MD双胎児の脳性麻痺、補償制度対象外で提訴して敗訴

2012年8月9日

昨日裁判所サイトに、脳性麻痺の事例の仙台地裁判決が掲載されましたのでご紹介します。
まだ判決から3週間しか経っていません。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82486&hanreiKbn=04
に掲載された判事事項の要旨は、以下の通りです。
「一絨毛膜二羊膜性双胎(MD双胎)の第1児である原告が,被告の開設する病院において重度の脳障害を負って出生した事案について,ノンストレステスト(NST)による胎児心拍の監視を継続すべき注意義務違反を認めた上で,同義務違反と原告に発症した重度の脳障害との間の因果関係を否定するとともに,同障害が残らなかった相当程度の可能性も否定して,請求を棄却した事例」

もう少し詳しく見ますと、一絨毛膜二羊膜性双胎の第一子が脳性麻痺だったのですが、過失の有無については

「同日午前8時54分から同日午前10時24分までの間,頻脈及び基線細変動の減少が認められているところ,この場合には異常波形レベルⅠとして監視の強化・保存的処置の施行又は急速遂娩の準備を行うこととされており,NSTを終了した同日午前10時24分の時点でも原告の頻脈及び基線細変動の減少が解消されていなかった以上,同日午前10時24分の経過後も引き続き監視の強化を行うことが義務付けられるというべきである。」

として原告主張の過失を認定しながら、因果関係については、

「原告の出生直後における臍帯血液ガス所見はpH7.34であり,他方で,第2児の所見はpH7.09であった」ことから、
病的なアシドーシスを示す異常値ではなかった、つまり原告の脳性麻痺は分娩開始以前から既に脳障害が発症していたものであり、被告の過失と脳性麻痺とには因果関係はなく、また過失ががなかった場合に脳性麻痺を負わなかった相当程度の可能性も認められないとして、否定しました。

そして、相当程度の可能性も認められない場合に、適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由として損害賠償責任を認めることはできないことが、最高裁平成23年2月25日第2小法廷判決で判示されており、それも認められないとして、原告完全敗訴となりました。

判決の最後の方には、以下のように綴られています。

「原告及びその家族が置かれた現在の状況から見て,産科医療補償制度(平成21年1月1日施行)の適用対象外である本件について,原告が上記主張により救済を求める心情は理解することができるものの,法的に見て,原告の上記主張を採用することはできない。 」

せっかく産科医療補償制度があるのであれば、後追いでも良いのでその制度の方で救済するしくみを作ってあげればいいのにと感じました。どうせお金余っているわけですからね。

判決文はこちらにあります。要点は2頁~3頁と、9頁の下から10行目以下です。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120808095010.pdf

8月9日追記: 原告の出生日を、産科医療補償制度施行以降だと勘違いしていました。平成21年以前の出生であったのであれば、補償制度発足前の出生であれば、後追い救済はあり得ないことでした。

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