令和4年3月11日: 東日本大震災トリアージ訴訟を掲載
カテゴリー「裁判一般」の記事
弁護士は、嘘を通そうとすることがある
2012年2月7日
御殿場事件で、強姦未遂で服役終えた元少年4人が、事実無根だと、被害者女性を相手取り提訴したそうです。以下、読売新聞記事です。
静岡県御殿場市で2001年9月、少女(当時15歳)に乱暴しようとしたとして強姦未遂罪に問われ、最高裁で有罪が確定して服役した当時16~17歳の元少年4人が、「虚偽の被害申告などで有罪判決を受け、精神的苦痛を受けた」として、被害者とされた女性に計2000万円の損害賠償を求める訴えを静岡地裁沼津支部に起こした。
提訴は昨年12月21日付。訴状によると、元少年らは「強姦未遂の事実は全くない」と主張。取り調べや公判などで女性が虚偽の証言を撤回しなかったため、有罪判決で服役し、精神的苦痛と財産的損害を受けたなどとしている。
(2012年2月6日11時48分 読売新聞)
私自身はこの事件の判決文を読んで、裁判所の判断は正しいと感じたのですが、それはさておいて、以下は一般的な話です。その仕事のあり方からいって、弁護士は時として嘘を押し通そうとする場合があるという事実を確認しておきたいと思います。
医師が自分で違っていると思う診断を主張したり、裁判官が自分で違っていると思う判決を書いたり、検察官が自分でシロだと思っている人を起訴したりすることは、極めて特別な例外を除けば無いでしょう。これら三者が間違いを犯す場合というのは、誤った認識を持ったことによって犯すのであり、わざわざ自分の思いに背いて犯すものではありません。
ところが弁護士は、刑事事件で被告人がクロだと思いながらもシロだと主張したり、民事事件で勝訴は極めて難しいと思いながらも受任したりということがあり得ます。これがどの程度追求されるべき問題なのかは、私には判然としません。
御殿場事件についてこれを声高に主張しようというものではありませんが、かつて、北陵クリニック筋弛緩剤点滴事件について調べたときに、上記のことを強く感じたので、今回の提訴報道を見て、改めて上記の問題点を確認する次第です。
家系図が「事実証明に関する書類」?!
2010年12月23日
なんか、被告人が他人の依頼を受けて、戸籍を調べて家系図を作ったら、家系図は「事実証明に関する書類」であり、これを資格なしに作成したのは行政書士法違反だとして起訴されて、一審、二審とも有罪判決が下されたものの、最高裁が破棄自判で無罪にしたということのようで。最高裁判決文はこちら。たった5頁なんでお時間がある方は是非。
いやあ・・・
この判決文に書かれている事実の下で、
家系図を「事実証明に関する書類」だと認定した方々の、そのセンスは私の理解を超えています・・・
こんにゃくゼリー裁判の判決文
2010年12月6日
医療裁判ではないのですが、気になる事件のことなのでこちらで書いておきます。
こんにゃくゼリーを喉につまらせて亡くなった子供についての裁判、判決文が出ました。会社側無責の理由について,しっかり書かれていると思います。
会社側無責の理由とは別のことですが、事故当時の状況について、判決文36ページに以下のように書かれています。Cが亡くなった児、Fが祖母、Gが伯母です。
Cは,本件事故当時,当時1歳10か月足らずであることからしても,同人に食物を与える際は,こんにゃくゼリーに限らず,保護者等(大人)が食べやすい大きさに加工するなどし,摂取中はそばについているなどして与えるのが通常であると考えられるところ,本件では,Fは,本件こんにゃくゼリーをミニカップ容器のままCに与え,自らはテレビに見入り,Gは入眠しており,Cが同容器をFから与えられ誤嚥するまでの一部始終を全く知らなかったというのであるから,およそ本件こんにゃくゼリーの通常予想される使用形態とはかけ離れたものであるといわざるを得ず
責めるつもりは毛頭ありませんが、割り箸事故と同様に、保護者の不注意が発端であったと言うことができそうです。
判決文としては枝葉末節な点ですが、裁判所の判断として印象深かった点をあと2つ挙げておきます。まずは判決文36ページ。
Fは,本件こんにゃくゼリーを購入した際には警告表示に気付かず,視力が減退しているため小さい字は見えにくい旨を証言等するが,証人尋問の際には本件事故現場であるF宅の部屋の絵を文字の説明入りで難なく描いていたのであり,Cの所持していた本件こんにゃくゼリーのミニカップ容器の上蓋を剥がすのに苦労したというような事情も見当たらないこと,Cに本件こんにゃくゼリーを与える際には良く噛んで食べるようわざわざ注意喚起までしていることからすれば,Fの上記証言をにわかに措信することはできないといわねばならない。
こういう事実認定の検討は,裁判官の得意とするところですね。
もう1つ、こちらは読んでいて思わず唸ってしまいました。判決文27ページ。
なお,被告らは,本件こんにゃくゼリーの商品名につき,ゼリーではなく,「蒟蒻」畑であり(外袋表面),「フルーツこんにゃく」である(同裏面)旨を主張するが,証拠によれば,本件こんにゃくゼリーの外袋表面には,中央の「蒟蒻畑」という文字のすぐ下に英語で「jelly」と表記されていることが認められることからすれば,被告ら自身,「ゼリー」であると強調してはいないものの,「ゼリー」であること自体は認識しているものと推認されるから,これに反する被告らの上記主張は,採用の限りではない。
的確な判断に恐れ入りました。尤も上記内容は、裁判所の発見というわけではなくて、裁判の中で原告側が既に主張していたことかも知れませんが。