奈良救急心タンポナーデ事件

  事件番号 終局 司法過誤度 資料
一審奈良地裁 平成7年(ワ)第44号 判決 妥当 判決文
二審大阪高裁 平成14年(ネ)第602号 判決平成15年10月24日
(確定)
判決文

 既にインターネット上で大いに議論された事件です。医師から見ると高裁判決がトンデモ判決なのですが、最近、日本裁判官ネットワークブログにて、「門外漢」と名乗る弁護士と思しき人が「これはトンデモ判決ではない」旨の主張をされていました。事件については、医療判例解説6号(2007年2月号)11ページ、「新小児科医のつぶやき」の、「救急の黄昏「救急の黄昏・続編」 「救急の黄昏・続々編」 「YUNYUN様および法曹関係者の皆様へ」を、ご覧ください。

 そこで、よくよく検討したところこれはやっぱりトンデモ判決であるとの心証を得ましたので、報告いたします。

● まず、「G鑑定やH鑑定も,被控訴人Eの医療内容につき,2次救急医療機関として期待される当時の医療水準を満たしていた,あるいは脳神経外科の専門医にこれ以上望んでも無理であった」(判決文より)との鑑定意見を覆して、E医師の過失を認めた部分についてですが、

1. 判決文にある通り、「救急病院等を定める省令1条1項」では、『救急医療機関は,「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」などが要件とされ,その要件を満たす医療機関を救急病院等として,都道府県知事が認定することになっており』

2. 昭和62年1月14日厚生省通知の「2」の項によれば、『省令第一条の各号に該当することを認めるための審査に当たっては、次の事項に留意すること。』として、「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師」について、判決文にも引用されているように、『救急蘇生法,呼吸循環管理,意識障害の鑑別,救急手術要否の判断,緊急検査データの評価,救急医療品の使用等についての相当の知識及び経験を有する医師をいうものであること。」とされています。

3. ところが、同じ通知の「4」の項には、『2及び3による審査に当たっては、消防機関、警察本部、医師会、救急病院等の関係者、学識経験者等の意見を聴くよう配慮すること。なお、そのための方法として、救急医療対策協議会を活用する方法や消防機関、警察本部、医師会、救急病院等の関係者、学識経験者等から成る認定審査会を設けることも考えられること。』としており、医療関係者の意見を聴く配慮が必要だとしています。

4. となれば、医療関係者たる鑑定人が「被控訴人Eの医療内容につき,2次救急医療機関として期待される当時の医療水準を満たしていた,」と判断した以上、これを尊重して然るべきであって、救急医療についての知識及び経験について鑑定の意見を外れて独自の基準を設けた高裁判決は、法解釈を曲げた判断と考えられます。

● E医師の過失認定と責任免除について

1. 高裁判決文に「被控訴人Eの過失や注意義務違反を認めることができる。」と書いてあるように、高裁判決がE医師の過失を認めていることは明らかです。

2. にも関わらず判決でE医師への請求を棄却したのは、国家賠償法の適用ということでしょうが、「他方,被控訴人Eについては,救急医療行為は,都道府県知事の認定した医療機関において行われるものであり,被控訴人奈良県が設置した本件病院での救急医療行為は公権力の行使に当たると解するのが相当であって,被控訴人E個人は不法行為責任を負わない。」などという歪んだ法解釈はともかくとして、結局のところE医師がたまたま公務員だったから責任免除されて県に責任が転嫁されただけであって、医師の過失が消えたわけではありませんから、医師としてなんら安心できる判決ではありません。


結局この判決は裁判所が、なんとなく可哀想な原告に対して色よい判決を出したい、だけど被告医師に責任を負わせるのもかわいそうだ、だから国賠を適用して県に責任を負わせよう、というだけの判決に見えます。

こうして見ると、門外漢氏の文言
「裁判所に対し、現状にあわせて法解釈を曲げろといっても、それは無理な要求ではないでしょうか。」とか、
「これは医師個人に対してではなく、行政に対して法の求める救急医療体制を整備することを求めた判決だ」(以上2008-03-30 03:44:37書き込み)とか、
「個々の担当医に具体的に要求される義務のように理解するのは誤りです。判決も、当日担当の脳神経外科医に望んでも無理であったことは認めています。」とか、
「だから、個々の医師に無理難題を押しつけるトンデモ判決のようにいうのは明らかにミスリーディングであって、「敵を見誤っている」というほかないですね。」(2008-03-27 01:39:56書き込み)など、
これらこそがミスリーディングであると考えて宜しいかと思われます。

平成20年5月4日記す


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