コーヒーこぼしてマックを訴えた裁判の真相

2012年3月6日

岡口基一判事のツイートで知ったNHK BS放映の、マクドナルド「ホットコーヒー裁判」の真実を見ました。コーヒーでやけどして訴えて2億円という、トンデモ裁判だと言われていたけれど、実は報道の印象と真逆だというふれ込みのようです。

ところが私にとっては、最初の数分を見てすぐに、これは全然真逆ではないと思われました。コーヒーが熱すぎたといいますが、そもそもコーヒーは熱いのが当然ですし、買ったコーヒーを股に挟んでフタを開けたようですが、それはそもそもコーヒーに対して行う行為ではありません。それでやけどしたならそれはやけどした人の過失でしょう。番組では、それまでにもコーヒーが熱すぎてやけどを負ったという苦情が700件あったのに放置していたと言います。そのすべてが、従業員が客にぶっかけてしまったものであったのにそれを放置したというのならば、過失と言われて納得もしますが、やけどが発生した状況を把握しないまま苦情件数だけを並べて、対策を講じなかったことを直ちに過失だなどと断言することには違和感を覚えます。

番組では、コーヒー2日分の売上を懲罰的損害賠償として算出したとして、懲罰的損害賠償額が2億円と高額になった理由を述べていますが、計算式が入っているからなんとなく根拠があるもののように見えますが、とどのつまりは直感的な算出に過ぎません。

この裁判を利用するなどして、大企業や国が「馬鹿げた裁判のツケは市民に回ってきます」とキャンペーンを行ったと言います。「馬鹿げた裁判のツケは市民に回ってくる」という面を全否定することは難しいと思います。そもそも懲罰的損害賠償などというものを肯定して、異様な高額賠償を裁判所が認定するものだから、それを巡る余計な紛争が起きているのではないかと思います。

そのようなキャンペーンの結果、多くの州で損害賠償額に制限が設けられたと言います。それを見た時点で私は、「通常の損害に上限を設けるならとんでもない話だが、懲罰的損害賠償額に上限を設けるならあってもおかしくない話だろう。」と思ったところでした。

ところが驚愕すべきことに、州によっては、なんと懲罰的損害賠償額だけでなく、賠償額全体にまで上限を設けたというのです。こうなるともう目茶苦茶でしょう。相手に明らかな過失があっても、受けた損害の全ての賠償を受けられない可能性がある民事訴訟。こうなるとアメリカの裁判制度自体が、大きな社会混乱を招いているのではないかとの考えを禁じえません。

とりあえずの全体的な印象を書いておきますと、

1.  様々な面において自己責任を旨とすると思われるアメリカで、コーヒーをこぼしてやけどしたことが賠償されるのが当然と受け止められていることに違和感を感じます。

2. そのような社会の中で、民事訴訟がまるでバクチ的な後出し保険制度として君臨しているような印象です。

3. 番組では、政府や大企業の策略を指摘しているようですが、私にはむしろこの番組自体が、法律家とりわけ弁護士の策略によるものではないのかという捉え方も可能だと思わせられます。

町村先生の記述とはだいぶ違いますが、受け止め方は人それぞれということで。

今日、後半の放映があるようですので、楽しみにしています。

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コメント

  •  酷い番組でしたね。この事件では、原告(自分でコーヒーこぼして人の所為にして大金稼いだ老人)の言い分は、まったく不当な物である事は疑いの余地がありません。 

     マクドナルドの店舗数は、米国だけでも13000件を越え、全国では30000件に及びます。その内、700件の苦情、と言うのは、「完全に無視できる数」です。逆に言えは、99.99%以上の人が何の苦情も持っていなかった、と言うより、十分に満足していたと言う事が言えます。

    更に、コーヒーを何度で出そうが、他人の知った事ではありません。100度の熱湯を出したのでもありまいし、砂糖やミルクを入れる人が殆どであることを考えると、その段階で既に適温になり、更に、一気に飲むのでなければ、飲み終わる頃にはぬるくなっているでしょう。従って、温度は十分にこのような事を考慮に入れて、考え抜いた末に設定されていたものです。

    イカれた老人が、紙コップに入った入れたてのコーヒーを、股に挟んで飲む事など、まったく想定する必要はありません。マクドナルド側は、10000000%、まったく何の落ち度もなかった事は、余りにも明らかです。

    この原告は、コーヒーが熱い物である事を、当然、100%分かっていた筈です。それにもかかわらず、紙コップに入っていたホットコーヒーを足の間に挟んで、当然の結果としてこぼして大火傷をした。その火傷がどれ程、大きかろうが、それでぽっくり死んでしまったのであっても、バカの一言に尽きます。それ以上の何物でもありません。まったく、何の同情もありません。

     このいかれた原告の為に、マクドナルドではぬる目のコーヒーを出される羽目になって、本当にいい迷惑です。

     このTVの番組は、事の是非とは全然違った所に、完全に話をすり替えています。挙句の果てにレイプ事件まで持ち出して、まるでこのイカれた原告が被害者のように扱っていますが、完全な筋違いです。

     このような番組を見て、この迷惑でイカれた老人が正しいと思い込むようであったら、大変な事です。
    この番組は、明らかに一方的で筋違いな、完全に誤った事を伝えています。非常に不愉快です。

    2012年11月1日 | K.

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