代理人が辞任してしまったので・・・

  事件番号 終局 司法過誤度 資料
一審東京地裁 平成21年(ワ)第7296号 和解 妥当 閲覧メモ

平成23年8月31日に東京地裁で尋問を傍聴した事件です。開廷に少しだけ遅れて傍聴席に入りました。

原告側にスーツ姿の男性一人、被告側には男性二人。しかし原告側の男性と裁判官とのやり取りがぎこちない・・・

そうか、本人訴訟か・・・

ほどなく、原告本人に対する尋問が始まりました。代理人弁護士がいないので、代理人の代わりに左陪席裁判官が主尋問(当人側からの尋問)を担当しました。そして被告代理人が反対尋問(相手側からの尋問)。事件はどうやら、骨折をした足に対する手術のやり方が甘くて、後遺症が残ったというもののようです。

そしてお次はウサミ医師に対する尋問です。本人訴訟で本人に協力医がいる事件など見たことがなく、この医師も当然病院側の協力医であり、主尋問も被告代理人からされると思いきや…

何と裁判長が、「まずは主尋問を、原告本人からどうぞ。」と言うのです。

えーっ??!! 本人訴訟で原告協力医がいるの?!

私が内心でびっくりしていると、原告本人が開口一番、

「代理人が辞任してしまったので・・・」

・・・

こ、これは新しい!! (私にとっては)

新しいけど、原告本人が質問するのでは、どうせ素人質問(というより質問になってない自己主張)の連発だろうな・・・と思ったら、意外や意外、個々の質問はやや冗長ではあったけれども、一応被告医師の過失を指摘する証言と、少なくとも相当程度の可能性を思わせるくらいの証言は引き出せていたと思われました。しかも予定時間を大幅に下回って終了。続いて被告代理人からの反対尋問で、これも被告代理人、なかなか手こずっていた印象。原告本人からウサミ医師への尋問の一部はこんな感じでした。

リスフラン関節・靭帯という概念を、専門医はいつ頃から理解していたか?
------ もう既に20年以上前から。

そうすると、平成14年10月には、リスフランという概念は、整形外科医の間では周知のことであったと理解していいか?
------ リスフランという概念というと範囲が大きすぎるが、リスフラン関節の脱臼骨折に対する治療指針の概念は、ある程度しっかりしていたと思う。

ワイヤー1本での固定は適切だったか。11日で全荷重許可したことと併せて評価を。
------ 1本では固定力は不十分。11日での荷重は、踵なら構わないが、前足部まではちょっと時期が早い。

第二中足骨がすぐに受傷時の状態に戻ってしまった。さらに中足骨全体が外側に転移してしまった。これらと手術の状況とに因果関係があるか。
------ 転位した部分は、やはり手術のときの整復状態が、整復の状態と固定力が不十分だったためと考えている。

いやぁ、勝敗は別として、原告代理人はなんで辞任しちゃったのかねぇ・・・などと思いながら聴き続け、最後に被告本人(医師)に対する尋問です。被告代理人からの主尋問に続いて、原告本人からの反対尋問。先の原告協力医に対する尋問がそれなりだったので、ここもある程度感心させてくれるかと思ったのですが・・・・

ダメでした・・・

ここでついに素人質問が炸裂。「こんな所でお目にかかるとは思っていませんでした。」から始まり、質問になっていない糾弾、自己主張を繰り返し、被告側から「質問をしてくださいよ、質問を」のヤジ・・・もとい、異議が飛ぶ。

別の事件の記録閲覧をする予定が残っていたので、やむなく途中退出しましたが、なかなかに新鮮な事件ではありました。東京地裁医療集中部の中では患者側に一番に甘い印象のある民事第14部の事件で、結末が気になり、追いかけることにしました。

約1年後に結末を確認したところ、8桁金額での堂々の和解でした。冒頭だけ傍聴した限りではダメだと感じた、被告本人に対する反対尋問も、記録を見てみたところ、過失を思わせるような答えを引き出せていたように思われました。代理人が辞任した後に提出された準備書面もなかなかにしっかりしていて、辞任した代理人が残していったものが大部分だったのかも知れませんが、いずれにせよ普段目にする本人訴訟とは大違いでした。8桁金額はやや額が大きいかなと思わなくはないですが、それなりの金銭での和解になったこと自体には、違和感は感じませんでした。

ところで、辞任した代理人ですが、医療問題弁護団の藤田康幸弁護士でした。原告本人と何があったのか知る由はありませんが、このような決して無理筋ではない事件で、後任の手配もないままに、原告本人に「代理人が辞任してしまったので・・・」と言わせしめるような形で辞任してしまうことは、如何なものなのかと思いました。特に、応召義務に縛られて仕事をしている我々医師としては、強い違和感を感じるというものです。(尤も、医師の応召義務は、本来の意味は国家に対する義務であって、個々の患者に応対する義務とは違うらしいとも聞いており、ここで藤田康幸弁護士が辞任したことに対して違和感を感じる事情としては、あまり適切ではないかも知れません。)

余談ですが、藤田康幸弁護士といえば、福島VBAC訴訟と、ご自身のホームページが印象に強いです。特にご自身のホームページは、報道された医療裁判のデータベースとしてかなり有用だったので、更新されなくなって残念がっているのは、私だけではないと思います。

平成24年12月15日記す。


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