カテゴリー「医療訴訟」の記事

亀田テオフィリン中毒事件

2008年2月25日

今日、亀田テオフィリン中毒事件の症例検討会が開かれました。
事件は、千葉県の亀田総合病院という大きな病院で、テオフィリンという喘息の薬を常識外の大量服用したと思われる救急患者が、医師の努力むなしく死亡したという事例です。遺族が医療ミスだとして裁判を起こし、東京高等裁判所の判決で7000万円あまり(+利息)の損害賠償の判決が下りています。
その症例検討会を聴いてきたわけですが、亀田総合病院の治療には問題がなく、医療ミスなどというものとは無縁の、亡くなるべくして亡くなった事例だと確信しました。
それなのになぜ裁判では病院が負けたかといえば、一言で言えば裁判自体がお粗末だからです。この裁判の最大のお粗末さは、この裁判の病院側敗訴を決定付けた鑑定書を書いた医師を、裁判所で証人尋問していないことです。鑑定書を書いた医師たちが書きたい放題書いておきながら、反対側からの質問を十分に受け付けていないのです。(ちなみに鑑定書きは公務でしょうから、実名公開しても構わないと思うのですが、さしあたりは控えておきます。)
裁判がお粗末であるために、本来なら他の人々の医療使われるべき7000万円あまり(+利息)のカネが、本来受け取る資格がないと思われる人々に流れていきます。みんなのために使われるべきカネが、ごく一部の特定の人々に持っていかれるのです。
こんなことがまかり通るようでは医療が崩壊するのは当然です。
ところで、この裁判の原告側弁護士として福地直樹氏が筆頭に書いてあります。C型肝炎訴訟にもかかわる、医療問題弁護団に属する弁護士です。私は自分の中で勝手に「医療破壊弁護団」と読み替えています。
症例検討会の様子はこちらをご参照ください。
http://lohasmedical.jp/blog/2008/02/post_1088.php
判決文についてはこちらをご参照ください。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20071225

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REMEMBER 2.18 ~第2章~

2008年2月18日

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福島大野病院事件で医師が逮捕されて2年がたちました。
「癒着胎盤の経験もなく、帝王切開で女性を死に至らしめた」との容疑で医師が逮捕され刑事訴訟になり、長い時間をかけて結審に向けて動いています。
刑事裁判でのやり取りを読めばわかりますが、逮捕された医師になんら落ち度はなく、女性は出産にまつわる自分自身の病気が原因で亡くなったのであることがほぼ確実です。
http://lohasmedical.jp/blog/2007/11/101.php
例えば、大怪我をした人が病院に駆け込んだからといって、必ず助かるものではないですし、ほかの病気だって同じことです。病気というのはそういうものです。医師の努力むなしく命を落とすことなど日常茶飯事です。
要はこの事件もそういうものだったということです。それを医療過誤だと糾弾され、逮捕・起訴されるようでは、医療行為などというものをやる人がいなくなるのは当然と言えます。
この女性の死亡原因究明はなかなか難しいところがあるようですが、逮捕された医師の医療行為が妥当であったことは、学会シンポジウムなどで検討すれば、それこそ十数分~数時間程度で明らかになる簡単なものだったと思われます。
ところがそんな簡単な結論を出すのに、逮捕・起訴して何年も裁判に時間をかけて、当該医師の医師生命を縮めて、その他大勢の医師を恐怖に落とし入れたため、危険を伴う分野から医師が逃げる結果となり、医療崩壊を急速に推し進めました。当の福島県では、県立病院からついに産婦人科が完全撤退することとなったそうです。
それにも関わらず亡くなった女性の遺族は、終盤に突入した法廷ですら、

「言い訳や責任転嫁せず、何をミスしたかを真正面から受け止め、責任を取ってほしい」
「なぜ妻が死んだのか疑問に思う。自分の行動・言動に責任を持つのは大人の人間として当然のことだ」
「○○先生の行為は許せない」

などと、相変わらず医師を非難するばかりなのです。これらの発言が、事件を見守る全国の医師をさらに激怒させています。
女性が亡くなられたことは本当に残念なことですが、医療は病死を完全に防げるものではありません。いまだに医師の責任を追及しようという遺族には、病死であることを認めることなく医療過誤だと誤信して、警察に相談して逮捕・起訴に結びつけ、今の医療崩壊の最大の引きがねを引いた責任を取って欲しいとすら思います。
一方検察の振る舞いについては、昨年も書きましたが最後まで監視し続ける必要があります。また、実名公開される刑事事件にならって、この事件を起こした人物として、当時の福島地検の最高責任者であった宮成正典(みやなり まさのり)検事正の名前は、記録しておいて良いのではないかと思います。
また、この事件で医師が逮捕・起訴されることが不当であったこと、そしてこの遺族の態度が医療崩壊の原因になっていることを、医療関係者でない一般の人々が理解しない限り、現在進行中の医療崩壊は止まることはないと言っても過言ではないと思います。
次はあなたが医療崩壊の影響を受ける番かもしれません。

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明日は、福島大野病院逮捕事件から2年

2008年2月17日

明日で丸2年です

画像画像画像画像画像画像画像画像画像 カテゴリー:医療訴訟 | コメント 1

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裁判所が拡大に加担した「薬害肝炎」

2008年1月20日

未だ紛争の火がくすぶり続ける、いわゆる「薬害肝炎問題」。実は「被害」の拡大に、だいぶ昔に出た裁判の判決が加担していたようです。
「もっと早く輸血をすること、未然にフィブリノゲンを投与すること」という趣旨で、患者死亡に対する医師の責任を認めた東京地裁判決昭和50年2月13日です。この判決が、日本でのフィブリノゲン濫用につながったとの指摘があります。
確かに、当時の法律雑誌では以下のように評論されています。 
「なお、出産に際しての医療事故は多いといわれているが、裁判例となったものは少なく、東京地判昭和48年9月26日、東京地判昭和39年3月29日が参考とされる。」(判例タイムズNo.324,248頁)
「輸血に関する医療過誤の事例としては、(中略)、輸血の時期に関する事例は珍しく、その点からも本判決は先例となるだろう。」(判例時報774号,91頁)
確かに大きく参考にされ、大変な先例になってしまったようです。
ちなみに上記の判例時報には判決の概要が以下のように示されています。
「判旨は、輸血開始時期としては、出血量において1000ミリリットル以上になったとき、あるいは、最高血圧が70mmHg(出血状態が続いている場合は90mmHg)に低下したときが適当とであるが、本件では、午後6時40~50頃の時点で既に合計650ccの出血があり、なおも少量の血液が持続的に流出している状態で、7時25分以降最高血圧が80mmHg、7時50分には同50mmHgとなったのであるから、少なくとも7時25分以降速やかに、以下に遅くとも8時ごろまでには輸血が実施されるべきで、8時50分に開始したことは遅きに失しており、その他に、線溶阻止剤等の投与、新鮮血輸血についての配慮も欠けたと判示している。」(注:「線溶阻止剤等」は、判決文では「線溶阻止剤や線維素原」として線維素原(フィブリノゲン)を併記している。)
また、判例タイムズでは以下のように評されています。
「本件に合っては、結果を回避させるための施術として、時宜にかなった輸血が必要であるとしているが、輸血には、血清肝炎、供給体制等、ひとり医療に限定することのできない大きな社会問題を孕んでいるといえるところ、本判決は、診療当時の産科医学会の関係論文にも配慮し、当時の医学レベルに立返って、詳細な資料に基づいて過失の認定を行っている点極めて慎重な姿勢が窺われる。」
慎重に検討した結果、「薬害肝炎」を拡大する原因になってしまいました。
この判決は高等裁判所で覆され、医師の責任は無いものとされており、結局のところ「薬害肝炎」を拡大するだけの判決ということになってしまいました。
医療では、残念な結果があれば症例検討会で原因を検討するのが慣わしになっています。
司法はどうでしょうか? この判決のように甚大な被害を引き起こした判決を、どうして出してしまったのかを検討したでしょうか?
こういう事情を知ってみると、現役裁判官が書かれているのであろうこれらの文章は、どんなものだろうかと思ってしまいます。
http://blog.goo.ne.jp/j-j-n/d/20071216
http://blog.goo.ne.jp/j-j-n/d/20071223
事件概要はこちらです。http://www.pmet.or.jp/jiko/06yuketu0001.html
判決文はこちらにあります。http://www.orcaland.gr.jp/kaleido/iryosaiban/S44wa1117hanketsubun.html

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「患者の自己申告を信じるな」

2007年12月9日

患者さんが持っていた母子手帳の記載を信じて診療行為を遂行したら医療事故が起こり、実はその母子手帳の記載が間違っていたことが判明したという事例。
患者さんの中には、何らかの検査をしようとすると、「この間検査したばっかりなのに、またするのか」と言い出す人が時々いるけど(これを読んでるあなたもそう思うことありませんか?)、相当重要度が高いと思われる「母子手帳」ですら信じるなということなので、必要な検査は何度でもやらねばならないことになります。
かくして医療費はどんどん増大してゆくのです。
以下、毎日新聞より。
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医療ミス:Rh不適合、乳児が黄疸 妊婦の血液検査怠る--中津の医院 /大分
 中津市上宮永の産婦人科「おだクリニック」(小田高明院長)で8月末に生まれた男児が、母親の血液型の検査を怠った医療ミスで重い黄疸(おうだん)症状になり、中津市民病院に転送され、42日間入院していたことが分かった。
 母親らの話によると、母親の血液型はRhマイナス。男児はRhプラスだが、小田院長は「(母親が長女を妊娠した時に作成した)母子手帳にRhプラスと書いてあるので、そう思い込んでいた」ととして、男児の妊娠時、血液型の検査をせず、母親に抗体ができるのを防ぐ「抗ヒト免疫グロブリン注射」も分娩時にしなかった。
 男児は誕生翌日、黄疸がひどくなり中津市民病院に転送され入院。母親もその2日後、貧血で同病院に転送され、検査したところ血液型はRhマイナスと分かり、男児の黄疸原因はRh型不適合と判明。光線療法と輸血をした。
 小田院長は母親らに「血液検査をしなかったのは申し訳ない。話し合いは誠意をもって尽くす」と話したという。取材に対し院長は「医者は結果責任がすべてです。この過失以降、自己申告などとは別にすべての妊婦の血液型検査をしています」と話した。母親は「輸血の後遺症が心配です。二度とこのような誤診をしないでほしい」と訴えた。【大漉実知朗】
毎日新聞 2007年12月8日

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医療裁判・医療訴訟
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