心房細動のカテーテルアブレーションで完全房室ブロック合併

2012年4月11日

年度変わって間もない平成24年4月9日。例年、年度初めは裁判がほとんど開かれないので今日もないだろうと高をくくっていたら、予想に反して午前10時から午後5時予定の尋問がありました。

原告は発作性心房細動があり、投薬では抑えきれなくなってきたためにカテーテルアブレーションを希望した方。WPW症候群で、以前にもカテーテルアブレーションを施行されていました。

平成18年に被告病院で、肺静脈隔離術に加えて、三尖弁輪下大静脈峡部線状焼灼術(以下、線状焼灼術)を一期的に施行されたところ、その線状焼灼術中に、突然に完全房室ブロックを来したようです。今はペースメーカーを入れられています。

原告協力医として、東京医科大学八王子医療センターの鵜野起久也准教授が登場です。

大雑把なところを記すと、

・肺静脈隔離術と線状焼灼術を一期的に行うことは許される。

・アブレーションラインが、非常に中隔に寄りすぎている。もうちょっと縦壁側、胸郭側を焼く。一緒にやっている平成10年卒の医師もそう言っている。

・天井が低いから、少し動いただけでも房室結節に当たりうる。

・心内電位の見方に問題がある。これを見たら通電はやめるべきだ。やめていれば完全房室ブロックはなかった。

・指導医としてこういう見方をしているとするとヤバイ。

・チーム全体として注意していれば防げた事故

心電図については、私には荷が重いですが、

・不安定な房室伝導。長くなったり短くなったりしている。一回興奮すると膜電位が下がる。これが出たらやめろと若い医師に言っている。

・dullな電位が見られる。His束近傍にある。

・ノイズがこんなに大きく動くときは、カテーテルの先端が動いている可能性があり、確認しないといけない。

・房室伝導時間が10~20ミリ秒短縮するのは誤差範囲ではない。

・午後4時59分51秒、自律神経興奮の一時的な房室乖離がある。僕なら中止する。

・午後4時59分56秒、午後5時00分09秒、房室伝導回復しているから、午後4時59分54秒の時点では II度またはIII度房室ブロックではない。

・アブレーション、I-IIと III-IVの振幅が小さい。焼けたからだとすれば III-IVは小さくならないが、カテーテルのずれだとIII-IVが小さくなるのでこちらだ。

・心房電位も大きい。

被告病院指導医の主張は、

・dullな電位が His束近傍ということは成書に書いてあることではないと思う。

・午後4時59分31秒~32秒、aVL1,2, His 5,6に電位に変化あり、ノイズがあるのは、カテーテルの干渉、接触と考える。

・その後の変化はなく、透視で位置の変位はない。カテーテルの干渉はよくある。変位がなければ続ける。心電図でも変化がない。

・房室ブロックが出る前の写真、His束よりも随分したにカテーテルがある。

・見かけ上の房室伝導短縮、220ミリ秒→202ミリ秒、これは有意とは取っていない。検査中に判断つけるのは難しい。

・房室乖離が出ている原因は、痛み茂樹、寝室側交感神経↑による。(原告は、洞房結節が傷害されて接合部調律になっていると言っている)

・房室乖離で中止しない。心室が焼けていると判断。blocked PACが出ている。

・房室ブロックかどうかは、1拍では判断しない、できない。数拍見て鑑別して決める。途中でやめるとまた最初から焼灼ラインを引き直さないといけなくなる。

・カテーテル先が中隔に近づきすぎているとの指摘があるが、特に問題がある位置とは考えていない。今回のような房室ブロックは今までにない。

うーん、眼科の私には荷が重いですが、医学論争をそのまま法廷に持ち込んでいるような印象です。つまり、裁判でいえば、最高裁で他の裁判官と異なる反対意見を書いた裁判官に責任を負わせようとするようなものに見えます。

東京地裁民事第14部の高橋譲裁判長では、そのような専門家の判断の機微に触れることなく、有責を出すのではないかという匂いを感じました。

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