加藤新太郎裁判長の訴訟指揮その2

2012年9月12日

開廷表を見て、被控訴人が「神奈川県」となっていたので、もしかしたら県立病院が訴えられた事件でないかと考えて、ふらりと法廷に入ってみた事件でした。

残念ながら医療訴訟ではありませんでしたが、裁判長があの加藤新太郎判事。以前にご報告したこの事例と違い、傍聴人がほとんどいなかったので、傍聴席からの笑いは起きませんでしたが、なかなか味のある事件だったのでご報告します。ただし会話のやり取りは速いので、メモは超大雑把です。誰が発言したのかわからなくなっている部分もあります。

事件番号は東京高裁平成24年(ネ)第4419号。双方控訴の事件で、神奈川県は一審被告でした。事件内容は、勾留?された一審原告に対して、留置所(?)の係員が何らかの書面を直ちに渡さなかったことについて、憲法違反だと主張しているようです。それが、単なる書面ではなく何やら特殊な細工が疑われるようなものだったようで…

さて、控訴審開廷の冒頭ですが、一審原告が提出した控訴状、準備書面が充実しているらしく、

加藤裁判長「これ、力が入っているということを、形で表している、と、こういうことですね。憲法議論の後の事実は云々…」

一審被告代理人「施設法の違憲主張。平成11年の最高裁判決で決着している。主張は少し補充します。」

加藤裁判長「十分補充してください。一審原告は勝っているのに控訴している。そこを主張しているのだから、そこは正面から反論して下さい。」

加藤裁判長「判例の理解を示してもらう。当てはめのところで本件の違法性が(・・・)、双方とも個人攻撃とか揚げ足取りがある。『頓珍漢』とは書面には書かない。『不相当』と書く。理性的にね。」

一審原告代理人「捜査、留置の分離についてはぐらかされている気がする。留置管理官は取り調べはしない。また、一審原告の控訴理由書にきちんと反論していない。」

控訴審ではどういうことをするか?→憲法論。当てはめはどうか?

加藤裁判長「一審被告は、1時間後には書面を渡しているので、宅下げを拒否したという評価には当たらないでしょう、としているが、警視庁のは検事が間違えて数日後。こちらは検事は間違えていない。15分だったらどう?日が変わったらダメだよね。5~6時間でもクサイよね。15~30分なら?と」

一審原告代理人「最初に『渡せません』とハッキリ言われた。」

加藤裁判長「公務員なんて、間違いいっぱいするじゃない。できないと言われて、いやいや違うと頑張った。これ、弁護士の真骨頂ですよ。1時間で是正されたじゃないですか。」

一審原告代理人「ワカマツ国賠で、45分での最高裁の判断もある。」

一審被告代理人「この例ではインターネットで(・・・)、仮に弁護人であっても渡さない、という判断もあり得る。それを即時に判断させるのはナンセンスと考えている。」

加藤裁判長「罪証隠滅行為1回で退会にはならないでしょう。」

(発言者不明)「かつてはいなかったかも知れないけど」

加藤裁判長「そのへんも率直でいいね~」

一審原告代理人「留置官の判断で止められるという判断は如何なものか」

一審被告代理人「私も刑事弁護をやらないわけじゃないので…でも今回の文書はそれとは違う。」

加藤裁判長「弁護士宛でも、なお中身をチェックしないとならないという…」

加藤裁判長「おかしな弁護士だったら、こんな訴訟起こしませんよ」

加藤裁判長「今朝思いついたので自信はないけど、憲法違反と国賠…」

(発言者不明)「故意過失ですか?」

加藤裁判長「そこ!」

(発言者不明)「確かに広島で故意過失なしという…」

加藤裁判長「そうだといっても、そこでダメになるとしても、憲法適合性について判断するということかな?」

一審原告代理人「日弁連でも議論したいと思う」

このあと、次回期日を決めるとき、一審原告代理人の希望を取り入れて遅めの時間に設定され、「特別ですよ~」の一声。特別を受け入れたのは、加藤裁判長もこの争いに関心が強いからということなのかな、と思ってみたりします。

それにしてもあれですね、医療訴訟なんかだと、裁判官も所詮は素人なんで、非常に優秀な裁判官でない限り、傍聴していてモニョることも多いですが、憲法議論とかとなると、やっぱり餅は餅屋で、聴いていて清々しいものがあります。

結構注目の一戦なのかも知れません。

 

追記: この事件は、通称小田原国賠と呼ばれている事件のようです。上で「一審原告代理人」としたのは、どうやら一審原告本人のようです。そしてその一審原告本人が「頓珍漢」と評した一審被告の主張は、こちらで紹介さているようです。

加藤新太郎裁判長の訴訟指揮(その1)はこちらにあります。その3はこちらにあります。

傍聴中に、専門用語を知らずに聞き取れなかった「タクサイ」を、「宅下げ」に修正しました(平成24年10月21日)

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