徳島脳性麻痺訴訟

  事件番号 終局 司法過誤度 資料
一審大阪地裁堺支部 平成10年(ワ)第186号 判決平成15年2月21日 詳細不明  
二審大阪高裁 平成15年(ネ)第5683号 判決平成17年9月13日 微妙 判決文
閲覧メモ
最高裁   上告棄却    

 この事件は,私が医療裁判に関心を寄せはじめたころに最高裁が上告棄却した事件で,そのころに書いた「医療事故を裁判で裁くのは好ましくありません」の稿で触れていました。当時は,この裁判例は産科医療に影響を及ぼすのではないかとまで考えたのですが,具体的に影響が出ているという話は,私が産科医ではないからかも知れませんが,今のところ聞いていません。

 最高裁の上告棄却から1年以上たって,「マチ弁」というニックネームでブログを開設している弁護士さんがこの事件の原告側代理人であることが判明し,そのブログが炎上したことがありました。当時のネット上では医師たちの「法律家憎し」の感情がピークに達していた頃であったと思われ,マチ弁さんはほとんど問答無用でボコボコにされました。マチ弁さんは明らかに担当医師の過失があったと考えていたようでしたが,多くの医師はマチ弁さんとこの判決を出した裁判官を激しく非難しました。

 事件内容を大雑把に示すと,前置胎盤の妊婦に妊娠31週4日で性器出血が見られ,帝王切開で出産したところ,児が脳性麻痺となったというものでした。原告側は「少量の性器出血で出血量も測定しておらず,少量の出血を見て帝王切開に踏み切ったことは過失」と主張し,被告側は「大量の性器出血があったのだから,帝王切開に踏み切ったのは妥当」と主張しました。判決では,性器出血は少量だったとの原告側の主張が認められ,その場合に帝王切開に踏み切ったことは過失であったと認められました。

 さて,性器出血が多量であったか否かという点の判断は,医学的判断ではなく単なる事実判断であり,基本的には裁判所が得意とする分野と考えられます。そしてその判決を読んでみても,また訴訟記録を閲覧したところでも,被告側の主張するような大量の出血があったと認めるに足る証拠はないように思われました。この部分については裁判所の判断に理があると感じました。

 問題はこれに続く過失判断でした。この訴訟では出血が少量だったとの事実認定をされたため,被告側の過失がないという主張の前提とした「大量出血」自体がなかったこととなり,原告側の「少量の出血で帝王切開に踏み切ったことは過失」がそのまま認められました。このような場合,訴訟の枠組みを離れて考えるならば,より公正な判断を下すには「少量の出血で帝王切開に踏み切ったことには過失があるか否か」をさらに検討すると良いということになりますが,訴訟の枠組みの中で,被告側が主張していない前提に基づいて被告の過失の有無を検討することは,なかなか現実的ではないのでしょう。そうすると,この事件で被告側が敗訴したことは,高い勉強代でしたが,止むを得ない面があったとも言えるのかも知れません。

 マチ弁さんがこの事件を受任・提訴するにあたって,何人かの産科医に尋ねたところでは,「出血量の測定もせずに少量の出血で帝王切開に踏み切ったことはおかしい」との判断を得たようですが,私が何人かの産科医に尋ねたところでは,少量の出血であっても帝王切開に踏み切ったことが誤った判断であるとは,一概にはいえないという声が多かったです。

 これはマチ弁さんがご自身のブログで語られたことですが,マチ弁さんご自身が出産されたときかなり大変であったため,無事出産されたのちに,病院に置かれた「おぎゃー献金」の募金箱に,「みんなが無事出産できるように、産婦人科分野の研究のために、他の患者さんのためにと、病院に備え付けてあった箱に1万円札を入れた」そうです。一方,この事件でマチ弁さんが得たと思われる報酬額は2000万円~3000万円程度と考えられ(計算式はこちら),その桁の違いにちょっと理不尽を感じました。それを踏まえてこの事件についてまとめ的に記した記事をご紹介して,この稿を終えます(こちらの掲示板の447番の発言です。)

ところでこの徳島の産婦人科医はベテラン医師でした。被告病院で当時で20年以上も継続勤務しており、経験豊富でした。この症例に早期帝王切開を選択した理由が、実際には結構な出血があったためなのか、過去に同様な例で経過観察をして苦い思い出を持っていたためなのか、あるいは本当に帝王切開決定の基準にして取りこぼし(診療技術の未熟)があったためなのか、それはわかりません。しかし、医者をやっている者なら、たとえ診療技術の未熟な部分から来たものだとしても、そのような部分的な未熟は誰彼問わず持っているものであり、そのような脆弱な部分を少なからず抱えたままでも前線で働かなければならないことをよく知っています。それは弁護士であっても、裁判官であっても同じではないかと思います。この産婦人科医が20年以上被告病院に勤務するによって、本当なら死んでしまうところを助けられた子供や母親の数を推し量る術はありませんし、実際にこの産婦人科医が周囲からどう評価されていたかも知る由もありませんが、ここまで責められないといけないのかなぁ、という気持ちが残ります。まち弁さんの居住地が一歩違えば、この医師がまち弁さんの難産を助けていたのかもしれないし、逆にかつてまち弁さんの難産を助けた産婦人科医が、今同様な例でどこかで被告席に座らされているかも知れないと思うと、…以下は後日に拙ブログで(笑)。でも一言だけ言わせてもらうと、こう考えると2000万円超のうちの大部分をおぎゃー献金に投入したとしても、おかしくはないんじゃないかな、とは思いますね。

 平成22年8月11日記す。同月13日,脱字修正。


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