫は出やすくなること、結石を押し込めてしまったことと浮腫が合わさって結石が抜けなくなったことをそれぞれ証言し、他方、なぜ操作に手間取ったかについては、「…うまく取れなかったとしか言いようがないです」と答えるのみで、何らその原因の説明ができていない。
経胆のう管法は、これを総胆管結石手術における第一選択とする病院も存在する一般的な手法であること、丁原意見書及び戊田意見書がいずれも総胆管切開手法まで行って結石除去ができないのは稀と指摘し、丙川医師自身、自己の経験において同様の結果に陥った症例は一例もなく、最終的に結石除去を断念せざるを得ない事態は想定していなかった旨証言していることなどを考慮すると、経胆のう管法の実施中に総胆管切開やその他の方法によっても除去できない程度に結石を嵌頓させてしまったことが手術そのものの困難さなどによるやむを得ない結果であるとは想定し難い。もとより、結石の把持に手間取り、その結果として結石が嵌頓状態に陥ったことは、丙川医師自身が認めるところである。
そうすると、結石の把持が困難であったことについて、その他の原因の存在が認められない限り、本件外科手術における結石の嵌頓は、経胆のう管法の実施中における丙川医師の操作上の誤りに起因すると推認し得るものである。そして、被告において、そのような原因関係につき具体的な主張立証を一切せず、また、丙川医師からも説明がされない状況からすれば、具体的な態様を特定することはできないものの、丙川医師において、操作上の誤りにより、総胆管結石を総胆管下部に嵌頓させてしまい、その結果として本件外科手術が失敗したものというほかない。
ウ 以上のとおりであるから、原告の主張するその他の過失につき検討するまでもなく、被告の丙川医師には本件外科手術における手技の実施上の過失が認められる。
ウ 外科的手術
外科における原告の担当医の丙川医師は、原告と配偶者の甲野太郎に対し、事前説明を行って手術同意書を得た。
そして、丙川医師は、平成一三年七月一三日、まず、胆のう管を切開して細径胆道ファイバーを挿入し、総胆管内に結石を確認したことから、バスケット鉗子にて採石を試みたものの、採石することができず、総胆管下部に結石が嵌り込むこととなった。そこで、丙川医師は、次に、開腹して胆のうを摘出した上、総胆管を切開する方法で採石を試みたが、やはり成功せず、かえって結石をさらに総胆管下部へ嵌頓させることになった。そのため、丙川医師は、手術による結石の除去を断念し、T―チューブを留置して手術を終了した(以下「本件外科手術」という。)。
エ 急性膵炎と治療
平成一三年八月八日、原告の総胆管結石の状態を確認するため、T―チューブ造影検査が施行されたが、原告が検査中に痛みを訴えたため、検査は終了となった。
原告は、平成一三年八月一二日、上腹部痛、腰痛を訴え、夕食時に摂食不良、嘔吐となり、同日夜には、T―チューブの排液不良が出現した。
平成一三年八月一三日にも上腹部及び下腹部痛が存在し、原告は、血液検査にて急性膵炎と診断され、外科観察室へ転床となった上、膵炎治療が開始された。
平成一三年八月一四日、腹部CTでグレード4の重症急性膵炎の診断となり、丙川医師は、原告の腹部動脈にカテーテルを留置し、急注療法を開始したが、同月一六日、フォローアップの腹部CTで膵臓に一部壊死が確認され、壊死性膵炎の診断が加わった。
その後、丙川医師は、原告の重症急性膵炎の改善傾向が認められたため、平成一三年八月二〇日をもって動注療法を終了し、同月二一日、中心静脈ラインより中心静脈栄養療法を開始した。
そして、平成一三年八月二五日、再度、原告の腹部CT検査が行われ、膵炎の改善が認められた一方、重症急性膵炎の合併症である膵仮性のう胞の形成も認められた。
オ 結石の嵌頓解除
平成一三年八月二七日には原告の便も白色から茶褐色へと変化し、同年九月五日には胆道ファイバー検査、胆管造影検査等が行われたが、総胆管内の結石は確認されず、造影剤の十二指腸への通過も良好であった。
平成一三年九月二六日、再度、確認のため、原告の総胆管造影が施行されたものの、やはり遺残結石は発見されなかった。
カ サンドスタチンの投与等
他方、原告は、平成一三年八月上旬には発熱が持続し、その後も嘔吐、悪心が続いた。
平成一三年一〇月三日に膵仮性のう胞ドレナージチューブからの造影検査が行われたところ、のう胞腔と主膵管との交通が確認されたため、膵液量を減少させ、のう胞腔を閉鎖させることを目的として、同月四日から原告にサンドスタチンの皮下注射が開始された。なお、その結果、平成一三年一〇月三一日にされた原告の瘻孔造影では、のう胞腔は閉鎖状態となっていた。
原告の悪心は徐々に消失したが、イライラ感、不眠、不安感が変わらなかったため、丙川医師は、平成一三年一一月六日にサンドスタチンの投与を中止したものの、原告の不眠、不安等の症状が続いたことから、同月一五日には心理療法士との面談を実施した。
原告は、平成一三年一二月三日、紹介されたかもめクリニックの心療内科を受診し、うつ病疑いと診断された。
キ 退院
原告は、平成一三年一二月一〇日、被告病院を退院し、平成一四年一月二六日に被告病院を外来受診した際、腹部超音波検査により、膵尾部に仮性のう胞の再形成が認められた。
結末
手技上の過失を認定。
糖尿病との因果関係を認定。
うつ病との因果関係は認定されず。
谷直樹弁護士が書かれた、国保旭中央病院のタオル残置事案に対するコメントを読んで
2012年5月9日
旭中央病院で1983年に起こした、タオル置き忘れ事件の判決が今日あったようです。朝日新聞によれば以下のようです。
手術で体内にタオル25年 千葉・旭市に賠償命令
千葉県旭市の市立国保旭中央病院が手術で体内にタオルを置き忘れたため、癒着した脾臓(ひぞう)を25年後に摘出することになったとして、同県の男性(53)が旭市に1億2千万円余の損害賠償を求めた訴訟の判決が9日、東京地裁であった。森冨義明裁判長は約1100万円の賠償を命じた。
判決によると、男性は1983年に十二指腸潰瘍(かいよう)の手術を受けた。2008年に腹部で見つかった腫瘍(しゅよう)のようなものがタオルであることが分かった。判決は「置き忘れた医師らに注意義務違反があり、男性は必要でない手術を受けることになった」と指摘。障害が残ったために失ったと考えられる収入や慰謝料を賠償すべきだと判断した。
男性側は25年間にわたってタオルが体内にあったことで下痢の症状が出たと主張したが、認められなかった。市側は「脾臓を摘出しても、労働能力に影響はない」「早く医療機関を受診していればタオルは発見されていた」などと主張していた。判決を受け、旭中央病院は「内容を確認し、今後の対応を決めたいと思います」とコメントした。
2012年5月9日21時3分
この事件について、例の患者側弁護士である谷直樹弁護士がコメントをつけておられます。これがどうにも違和感を感じずにいられないものでした。
まず、脾臓を摘出した場合の後遺障害等級について、
脾臓を摘出すると,感染防御機能力が低下したり,疲れやすくなる,ので,8級相当程度の賠償が認められます.
と書かれています。私は、裁判所が認定した約1100万円という賠償額を考えると、とても後遺障害等級8級を認められたとは考えられないと思いました。そこで調べてみたところ、こちらのページによれば、現在では脾臓摘出の後遺障害等級は13級を認定されることが普通になっているようです。8級の場合の慰謝料は819万円であり、逸失利益は私がざっくり計算したところでは、550万3900円×(45/100)×11.69= 2895万3265円、となっています(再手術当時49歳、賃金センサス男子学歴計として)。 以上から、この事件において後遺障害等級を8級と認められたとは考えにくいのです。もし13級の認定であれば、慰謝料が139万円、逸失利益が579万0653円となり、さらに再手術を受けることになった慰謝料なども考慮すると、約1100万円であれば計算上は整合性が高いと思われます。
それでいて谷直樹弁護士は、
森冨義明判事は,常識的な判決を下す判事で,本件も常識的な判決です.
というのです。どうもこの感想は、勘違いに勘違いを重ねた感想に思えて仕方がありません。
また、指摘しておきたいことは、常々医療側に厳しい意見を書く谷直樹弁護士ですら、約1100万円の判決に常識的だと感想を述べていることからすれば、提訴に当たって1億2千万円余を請求した原告の請求は、甚だ非常識と言えそうです。原告代理人が誰で、どういう主張をされたのか興味があります。
最後に、谷直樹弁護士は、
それにしても,約36センチのタオルを残置するとは,驚きます。
と述べられています。この点、私も同意するところですが、そのように驚かれる谷直樹弁護士が、以上のような頓珍漢と思われる感想を書かれたことに、さらなる驚きを頂きました。
ちなみに私の感想ですが、過失の有無を争うような事案ではないでしょうから、要は賠償額の争いで、どちらかと言うと病院側の主張が通った事例という印象を持ちました。私のノートによれば事件番号は、東京地裁平成22年(ワ)第18806号でした。気が向いたら後日調べてみようと思います。
今日の東京地裁での小競り合い
2012年5月7日
連休明けの東京地裁。受付の係員に向かって、「今は憲法週間でしょう。裁判所に入るときの検査を、一般人には受けさせて職員や弁護士は受けなくて良いのは、職業差別で憲法違反でしょう。2年前から度々理由を訊いているが明確な答えがない。ああいう差別は対外的に恥ずかしいからやめなさいよ。」とか騒いでいる。いや対外的にあんたのほうが恥ずかしいから。そしてもっと恥ずかしいのが、そのやり取りを苦笑いしながらノートにメモしている自分だったりする(笑)
裁判記録表紙の取り扱いが杜撰な件
2012年4月23日
今日は東京地裁である裁判記録の閲覧をしていました。
ふと表紙を見ると、原告に対して符号として「甲」、同様に2人の被告に対して「乙」と「丙」が振られていました。これまでの私の経験ではよくあることです。
しかし、その表紙用紙をよく見ると、「当事者欄符号」の凡例として、「原告 甲、被告 乙、参加人 丙、引受人 丁、補助参加人 戊」と注釈が印刷されているのでした。
そうすると今まで見慣れていた、複数の被告に対して、乙、丙、丁・・・との符号を振ることは、凡例に違反しているということになります。
この当事者欄符号は結構重要で、弁論調書の当事者欄にも流用され、表紙を見ないと誰が出頭したのかが分からないほどです。
こういう連綿と続けられている間違いは、大した間違いではないかも知れませんけど、司法慣行ではあるけれども、司法水準ではない例として宜しいでしょうかね。
そもそも、裁判記録の中で表紙の扱いの杜撰さは普段から気になるところで、殴り書きがあるわ、日付が略号で書かれているわ、甚だしくは最高裁では修正にホワイトテープを使うわで、およそ裁判記録としての扱いを受けていないのではないかと、訝しくなるほどです。これも最高裁(平成17年(受)第1612号)でしたが、表紙の「受理・不受理」の欄で、「不受理」にマルがつけられてさらにバツがつけられていて、隣の「受理」にマルがつけられていました。訂正印はありませんでした。
はっきり言ってどうでもいいことなんですが、医療関係者に対しては記録をきちんとするように口酸っぱく言われる法律家が多いので、あんたらはどうなのよ?! と思ってみたりするわけです。
ま、医療訴訟を見る限り、裁判所や原告代理人は、他人(医療関係者)に厳しく自分に甘い傾向があると私は思っているので、嫌味の一つも言ってみたくもなるのだということです。実際に記載しているのは書記官なり事務官の方でしょうがね。
(2012年4月24日、誤記訂正: ×被告人→○被告)
てんかんの方への運転免許発給
2012年4月13日
てんかんの患者さんによる自動車死亡事故が起きました。
個別の事故のことはさておき、一般的な話をします。
てんかんを持病とする方への免許証が発給されるようになったのは、服薬治療で発作が抑制されていれば大丈夫だから、という理屈のようです。
ところが、そのてんかん治療に用いられる薬の説明書きには、「眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意する。」と書かれているというのです。
ということは、発作を抑えようとその薬を飲めば、今度はその薬を飲んでいることによって自動車運転をすべきでないことになります。
てんかんの方が謂れのない差別を受けることは問題ですが、それはそれとして、上記のように危険が予見できるにもかかわらず、厳密な認定を経ずに運転免許を発給することには、大きな問題があると思います。
もし医師が、薬の説明書に背く指導をして、それにより事故を起こすようなことがあれば、被害者から厳しく責任を追求されるであろうことが、昨今の医療訴訟の流れから容易に想像されます。
私は眼科医ですが、視力だって0.7以上でなければ免許が発給されない仕組みになっているのです。てんかんの方への運転免許の発給については、その方法の見直しがされるべきところだと思います。
参考: うろうろドクター先生のブログ
