骨髄減圧術・説明不足の合併症訴訟

2010年5月13日

 平成21年2月4日に傍聴した事件です。東京地裁民事第35部、事件番号平成19年(ワ)第16046号。骨髄減圧術という、痛みをとるための特殊な治療に関する事件です。詳細はこちら

 原告Fは、A病院、平成18年8月29日初診。「痛くて歩けない」と。
 同年9月19日および12月5日に、骨髄減圧術を施行された。9月19日の治療ではある程度効果があったがその後効果が消失。
12月5日の骨髄穿刺で非常に強い圧がかかり、出血。臀部血腫となって歩くこともできず、しばらく入院となった。その期間の収入減少などについての請求で、後から確認したところ請求額2700万円余り。同意書はなく、危険に関する説明は不十分だった模様。
 病院側弁護士が尋問している最中に、原告側弁護士から「異議あり!」を連発されていた。その原告側弁護士は、例の弘中淳一郎弁護士とその娘である弘中絵里弁護士の揃い踏み。弘中絵里弁護士は父親譲りか、尋問中の目つきと発声が鋭く映った。内容にも判決にも興味深い一戦。久しぶりに歯ごたえのある訴訟を見たという印象。

 以下は傍聴メモですが、かなり杜撰です。参考までに。
 Bは術施行者、Cはその師匠で事件後に病院辞任しその後死亡、Dは同僚?、Eは別の病院で骨髄減圧術を手がけている証人。Fは原告本人です。

原告本人尋問

(質問書き取りなし)
—— 原告が知らないうちにやってしまった。話がないうちにやられた。9月19日は腰から下が痛くて病院に行った。減圧術の話は聞いていない。

乙A3号証(カルテ)18ページ、「10月3日、前回減圧術で効果+」と書いてある。効いたか効いていないかを言ったか否か?
—— 記憶にない。

12月5日にも骨髄減圧術をやった。これもはじめから神経根ブロックだけでは効かないので2回にわたって、10月27日と11月21日に打ち合わせをしたが。
—— 記憶にない。私はいつもの神経根ブロックだと思っていた。

減圧術を医師に申し入れたことはあったか?
—— ない。

11月7日に減圧術の申し入れをしたことは?
—— 減圧術自体を私が理解していないので、申し入れた憶えもない。

「予 寛骨臼蓋減圧術」と(書いてある?)。打ち合わせをしたことは?
—— 記憶にない。

減圧術後はどうだったのか?
—— 2~3日はよかった。日にちが経つにつれて元に戻ってしまう。退院した後のほうが(痛くて)50mくらいしか歩くことができなかった。

脊柱管狭窄症を持っている。

8月29日、この日の検査では300歩だった。
—— 背中が痛くて。

12月5日から12月26日の間に脊柱管狭窄症の治療は何回受けたか?
—— 1回しかやっていないんじゃないですか?

もっとやっているんじゃないですか?

内出血の痛みが止まったのは?
—— 退院の2~3日前。内出血は脊柱管狭窄症の治療から来ている。

平成18年10月3日、減圧術は効果があった、減圧術との意識はないにしても軽快したと言ったか?
—— 言った。(峰村注:さっきは「記憶にない」って言ったのに…

裁判長
模型を用いての説明は?
—— 2~3分。良くわからなかった。

————————
D医師尋問
平成18年、診察開始時は?
—— C医師→亡くなられた。

薬の一覧表は渡されたか?
—— 全く見ていない。

9月19日、減圧術。
—— 詳細は陳述書に。

いつ、どこで、減圧術についての説明は?
—— 当日。5番椎体に穴あけをすれば痛みが楽になる、と。12月5日は、1人目の患者で時間がかかって大変だった。いらいらした。有効率、合併症発症率の説明はしていない。

手順の話は?
—— していない。

臀部血腫→硬膜外ブロックをしていたが。
—— はじめは非常によく効いていたが、だんだん効かなくなってきた。脊柱管狭窄症。

第2腰椎神経根やってみてどうだった?
—— 仙骨ではなく第2腰椎疼痛と考え、著効した。

平成19年2月1日、退院前に脚が悪かった。原因は?
—— 臀部血腫。

平成19年2月13日に悪化していたが。
—— 驚いた。

原告代理人。弘中絵里
腰下の痛み。大抵の方は5~6回受けている。

C医師は12月に、「もう辞めます」と言って来なくなった。

骨髄減圧術はF氏の合併症以来止(と)められている。B医師は12月5日で終了。C医師は他院ではやっていた。

メリット、合併症のパンフレットは?
—— みんなに配るまでは渡していない。合併症については良くわからなかった。あまり書かれていないと思う。口頭のみだった。

同意書は?
—— 同意書は取っていません。

求めた治療は?
—— C医師は減圧術ばかりをやっていた。

診察室の広さは?
—— 4~5畳くらいか。

減圧術についてF氏は知っていたか?
—— 「穴あけ」という言葉は知っていた。

C医師がしたのではない。被爆して手が黒くなっている。自分ではできない。

対症療法か?
—— 中間。

効果は?
—— 2~3ヶ月。穴が塞がるまで。

F氏はお尻の痛みを伝えなかった。

9月19日、脊柱管狭窄症の治療ではないが効いたので、第2腰椎に効いても寛骨には効くとは限らない。
仙骨ブロックをしても痛みがあったので減圧した。

痛みを2つに分類。

ペインクリニックでは一般的。C医師の圧痛点診断法。

歴史は、若杉医師、40年。浅い。

治療法もどんどん変わる。

神経根性疼痛、骨膜性疼痛。

臀部に血腫ができた例は、F氏より前に1例あった。寛骨臼蓋に穴を開けた。開けた場所は…レントゲンを見ていません。

かんこつ臼蓋に穴を開けた、という論文はなかったか?
—— ありませんでした。訴訟には出していません。

こんな大きな血腫ができるとは考えていませんでした。こんなに強い疼痛が起きるとは考えていませんでした。12×8×17cmの血腫が筋肉内に。12月 13日が一番大きかったです。

12月2日以降、ずっと出血し続けていたのか?
—— 可能性はあります。

12月11日にご家族に説明。

出血がおきてから。

想像もつかない、理解できないことだった。初めての経験でした。私が刺して疼痛が非常に強くなり、私も舞い上がっていました。骨髄が、今回は噴いた感じでした。

説明時は「動脈を刺したと思う」と。
—— 何が起こっているのかわからなかった。少し血腫が。

動脈の圧が体重をかけないと入らないとか、押さえていないとポンと戻ってくるとか、信じられない事態だった。骨髄圧がメチャメチャ高かった。血腫がびまん性に拡大された。

骨髄圧が非常に高かった症例は?
—— C医師の1500症例中2例でした。

投薬一覧は?
—— 見ていません。見ていれば書いていました。

———————–
E医師
骨髄減圧術の有効性は?
—— 治る症例をたくさん経験した。重篤な合併症は経験していない。

減圧術はいつから?
—— アイデア自体は新しいものではない。それを復興したものだ。

血腫は?
—— 経時的に小さくなる。特殊な例を除いて治癒する。

本件は?
—— 血腫発生後も病院内で診ている。危険は少なく、生命の危険はなかった。

で、結末なんですが、250万円での和解でした。説明などについて、いろいろと考えさせられる事例でした。

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