村田渉判事の判決文に学ぶ~1~

(事件番号:平成15年(ワ)第25825号、東京地裁平成19年8月24日判決。判決文はこちら)

 司法研修所教官も歴任された、東京地裁民事第34部の村田渉裁判長は、私が考えるに医療者に対して過剰な義務を科さず、ごく標準的に適切な判断を下す判事として、尊敬している判事です。村田渉裁判長の判決文には、医療訴訟に関して参考にするに値する部分が多々あります。

 例えば、「総合病院で受診中の患者に他科的疾患について他科受診を勧める場合は、転医、転科の措置を講ずることまではしなくても単に受診を勧めれば十分であって、もし患者が勧めに従わなかったらそれは患者が治療放棄したものと考えられる。また、他科受診依頼書の作成も義務ではなく、他科での検査内容についても関知する義務はない」という判断をしています。判決文の22ページより。

 原告らは、医師が患者に他科領域における診察等を要する疾病等の疑いがあると認めた場合、医師は、他科の受診を勧めるだけでは足りず、他科の医師に患者の状態を説明し、必要とされる診療行為の内容等を告知して、その受入先の承諾を得た上で、適切な治療等を受けるべき時期を失しないよう、適宜の時期に、患者の転医、転科(兼科)措置をとるべき義務を負うと主張する。
 しかし、被告病院のように多数の診療科を有する総合病院に勤務する医師が、外来として担当診療科を受診した患者に他科領域における診察等を要する疾病等の疑いがあると認めた場合、医師は患者に対し、他科領域における疾病等の疑いがあり、他科を受診する必要があることを具体的に示して他科の受診を勧めれば、患者はその勧めに従って他科を受診するものと期待することがあながち不合理であるとはいえず、これによって、適切な診療等を受ける機会を失することは回避することができるし、本件のように、患者が医師の勧めあるいは指示に従わないことがあったとしても、それは、患者自身が他科の受診をしないことを決定したもの(他科受診の機会を放棄したもの)といわざるを得ない。
 また、医師が患者に他科の受診を勧める場合に、診療情報提供書(院内診察依頼・報告書等)を作成するなど、患者の状態や診療の経過等を他科の医師に伝えるための措置をとることはもとより望ましいことではあるが、それらの事実等は他科領域における問診等の通常の診療手続によって容易に判明することも少なくないことなどからすると、他科の受診を勧める場合には、患者において診療情報提供書等の作成を依頼したなど、特段の事由があるときを除き、医師に診療情報提供書を作成するべき診療契約上の義務があるとまではいうことができない。さらに、医師が患者に他科の受診を勧める場合には、自己の専門領域外の疾病等が疑われるからこそ、他科の受診を勧めるのであるから、他科の診療を勧める医師に、他科領域で必要とされる検査や診療内容等を予め判断し、これを他科の医師に伝えるべき義務があるということができないこともまた明らかである。
 したがって、多数の診療科を有する総合病院に勤務する医師は、外来患者に他科領域の疾病等の疑いがあると認めた場合には、患者の状態等に照らし緊急に他科の診療を要することが明らかなときなど、特段の事由があるときを除き、他科の受診を勧めれば足り、それ以上に、患者の転医、転科(兼科)措置を講ずるまでの義務はないものと解するのが相当である。

 これに対して、「医療崩壊」(小松秀樹著・朝日新聞社)の17ページに紹介されている名古屋地裁平成17年3月31日判決(氣賀澤耕一裁判長)は、

 病院の医師は確定診断を得られず、同年八月に検査を受けるよう勧めたが、女性は拒否。女性は01年5月肺がんと診断され、同八月に死亡した。
 判決は「市民病院の医師は検査に踏み切るべき注意義務があった。女性に拒まれているが、それほど強く検査を勧めなかったと推認できる」と指摘

などとしていますが、この例では氣賀澤耕一裁判長は、医療に対して過剰な義務を負わせる特殊な色眼鏡を持っていると感じます。このような裁判例を見れば、過剰な期待を持つ自称被害者が提訴を考える可能性は十分考えられます。このような判断の根源は、その裁判官の自由心証によるところが大きいと思われ、当事者の主張がそれほど大きな役割を果たせるとは考えにくい(∵無過失の証拠をうまくて立てられない)ですから、とりあえずこのような偏った判断をまずやめてください、と裁判官の方々にはお願いしたいところです。

平成20年5月4日記す


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