急性心筋梗塞、ウージングタイプの心破裂の止血後に、CPX(心肺運動負荷試験)を行うのは過失との主張

2021年12月13日

今日の東京地裁医療集中部。循環器疾患の医療訴訟の尋問。一つ前に書いた歯科事例と同じく、この事件でも原告側が、主張整理後にもかかわらず新たな証拠を提出して尋問で使いたいというが、これは却下。

30時間ほど前から症状があった急性心筋梗塞が救急搬送された事例。収縮期血圧70、心電図上急性心筋梗塞。エコーで心嚢液貯留10mm程度を認めた。CTにて急性大動脈解離は否定。

冠動脈造影しカテーテル治療もしたが、血圧は70~75のままであったため、心嚢穿刺し血性の心嚢液を抜き、血圧は100に回復。心嚢ドレーンを留置しICUに入室。ドレーン排液は血性から漿液状に変化。ICUでは大きな合併症はなく、ベッドサイドでのリハビリを開始し、1週間程度の予定でリハビリセンターに行き、階段昇降、自転車等でリハビリをして、退院を目指す方針に。

ところが、退院前にCPX(心肺運動負荷試験)を行うと、その途中で意識がなくなり、血圧が急変。心臓マッサージをしながらカテーテル室へ移動。エコーにて心嚢液貯留は10mm程度で変化なし。ブローアウト型の心破裂疑い。冠動脈造影では詰まっているところはなく、全体的に冠攣縮を認めた。その後死亡。剖検では心嚢内に血腫が充満、心破裂を認めた。

原告側は、急性心筋梗塞で心破裂もあり、合併症を起こさないようにリハビリを行うべきなのに、CPXを行ったのは過失だという主張の模様。被告側は、CPXでは有酸素運動の限界を知るために、VO2とVCO2に留意して行っていたと。血圧も最大で199だったとのこと。

原告側協力医は、急性心筋梗塞後?リハビリ?1週間でCPXを行うのは早すぎる、という意見を提出した模様。被告側は、心破裂例に対する適切なリハビリのあり方は、そもそも心破裂後のリハビリ例が少なくて定見がないとの主張の模様。この辺は素人である私にはわかりかねるが、原告側協力医が、ゴールデンスタンダードがない分野で、自分の考えこそが正しいとゴリ押ししているのではないかとの疑念も持たれ、もしそうであるならば医事紛争の解決の上では迷惑になる可能性があるので、ここは一つしっかり確認してみたいと思う。

また、被告側は、CPX中の急変後には主治医(証人)も対応に当たっていたと主張しているのに対して、原告側は電子カルテの記録者が主治医名義でないことをから、実はその場にいなかったのではないかと主張し、さらには医師法24条1項( 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない)を持ち出して、診療録は診療した本人が書かなければならないのにそうなっていなのだから、実は証人は治療に当たっていなかったのではないかなどと質問する。これには被告代理人から、その法解釈は原告代理人の解釈であり誤導だとの異議があり、裁判長も、そこはもういいですとの指揮をしましたが、

この原告代理人、医療訴訟は専門ではないんですかね? いくらなんでもだと思いますけど。

いままで医療訴訟の尋問をいろいろ見ていて、裁判手続きに疎い証人医師がわざわざ法律の条文を持ち出して答えているのは見たことがあるけれど、弁護士がそれをやるのを見たことは、記憶にありません。

果ては、証人名義の電子カルテ記録のタイムスタンプが、治療にあたっていた時間よりもずっと遅いからと、証人はそのときいなかったのではないかなどとも質問する始末。これに対して証人は、対応中は手が空いてないので、手が空いてから電子カルテを書いてエンターキーを押した時刻が出ているに過ぎないと答えていたけど、原告代理人ホント勘弁してください。

なにはともあれ、最後まで追いかけてみようと思います。

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