脳動脈瘤塞栓術後に死亡した、広島日赤の事例

2021年4月29日

新聞報道された、広島日赤の脳手術後死亡で、病院が逆転敗訴した裁判についてです。

日赤に6700万円賠償命令 脳手術後に死亡 広島高裁、一審を変更

事件番号は広島高裁平成31年(ネ)第83号で、裁判所サイトに判決文が掲載されていますが、短時間ながら広島高裁で記録を閲覧してきましたので、その報告をします。

事例は、脳動脈瘤破裂でクモ膜下出血を来した患者さんに、再発予防のために脳動脈瘤コイル塞栓術を行ったところ、手術中に再出血を来し、最終的にお亡くなりになったというものです。まずは患者さんのご冥福をお祈り申し上げます。

 

この手術は平成25年6月に行われ、裁判は平成26年に広島地裁に提起されました。一審判決は平成31年に出たようで、実に4年以上がかかりました。一審では原告からも被告からも、医師による意見書のたぐいは提出されず、遺族側の敗訴となりました。なお、原告側は小笠豊弁護士という医療訴訟では知られた先生が提訴から担当されていましたが、提訴3年後にお亡くなりになられ、他の先生が引き継きました。

 

遺族側が控訴し、広島高裁で改めて審理が行われました。令和元年6月24日の第1回口頭弁論以降、裁判長ではなく右陪席裁判官である絹川泰毅裁判官が、一貫して受命で指揮を取りました。異様に見えたのは、3回の弁論準備を経た後の令和元年12月10日以降、裁判所から病院側弁護士に対する「事務連絡」として、遺族側弁護士から病院側弁護士に対する質問事項に基づいた質問書が、繰り返し発せられたことでした。内容的には通常であれば一審の裁判が始まってほどなくなされるべきであろう基本的な事実確認に始まっており、控訴審で問題にされた「フレーミング」というコイル塞栓術の手順についても、このとき初めて言及されたようです。提訴から5年も経って、一から審理をやり直すような、それも裁判官が率先して争点を見つけ出しに行くような訴訟指揮には、強い疑問を感じました。

 

控訴審でも、医師の意見書が原告側から提出されることはありませんでした。一方、病院側からは医師の意見書が提出されましたが、裁判所は、その意見書は被告病院の医師と関係が深い医師が書いたものでもあり、にわかには信用できないと判断したようです。

 

私は眼科医であり脳外科の手術には素人ですが、情報を集めたところでは、「フレーミング」というのは一種の手術テクニックであり、何をどこまでしないといけないという明確な基準はないという印象です。「このようなフレーミングをしないと過失にあたる」というような基準はなさそうだということです。それでも裁判所は、それを肯定する医者の意見もないままに、フレーミングが不十分で過失があったと認めており、その過失認定は強引に映ります。雑駁な感想ですが、全体としては、結論ありきで机上の空論を立てて有責を認めたという印象です。

 

なお、控訴審判決の別の問題として、遺族側の慰謝料を認めた部分で、通常であれば死亡慰謝料は無くなられた方から遺族が相続して得るものなのに、この事件では遺族に直接慰謝料が認められており、判断の手法に問題があるようです。この点につき、山中理司弁護士のブログの「西井和徒裁判官(38期)の経歴」の項に記載があります。

 

なお、広島日赤で最初に患者さんを診察した先生は、開頭クリッピング術はするけれどもコイル塞栓術はしない先生で、どちらを選ぶべきかを相談するために、大学病院と相談し、塞栓術で行うことを決定して、塞栓術の術者を招聘して手術が行われました。大学病院の先生の意見によると、この患者さんは脳血管攣縮を来しており、その場合に開頭クリッピング術を行うと、術後にまた攣縮を起こして脳梗塞に至るケースが経験上非常に多いため、塞栓術を選択したということでした。

 

病院側からは上告(及び上告受理申立て)がなされているので、引き続き注目したいと思います。

このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA


医療裁判・医療訴訟
医療裁判傍聴ブログ新着記事: 父の診療を担当した医師(息子)が、姉妹から訴えられた事例 | 「頑張れる自信が全く無いですよ」 | 腹部大動脈瘤の有無を疑い、検査を追加すべき義務? | 鼻の整形手術後死亡事例の訴訟、一審の認定事実抜粋 | 癒着を剥がそうとすると出血する脳動脈瘤をクリッピングした際の合併症で争われている事例 |
★基礎編: 医療事故を裁判で裁くのは好ましくありません | 裁判傍聴の方法 | 裁判記録閲覧の方法 | 書類送検について | 医療訴訟の原告の方へのアドバイス | 医療訴訟の患者側勝訴率が急低下 | 裁判官の方々へのメッセージ | 「業務上過失人権侵害罪」の立法を | 沖田光男さん痴漢誤認逮捕事件の差戻し審判決に思う | 医療訴訟の現状と問題点 | (HTML版はこちらから) | 訴訟記録閲覧時のメモ取り行為と,裁判の公開原則,レペタ裁判の関係 | 宮川光治裁判官の余計な一言 | 手術の合併症と法的過失 | 画像検査の見逃しと法的過失
★事件編: 東日本大震災トリアージ訴訟妥当 | 抗癌剤内服拒否死亡事件妥当妥当 | クルーズ船脳出血発症緊急搬送訴訟 | 高松三つ子緊急帝王切開訴訟 | 静岡羊水塞栓症訴訟(富田善範裁判長の不適切訴訟指揮)妥当 | 大橋弘裁判長トンデモ訴訟指揮事件妥当 | 富山医科薬科大学MRSA腸炎訴訟 | 代理人が辞任してしまったので・・・和解 | リピーター弁護士 なぜムリを繰り返すのか不定不定 | 沖縄総胆管結石摘出不成功訴訟和解 | 不要な点眼処方は暴力行為だ!和解 | 素人も削ってみたけれども、悪いのは歯医者です和解 | 眼底造影検査アレルギー死亡訴訟妥当妥当 | 開業医時間外診療拒否訴訟和解 | 異食症高齢者誤嚥死亡訴訟 | 行き当りばったり提訴医療訴訟事件妥当 | 三平方の定理血管穿刺訴訟妥当 | 日野心筋梗塞訴訟妥当 | 京卵巣腫瘍摘出尿管損傷訴訟妥当 | 老人ホーム誤嚥常習者心肺停止訴訟和解 | 椎間板ヘルニア術後下垂足訴訟和解 | 北陵クリニック筋弛緩剤点滴事件妥当妥当妥当 | これを治っているというのはどこの医者だ!和解 | 東京産婦MRSA感染訴訟 | 徳島脳性麻痺訴訟不明微妙 | 医療問題弁護団問題1和解 | 医療問題弁護団問題2和解 | 医療問題弁護団問題3和解 | 医療問題弁護団問題4 | 谷直樹弁護士の謬論 (医療問題弁護団問題~5~) | 青森里帰り妊婦OHSS訴訟C以上妥当 | 一宮身体拘束裁判妥当妥当 | 八戸縫合糸訴訟妥当 | 加古川心筋梗塞訴訟 | 東京脳梗塞見落しカルテ改ざん訴訟妥当和解 | 東京の皆さ~ん,こちら岡山で~す妥当 | 関東中央病院PTSD訴訟妥当妥当 | アヴァンギャルド癌治療訴訟和解 | 十日町病院術中死訴訟妥当 | 腰椎圧迫骨折保存療法訴訟和解 | ゼロ和解したRSD訴訟和解 | 福島VBAC訴訟和解 | 過剰な吸引分娩による胎児死亡訴訟微妙妥当 | 産婦大量出血死亡訴訟妥当 | 新島骨折見逃し訴訟 | 奈良先天緑内障訴訟 | カルテ改ざん訴訟妥当妥当 | 円錐角膜移植手術後散瞳症訴訟妥当 | 奈良救急心タンポナーデ訴訟妥当 | 亀田テオフィリン中毒訴訟 | 村田渉判事の判決文に学ぶ1妥当 | 村田渉判事の判決文に学ぶ2妥当 | 村田渉判事の判決文に学ぶ3妥当