三平方の定理血管穿刺訴訟

  事件番号 終局 司法過誤度 資料
一審東京地裁 平成22年(ワ)第61号 判決平成22年7月29日
(確定)
妥当 判決要旨等

 いつものように傍聴に出かけて、傍聴席に入ってみると、原告席にざっくばらんなおじさんが一人・・・

 本人訴訟だ・・・

 この事件は、人工透析を受けている原告が、透析時に看護師が血管穿刺をする角度が大きすぎるために、血管痛の被害を受けているとして、弁護士をつけずに自分一人で看護師を訴えた事件でした。その過失の証明に三平方の定理が関係するようなのですが、どのように関係しているのかは、以下の原告本人に対する尋問の傍聴メモをお読み下さい。

 弁護士をつけていれば、その弁護士が原告本人に質問を投げかけていくのですが、弁護士をつけていないので、代わりに左陪席裁判官(医療に例えれば研修医に相当)が質問を開始します。では、スタートです!

(注: メモ書きなので途中たくさん抜けていますがご了承ください。あと、実際には丁寧語でのやり取りです。)

左陪席裁判官からの質問
被告から血管の穿刺を受けるようになったのはいつからか?
------ 3年以上経っています。

A病院から別の病院に転院したのはいつ?
------ 昨年11月。

転院するまでに被告から受けた血管穿刺の問題点は?
------ 3つのポイントを上げて書面にまとめました。1、血管は細いくだで、血管を刺した注射針が反対面に突き当たり、血管痛を起こす。2、物理でいうテコの原理。穿刺針では把手が力点、穿刺口が支点、針の先端が作用点。入射角によって、高い角度で指すと、入れてすぐグイと下げないとならない。すると支点に力がかかる。透析患者は動脈圧が静脈に流れる。いつも怒張している。私は触って推測するに、血管内径は3mmあるいはそれより細い。支点による力、あとで直角三角形の定理を説明しますが、圧迫性血管痛を引き起こす。以上3点から・・・

裁判長からの質問
ちょ、ちょっとよろしいですか、先ほど3点にまとめたとおっしゃられましたが、今のお話では2点しか話されなかったように思うのですが、
------ 1、血管の反対面に突き当たり血管痛を起こす、2、高い角度で刺入することによるテコの原理、3、1と2の複合による。

3点目は1点目と2点目の複合ということですか?
------ はい

左陪席裁判官からの質問
針の角度は何度とすべきか?
------ 私の考えでは10度。しかし10度だと血管が逃げる。分度器などで図ると15度が相当。

自分で計算した結果か?
------ はい。計算の理由を聞いてくれますか?

理由は? (←左陪席優しい)
------ 直角三角形の定理というか、理想的な直角三角形を外れた場合は必ず・・・(途中不明)、三平方の定理だけが一般的な看護師・・・(途中不明)、加法の定理もあるが、これは難しいので必要ないと思う。

穿刺をどこに受けたか
------ 左の前腕と上腕。

入射角は何度くらいだったか?
------ 測ってやろうと思い、分度器をポケットに入れていって・・・

結論を教えてください。
------ 60度を超していたと思う。

根拠は?
------ 自分で測りました。

(原告がえらく身を乗り出しているのを左陪席が見て) 聞こえにくいですか?
------ いや、聞こえるけれど、慎重に聞こうと思いまして。

枕は必要ですか? (腕枕のこと)
------ 15度の場合は不要。丸太を想定した場合(・・・)、仮に30度で刺入したとしても、斜面によって(・・・)枕をあてがわないと無理が生じる。

被告は枕を使ったか?
------ 私が求めて、枕を使ってもらいました。

いつ頃のことか?
------ 被告が刺入するときは場所による。なるべく低い角度から刺してくれと常日頃から言っていた。だんだん角度が低くなっていったが、15度にはならなかった。

被告代理人弁護士からの質問
甲A1号証、甲A2号証(陳述書)を作成する際に、医学文献は参照したか?
------ 医学文献は持っていません。

参照していない?
------ していない。医学文献に近いものは図書館で見ました。

それを写したということか?
------ いや、写してなんかいません。

被告の刺入角度は、何度くらいまで低くなっていたか?
------ 30度を超していたと思う。最初は60度を超えていたと思う。

60度を超えると、固定できないのではないか?
------ できません。

乙B3号証(恐らく医学教科書の類)に、30度前後が適切と書いてあるが。
------ 直角三角形の定理・・・

いや、この文献の記載はどう思うか?
------ ナンセンスだと思う。

高角度で刺すことにより、対面壁に突き当たると言ったが、そういうことが被告にあったのか。
------ あった。普通なら、圧迫性血管痛は起こりえない。

裁判長からの質問
最後に何か言っておきたいことがあればおっしゃって下さい。
------ 三平方の定理で典型的なところを述べます。穿刺針の斜めの線は、三平方の定理の斜辺にあたります。斜辺イコール、垂直辺の2乗プラス水平線の2乗、の平方根の長さとなる。この辺をしっかりとご理解頂ければと思います。

 ・・・なんの理解だよ(笑)

 私はこれまでにも本人訴訟を傍聴したことが結構あり、そのほとんどは「とにかく治療がひどかった」という匂いが前面に出ていたのですが、この事件では「俺の理論が正しい」という面が前に出ていて、医療訴訟としては珍しいパターンと思われ、非常に新鮮でした。

 内容は新鮮だったのですが、記録閲覧して結末を確認したところ、原告敗訴というありきたりの結末でした。原告提出書類が全て手書きで味があり、訴状には、「全国の透析患者を、穿刺による圧迫性血管痛の呪縛から開放できるよう、是が非でも立証したい。」との旨が記されていましたが、夢は叶いませんでした。一方、被告の看護師さんはわずか2ページの淡々とした陳述書の提出のみで、尋問も受けずにコトが済んでおり、被告代理人の森炎(もりほのお)弁護士が、しっかり護って下さったのだろうと感じられました。判決要旨などにもご関心のある方は、こちらをご覧ください。

平成23年8月25日記す。

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