令和4年3月11日: 東日本大震災トリアージ訴訟を掲載
カテゴリー「医療訴訟」の記事
原本と写しがちょっと違うように見えるんですが
2017年10月3日
今日の東京地裁民事第14部、医療訴訟の本人・証人尋問期日を傍聴。事件番号は平成29年(ワ)第9104号。
証人尋問に入る前に、提出証拠類の取り調べ。
原告側が前回までに写し(コピー)を出していた証拠の原本を持ってきた模様。裁判長と左陪席裁判官がそれらをひとしきり眺めたのち、
裁判長「(原本と写しが)ちょっと違うように見えるんですが・・・」
原告側弁護士「ちょっと紛失してしまいまして、作り直して・・・」
裁判長「裁判所に提出したものと違っているんですが・・・」
原告側弁護士「(前回裁判所に出した)それでいいです。」
裁判長「(原本提出ではなくて)写しということになりますが。」
原告側代理人「それでいいです。」
ということで、作成した証拠をなくしてしまって作り直したら、最初に提出したものと文章の一部が異なってしまったというのです。
この事件での患者側の訴えは、直腸癌の手術後に縫合不全のために人工肛門を一時的に作らざるを得なかったが、そのような可能性があることの説明を聞いていなかったというものでした。
原告側弁護士「(説明の際に)誰がいた?」
原告本人「私、息子、医師、看護師。」
原告側弁護士「あ、看護師いた?」
いや、そういう事実関係は訴える前に確認しておかないんですか?
原告側弁護士「糖尿病だとの説明は?」
原告本人「受けていない。」
原告側弁護士「糖尿病だと知ったのは?」
原告本人「私は知っていました。」
原告側弁護士「知ってた?」
原告本人「○○病院の医師から聞いていた。」
いや、だからそういう事実関係は訴える前に確認しておかないんですか?
さらに聞いていると、今は人工肛門ははずれて、便も普通にできる、ご飯も大丈夫だというのです。
原告側弁護士「縫合不全は・・・」
原告本人「縫合不全自体は病院のせいではないと思っている。」
原告側弁護士「今の生活は楽しいか?」
原告本人「手術直前に比べたら全然(大丈夫)」
原告側弁護士「人工肛門になるリスクを説明してほしかったですか?」
原告本人「いや・・・」
いやいや困った話ですね。一体なにを求めて訴えているのか全くわかりません。
しかしこの後の病院側弁護士からの尋問を聞いていると、どうやら病院側の手違いで説明書が証拠として残っておらず、本人は人工肛門になるリスクを聞いておらず、同意書にもサインをしていないということのようなのです。つまり実際には説明義務違反に対する賠償請求のようなのです。ところが、
病院側弁護士「同意書にはサインをしましたか?」
原告本人「しました。」
この瞬間に原告側弁護士が「オイオイ…」とかつぶやいていました。この後結局署名もしていないし印鑑も押していないという話になりはしましたが、話しっぷりがちょっと適当で、「大丈夫かオイ」という感想はますます膨らむばかりです。
そして反対尋問。担当医いわく、術前説明の際に説明付きの同意書を電子カルテから印刷して、それを用いて説明をし、説明が終わったらサインまたは印鑑をもらって事務方でスキャンして原本を患者に渡すという運用のようなのですが、事務方の手を通っているうちに紛失したようだということのようでした。当然ながら良いことではなく、途中で紛失する可能性があるような仕組みなのであれば、改善が望まれるところです。
さて、原告側弁護士からの反対尋問です。原告側弁護士は担当医に対して、説明で同意書を使ったのだとしたらどうしてなくしたんだとか、10分20分の間に紛失するなんてそんなことありうるのかとか、それはおかしいんじゃないかとか、質問というよりも意見を何度も何度も繰り返していましたが、
裁判所に提出した証拠を自分でなくしているあなたが、そんなに堂々と言えることですか??
と心の中で苦笑いが止まりませんでした。
あとは法律家の方でないと理解が難しいツッコミです。
この事件は平成29年に提起された事件なわけですが、普通の医療訴訟で提訴から半年あるかないかで尋問まで行き着く事件というのは異例で、この時点ですでに微妙です。法廷に入ると、病院側には医療訴訟専門の優秀な弁護士がついていることがわかったので、何か問題があるとすれば患者側弁護士だろうと想像することになります。
尋問を始める前の手続きの段階。甲A3, 4号証と甲C1~4号証(下記注)を出すというのです。尋問期日までに甲C1号証(戸籍謄本等の登記類)を出していないことになり、この時点で「おいおい」なのですが、その患者側弁護士から「甲C1を忘れてきました、すみません」との宣言がなされて空いた口が塞がりませんでした。そしてその後に冒頭にご紹介した、証拠紛失宣言なのです。
職業替えしたほうがいいのではないかと思った次第です。
でも、医療関係の仕事はやめたほうが良さそうですね。その注意力ではそれこそ訴えられてもおかしくないようなミスをたくさん積み上げそうです。
注: 医療訴訟では、事実経過に関する書証をA号証、医学的知見に関する書証をB号証、戸籍謄本、領収証等の書証をC号証として分類する習わしになっています。
平田直人裁判長が、また無理を強いているのではないかと心配です
2016年9月10日
認知症の女性が徘徊して死亡した事件で、入居施設に責任を認めた事例が出ました。読売新聞 9月10日(土)付です。
認知症の女性(当時76歳)がデイサービス施設を抜け出し、徘徊(はいかい)中に死亡したのは、施設側が注視義務などを怠ったためだとして、女性の遺族が施設を運営する社会福祉法人新宮偕同(かいどう)園(福岡県新宮町)を相手取り、約2960万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が9日、福岡地裁であった。
平田直人裁判長は「女性の動静を見守る注視義務を怠った」として、同法人に約2870万円の支払いを命じた。
判決によると、女性は2014年1月、通所中の施設を抜け出し、3日後に施設外の畑で凍死しているのが見つかった。女性はアルツハイマー型認知症と診断されていた。
平田裁判長は「女性には徘徊癖があり、施設側は警戒すべきだった。すぐに警察に通報するなど最善の対応も取らなかった」などと指摘。「女性が抜け出すことは予見できなかった」とした施設側の主張を退けた。
事実経過については、裁判記録を閲覧するか、少なくとも判決文を見ないと分からないのでなんとも言えませんが(報道だけで内容を勝手に推察してものを言う谷直樹弁護士のような方もいらっしゃいますが)、以前に平田直人裁判長が指揮した事件で非常に問題のある事例を見たことがあり、また同じようなことをやっているのではないかと心配になりました。
事件記録をしっかりと見てみたいものです。
最高裁の医療側逆転勝訴判決が、裁判所判例集に収載されない
2016年9月8日
平成28年7月19日に、最高裁で(わたしの知る限り)久しぶりに医療訴訟の判決が出ました。以下のように報道されています。
なかなか興味深い事例で、裁判所判例集に収載されるのを待っているのですが、一向に収載される気配がありません。しびれを切らして、自ら記録の閲覧に行ってくる予定です。
ここからはちょっと専門的な話になってしまうのですが、この報道を読む限りでは、「患者が適切な医療を受けられなかった場合に医師が責任を負うかどうかは、その行為が著しく不適切な事案に限って検討する」という平成23年2月25日第2小法廷の判例に違反したと読めるのですが、しかしながらこの事件の最高裁での事件番号は平成26年(オ)第1476号となっています。最高裁判例違反を理由として上告審を求める場合には、上告理由とはならず上告受理申立て理由として認められることから、そうであれば事件番号は「(オ)」ではなく、上告受理申立てされたことを示す「(受)」が付されるとかんがえられるのですが、そうはなっていません。この点どのように処理されたのか、非常に興味深いところです。
高裁の判決文は既に閲覧しており、総じてレベルの低い(と言うか患者側主張を丸写したような)判決文になっているのですが、特に気になったのは次の点です。1)医師の注意義務違反について、「術後出血の徴候が認められたら速やかに頭部CTを行って、出血の有無を確認すべきだった」との旨を述べる一方で、「術後の容体の変化をある程度時間をかけて観察しなければ・・・容易ではなかった」と、ある程度時間をかけて観察することもやむを得ない旨述べており、この点が理由の食い違いがあるとも取れること。2)因果関係は認めていないながらも、過失が無ければ障害の程度を少なく抑えることができた可能性があるとしており、形式的には適切な医療を受けられなかったことに対する期待権だけによる責任認定になっておらず、報道の最高裁判示と整合しないこと。
これらについて、よく確認してきたいと思います。
やっぱりトンデモだった静岡羊水塞栓症訴訟
2016年8月25日
以前に記した、富田善範裁判長が法廷で述べたことと判決文とが全然違っていた静岡の羊水塞栓症訴訟ですが、記録閲覧をして内容を検討しました。やはり非常に無茶な内容でしたので内容を紹介いたします。静岡羊水塞栓症訴訟(富田善範裁判長の不適切訴訟指揮)、こちらからご覧ください。
「国民の信頼を傷つける行為」の程度が違う
2016年6月27日
一部で有名な、岡口基一裁判官が口頭で厳重注意を受けたそうです。朝日新聞より。
自身のツイッターに上半身裸の男性の写真などを投稿したとして、東京高裁の岡口基一裁判官(50)が、戸倉三郎・高裁長官から21日に口頭で厳重注意を受けた。高裁の渡部勇次事務局長は27日、「現職裁判官が裁判官の品位と裁判所に対する国民の信頼を傷つける行為をしたことは、誠に遺憾です」とのコメントを出した。
私に言わせれば、品位の問題はあるけれども、国民の信頼を傷つける行為という点では、横浜地方裁判所長の富田善範裁判官に比べたら全然問題にならないと思いますね。
現・横浜地方裁判長の富田善範裁判官は、所長になる直前の東京高裁の部総括だったとき、先日報道にもなった静岡厚生病院の事例で、弁論終結をした公開法廷で「因果関係はない」との心証を述べたにもかかわらず、弁論の再開をすることもなく、判決文では「因果関係あり」との真逆の判断を出しました。毎日新聞より。
2008年に静岡厚生病院(静岡市葵区)で帝王切開手術を受けた同市の女性(当時24歳)が死亡したのは、病院が適切な治療を怠ったためだとして、遺族が病院を運営する県厚生農業協同組合連合会(JA静岡厚生連)と産婦人科医3人を相手取り損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、東京高裁(富田善範裁判長)は26日、請求を退けた1審判決を取り消し、病院側に計約7490万円の支払いを命じた。【早川夏穂】
新聞報道では「救命できた可能性があった」と書かれていますが、記録閲覧をして判決文を確認したところ、「因果関係がある」旨が明記されていました。
こういうことをする裁判官こそ、裁判所に対する国民の信頼を真に傷つけると言うべきであって、最高裁はこういう裁判官をどう処遇するかを考えたほうがいいと思います。まさか天下りで公証役場とかのポストを用意したりはしないですよね?
平成28年6月28日、当該裁判長の名前を訂正(申し訳ありませんでした)