行き当りばったり提訴医療訴訟事件

  事件番号 終局 司法過誤度 資料
東京地裁 平成20年(ワ)第14089号 取下平成21年4月3日 事実経過・
判決概要等
東京地裁 平成21年(ワ)第31845号 判決平成23年2月3日
(確定)
妥当

 十二指腸潰瘍の出血について医療過誤があったとして一旦提訴して、途中で行き詰まったために一旦取り下げ、改めて提訴したという面倒くさい事件です。出直し提訴の第一回口頭弁論を傍聴しましたが、それだけでお腹いっぱいになるような事件でした。本来、医療過誤訴訟の原告側は、医療行為の過失と、その過失のために損害を負ったこと(過失と損害との間の因果関係)とを示して、賠償金を請求するものですが、この出直し提訴では、最初から過失と損害との関係の証明を放棄していたように聞こえたためです。

 では、その出直し提訴第一回口頭弁論の傍聴メモをご覧ください。いつものことですが、メモ書きであるため、相当に抜けがあると思いますがご了承ください。【】の中は、私の心のなかのつぶやきです。下品な言葉遣いですが、当時のメモのままということでご勘弁ください。

裁判長から原告代理人への質問。
どんな点が過失か?
------ 問診なしでドレナージ交換の手術をした。十二指腸の大量出血の原因は不明。

因果関係は?
------ ドクターによって言うことが違う。原因の追求は断念した。機序は不明のまま慰謝料を請求する。

【因果関係全然なしで提訴とは,この弁護士○カじゃないの?】

・・・過失については?
------ 16日にはドックから外科に回された。手術をいつやるべきかは本人と良く会って面談して判断するべきだった。A医師は16日は本来いるべき日だったのにいなかった。問診をできるときにすべきだった。問診をできる状態のときにしなかった。

【だから,因果関係は?】

いつ,どうすべきだったと?
------ 16日の段階で,問診をして本人から直接状況を聞くべきだった。

【そしたらどうなってたってのよ?】

問診したらどうなったと?
【そうそう,そこですよ!】
------ それはちょっとよくわからない。内科では混んでたから…。もっと適正であっただろうと。

【そんなこと言っていると,素人でも笑い出すよ!!】

これ以上の立証は何を考えているか?
------ 被告の答弁書を待って考える。
------ この提訴の前にはADRも行った。

【だからADRでも全然無茶なこと言ってたんじゃないの?】

訴状の9ページ以下に,カルテ改ざん,請求書,ドレナージの交換の記録が不備,1月16日のカルテがない,などと書かれているが,これは事情ということか。
------ 診療に杜撰な内容が多すぎる。主要事実として。

被侵害利益は何か?
------ 適正な医療を受けられなかった。期待権の侵害。

【だ~か~ら~,因果関係がないのに期待権もくそもないっつーの!!】

被告代理人からの発言
本件は,民事第35部でドレナージ大量出血による死亡の医療過誤として争われたのだが,その後原告側が心筋梗塞の見落としだったと主張の変更をして,結局取り下げた。ADRの手紙のやり取りは16回あった。

【なんだよ別の部で通常の争いをやって,ダメだってんで訴因変更して部を変えて出直し? 司法資源の無駄遣いもいいところ。ダメなものはダメだろ! 大体取り下げるような訴訟を起こしちゃったなんてのは,同じレベルの失敗をしたら医師だったら訴訟対象にされかねないようなヘタッピな仕事だっつーの。】

 実際には弁護士の活動というのは、依頼者の主張をベースにして行うものですから、この事件の依頼者が無茶な要求をしていたのであれば、上記のような展開になってもおかしくはないのかも知れません。しかし、その点を置いても、一旦取り下げられた最初の提訴の内容などを見ると、この原告代理人の活動には大きな疑問符がつきます。例えば原告側は、ストレス性潰瘍の「ストレス」について誤解に基づいた主張を展開しており、事前調査不足と考えられました。また提訴から約10ヶ月後に提出した書面では、「医療事故情報センター協力医に相談したところ、むしろ死因は心筋梗塞とのアドバイスを受けた」との旨を記しており、本来ならそのような死因の検討は提訴前にしておくべきことでしょうから、やはり事前調査不足と考えられました(蛇足ですが、上記の通り出直し提訴では死因の究明を諦めているのですから、死因として心筋梗塞を示した医療事故情報センターの協力医の判断も、如何なものかと思われます)。そしてさらに驚くべきことは、この原告代理人の事務所のサイトで、医療過誤事件の取り扱いを大々的に宣伝していることでした。曰く、 

当事務所ではいち早くご相談に対応するために、以下のような体制を整えております。
①医療過誤の調査・研究に特化した医療過誤相談所を併設
②カルテの専門用語を即座に調査できるように、医学図書の充実
③レントゲン等をその場で確認できるようにシャーカステンを導入
④薬剤師の資格のあるスタッフが常駐して対応
⑤各分野の専門医のネットワークを確立

ここで語られるような体制が整えられているのであれば、今回ご紹介したような仕事にはならないでしょう。そして、以下のような記載もありましたが、

医療過誤訴訟には高度な専門知識が必要であり、通常法律事務所においても相談のあった件について、即座に対応することが難しい場合がほとんどです。

今回ご紹介した事件を見る限り、この法律事務所も医療過誤訴訟に対応することはかなり難しいのではないかと思いました。

 こういう馬鹿げた提訴で、貴重な医療資源および司法資源を浪費しないよう、原告ら代理人には猛省を促します。尤も、この手の提訴がしばしばみられることは、医療問題弁護団問題や、東京脳梗塞見落としカルテ改ざん訴訟などで、これまでにもご紹介したとおりです。高度な専門知識を要する医療行為の過失を追求する弁護士の方々が、ここで挙げているような杜撰な仕事をされているのを見ると、一部の弁護士達は、あまりにも自分に甘く他人に厳しいのではないかと疑います。

 この事件のより詳しい事実経過と、裁判所の判断概要はこちらにあります。原告側の主張の不毛さがよくわかるというものです。

平成23年9月7日記す。


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