魅惑の弁護過誤訴訟・閲覧編

2010年5月10日

昨日の続きです。事件の発端は交通事故です。

 平成13年1月10日、原告と訴外Sとの交通事故がありました。原告が訴外Sの車の前に割り込みに近い形で車線変更した後,左折のために減速をしたところに,訴外Sの車がよけきれずに角の部分で衝突したというもの。

 これを被告弁護士の事務所に相談したのですが,ひと悶着あって結局受任していません。被告である弁護士は受任していない上,念には念をで辞任通知も出しています。そして原告がその辞任通知を受け取った数ヵ月後に、損賠請求時効消滅に気づかずにその権利を失い,これは弁護過誤だと被告を訴えたものです。

 この部分については,提訴前に被告らから原告代理人に対して送られた通知の内容を参照します。なお,甲がこの事件の原告となる人(つまり交通事故に遭った人)、被告となる乙1は事務所経営者,乙2はイソ弁(2年目)です。

平成19年3月5日(提訴前)

 甲から依頼を受けた交通事故。なすべきことは全て行った上で辞任した。費用も頂いていない。弁護過誤の主張には理由がない。
 甲の要望は,比較的軽微な事故であるにもかかわらず,加害者に対して何億もの損害賠償を要求してほしい,また甲側の過失割合をゼロと認定されるようにしてほしいとのもの。
 当職らは,甲の希望する解決は見込みとして難しいとお伝えした上で,受任に備えて準備していたが,平成14年1月頃,乙2が,甲から「『前例に鑑みれば難しい』などという見込みを示すような無能な弁護士には頼まない」と,委任しない旨の連絡を受けた。
 平成14年末,甲の自賠責請求の消滅時効が迫っていたことから,当職らは甲の紹介者が当事務所の関係者の父であったことから,自賠責時効中断の手続のみを最小限のサービスとして無報酬で行い,他の弁護士に依頼しうる状況にてはっきりと依頼を断った。
 委任契約が成立していないことは明らかであり,甲の主張に理由がないことは明白。

 ちなみに,今回の訴訟の訴状によれば,原告が主張する事故損害額は2639万1902円とのことです。しかし一方で,実際に自賠責で受け取った賠償金は 50万5520円です。

 次に,証人・本人尋問に先立って,被告らから裁判所に送られた通知です。

ご連絡
 被告乙1につきましては,本人尋問を立証方法としては行わないことにします。
 そもそも,本件は,消滅時効の援用がない以上,当事者尋問は不要であり,これ以上被告乙1として,原告の請求に煩わされる時間が増えれば,事務所経営者として業務上取り返しの付かない損失を被る危険があり,このような援用のない損害賠償請求訴訟を提起した原告及び原告代理人に対して,法的措置を辞さない構えであり,被告乙1としては尋問に応じる意思がないことをお伝え申し上げます。
 被告乙1につきましては,これまでの証拠,主張,被告乙2の法廷供述によりご判断いただくことで結構でございます。
 なお,被告乙2としましても,このような訴訟に乙1を出頭させるわけには行かず,自分のみが出頭することを希望しておりますことを申し添えます。

 事故に関して時効の援用が無かった模様です。消滅時効の援用という概念を初めて知りました。「時効なので払いません」と言われない限り,自動的に時効にはならない,ということのようですね。

 それに,訴状を見ると,こんなくだりがありました。

 甲は,被告から辞任の通知を受けとった後,自動車保険相談センターの立川相談センターにて,被告らから受領した書面を示しつつ,自賠責保険会社からの承認により,加害者に対する不法行為に基づく損害請求権についても時効中断の措置がとられているのかどうかを尋ねた。すると,相談担当の弁護士から,大丈夫である旨の回答を得た。そのため,原告は,直ちに,訴え提起等の時効中断の措置を取らなかった。

 被告が辞任した後にも,原告自身がちゃんと確認もしているし,どうしてこんな事件で訴えようっていうんでしょうかね? しかも,それを受任した弁護士がいるという事実。

 医療過誤訴訟における,原告協力医の存在とダブって見える気がします。

(もう少し続く)

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