2012年9月26日
2012年9月21日にソウル中央地裁で、医療訴訟の専門審理委員に対する尋問を傍聴してきた報告です。第18民事部、事件番号は2010年가합第12196(나)。さすがに日本で傍聴しているときのようにはしっかり聞き取れませんでしたが…
概要は、77歳女性、10年前に脳梗塞の既往あり。高血圧、高脂血症あり。その治療内容は不明(証拠資料が出ていない)。中大脳動脈の5mm程度の動脈瘤3つ。眉毛部から入って、3つとも結紮術をしたら、翌日未明に全身状態が悪化(右腕、右足麻痺、意識低下)。広範な出血、水頭症を認めて再手術したものの、最終的には亡くなった。全身状態が悪化してからの、脳浮腫対策などの治療内容も不明。(カルテが抜けている模様。全身状態が悪化するあたりまでは、看護記録よりも医師記録のほうが詳細なくらいに書かれていたと専門審理委員が指摘)
手術翌日のCT画像(これはおかしいということになってから撮られたもの)では、出血はかなり広範囲だが、眉毛部から結紮部に至る部分の出血はではなくて、それよりもかなり上方での出血。そのことから、術中出血ではなくて、遅延性出血に見えるとの意見。
原告側の主張は、
コイル塞栓術が良かったのではないか?
経過観察でも良かったのではないか?
コイル塞栓術の話は聞いておらず、説明義務違反では?
複数の脳動脈瘤を一度に結紮するのは不適切では?
術後出血は、手術中に牽引しすぎた過失があってのことでは?
術後出血に対する治療内容が不適切だったのでは?
といったところのようですが…
うーん、コイル塞栓術の説明をせずに自己決定権を奪ったとは言っても、脳梗塞既往ありの77歳女性で、そこまで過失を問うかねぇ…と思っていたら、裁判長から、「原告のうち二人は医師だそうですが、何科の医師ですか?」との質問あり。
… orz
何科であるかはその場では把握されておらず、答えはありませんでしたが、医者が怖いあたりは日韓共通ですなー
ちなみに専門審理委員に対する尋問は、まず原告代理人、次に被告代理人、そして裁判官からの質問があり、補充質問があればそれをして終わりです。
1時間半の尋問終了後に、案内してくださった書記官さんが「長時間の傍聴お疲れ様でした」とおっしゃるので、「全然長くないです。日本では尋問の日は朝から晩までやることが少なくないです」と答えたら、目を丸くしていました。
専門審理委員制度は日本でできてから韓国に導入された制度で、日本では医療訴訟ではほとんど使われていないのに対して、韓国ではフル活用されています。ただ問題なのは、専門審理委員は一般的な事柄について「説明」をするのが建前であるのに、実際のところは当該事案に対する「意見」を述べまくっているように見受けられる点でしょうかね…
あと、原告代理人は、韓国の尊厳死事件で原告代理人をした事務所の弁護士だということでしたが、専門審理委員に対する質問事項では、超基本的な質問がバンバン出てきて、「そんな質問、自分で文献をみればわかるだろ」と思わずにいられませんでした。(脳動脈瘤の自然経過での破裂率とか、クリッピングと結紮術の適応とか…)
とはいえ、第三者医師に率直に意見を求めることができるのは、双方にとって悪いことではないようには感じます。日本では専門審理委員を使おうとすると、特に東京では原告代理人が難色を示すことが少なくないですらしいのですが、無理を押し通そうとする意図がなければ、訴訟費用的にも低廉な専門審理委員制度は、もっと活用できると思うのですがね~
(韓国の尊厳死裁判:尊厳死を認めさせることを求めて大学病院を相手に提訴された事件で、韓国の最高裁で人工呼吸器を停止せよという判決が出た。ちなみに人工呼吸器を停止しても自発呼吸があって死亡せず、今度は治療の瑕疵を訴えてまた大学病院を提訴した。)
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