2008年1月20日
未だ紛争の火がくすぶり続ける、いわゆる「薬害肝炎問題」。実は「被害」の拡大に、だいぶ昔に出た裁判の判決が加担していたようです。
「もっと早く輸血をすること、未然にフィブリノゲンを投与すること」という趣旨で、患者死亡に対する医師の責任を認めた東京地裁判決昭和50年2月13日です。この判決が、日本でのフィブリノゲン濫用につながったとの指摘があります。
確かに、当時の法律雑誌では以下のように評論されています。
「なお、出産に際しての医療事故は多いといわれているが、裁判例となったものは少なく、東京地判昭和48年9月26日、東京地判昭和39年3月29日が参考とされる。」(判例タイムズNo.324,248頁)
「輸血に関する医療過誤の事例としては、(中略)、輸血の時期に関する事例は珍しく、その点からも本判決は先例となるだろう。」(判例時報774号,91頁)
確かに大きく参考にされ、大変な先例になってしまったようです。
ちなみに上記の判例時報には判決の概要が以下のように示されています。
「判旨は、輸血開始時期としては、出血量において1000ミリリットル以上になったとき、あるいは、最高血圧が70mmHg(出血状態が続いている場合は90mmHg)に低下したときが適当とであるが、本件では、午後6時40~50頃の時点で既に合計650ccの出血があり、なおも少量の血液が持続的に流出している状態で、7時25分以降最高血圧が80mmHg、7時50分には同50mmHgとなったのであるから、少なくとも7時25分以降速やかに、以下に遅くとも8時ごろまでには輸血が実施されるべきで、8時50分に開始したことは遅きに失しており、その他に、線溶阻止剤等の投与、新鮮血輸血についての配慮も欠けたと判示している。」(注:「線溶阻止剤等」は、判決文では「線溶阻止剤や線維素原」として線維素原(フィブリノゲン)を併記している。)
また、判例タイムズでは以下のように評されています。
「本件に合っては、結果を回避させるための施術として、時宜にかなった輸血が必要であるとしているが、輸血には、血清肝炎、供給体制等、ひとり医療に限定することのできない大きな社会問題を孕んでいるといえるところ、本判決は、診療当時の産科医学会の関係論文にも配慮し、当時の医学レベルに立返って、詳細な資料に基づいて過失の認定を行っている点極めて慎重な姿勢が窺われる。」
慎重に検討した結果、「薬害肝炎」を拡大する原因になってしまいました。
この判決は高等裁判所で覆され、医師の責任は無いものとされており、結局のところ「薬害肝炎」を拡大するだけの判決ということになってしまいました。
医療では、残念な結果があれば症例検討会で原因を検討するのが慣わしになっています。
司法はどうでしょうか? この判決のように甚大な被害を引き起こした判決を、どうして出してしまったのかを検討したでしょうか?
こういう事情を知ってみると、現役裁判官が書かれているのであろうこれらの文章は、どんなものだろうかと思ってしまいます。
http://blog.goo.ne.jp/j-j-n/d/20071216
http://blog.goo.ne.jp/j-j-n/d/20071223
事件概要はこちらです。http://www.pmet.or.jp/jiko/06yuketu0001.html
判決文はこちらにあります。http://www.orcaland.gr.jp/kaleido/iryosaiban/S44wa1117hanketsubun.html
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2007年12月9日
患者さんが持っていた母子手帳の記載を信じて診療行為を遂行したら医療事故が起こり、実はその母子手帳の記載が間違っていたことが判明したという事例。
患者さんの中には、何らかの検査をしようとすると、「この間検査したばっかりなのに、またするのか」と言い出す人が時々いるけど(これを読んでるあなたもそう思うことありませんか?)、相当重要度が高いと思われる「母子手帳」ですら信じるなということなので、必要な検査は何度でもやらねばならないことになります。
かくして医療費はどんどん増大してゆくのです。
以下、毎日新聞より。
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医療ミス:Rh不適合、乳児が黄疸 妊婦の血液検査怠る--中津の医院 /大分
中津市上宮永の産婦人科「おだクリニック」(小田高明院長)で8月末に生まれた男児が、母親の血液型の検査を怠った医療ミスで重い黄疸(おうだん)症状になり、中津市民病院に転送され、42日間入院していたことが分かった。
母親らの話によると、母親の血液型はRhマイナス。男児はRhプラスだが、小田院長は「(母親が長女を妊娠した時に作成した)母子手帳にRhプラスと書いてあるので、そう思い込んでいた」ととして、男児の妊娠時、血液型の検査をせず、母親に抗体ができるのを防ぐ「抗ヒト免疫グロブリン注射」も分娩時にしなかった。
男児は誕生翌日、黄疸がひどくなり中津市民病院に転送され入院。母親もその2日後、貧血で同病院に転送され、検査したところ血液型はRhマイナスと分かり、男児の黄疸原因はRh型不適合と判明。光線療法と輸血をした。
小田院長は母親らに「血液検査をしなかったのは申し訳ない。話し合いは誠意をもって尽くす」と話したという。取材に対し院長は「医者は結果責任がすべてです。この過失以降、自己申告などとは別にすべての妊婦の血液型検査をしています」と話した。母親は「輸血の後遺症が心配です。二度とこのような誤診をしないでほしい」と訴えた。【大漉実知朗】
毎日新聞 2007年12月8日
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2007年11月20日
なにやらフグスマ県で、当番病院は満床だろうがなんだろうが患者を受入れることになったんだそうな。
聞こえはいいけど、ベッドも空いていないのに受入れれば患者さんは待合のベンチか何かに寝かされるしかないし、ベッドが空いていても治療に必要な医者や看護師がいなければ放っておかれるしかないし、ベッドが空いていて人員が足りていても、必要な医療機器が全て使われきっていれば出来ることと言えば祈祷くらいしかないし… そうなることが分かっていても全員を受入れろなんてそんな無責任な!!と思わずにはいられませんです。
さらに言えば、そんな無茶な号令をかけられたら、無理でも無茶でも受入れなきゃいけない医者たちが、そんな無茶な号令体制に嫌気がさしてますますやめていくでしょう。患者さんたちが望んで止まない充実した医療をハナから諦めろ、ということを上が是認しているわけですから…
無制限に受入れるなんて囚人じゃああるまいし、それを全部受入れて無理やり全部診ろなんて、奴隷じゃあるまいし…
フグスマには春は当面来なさそうなので、それなりの医療を受けたい人は、フグスマから亡命したほうがよさそうです。
尤も、亡命先にもろくなところがないんですがね…(苦笑)
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福島・救急搬送受け入れ拒否:当番病院が受け入れを 輪番制運営協が方針 /福島
福島市内の交通事故で負傷した女性(79)が救急搬送の際に4病院から受け入れを断られ、その後死亡した問題を受け、市内10病院や市消防本部などで構成する「市救急医療病院群輪番制運営協議会」(会長、有我由紀夫・大原綜合病院院長)の臨時協議会が19日、同市内で開かれた。今後はどんな状況であれ、夜間の救急指定の当番病院が原則的に、救急患者を受け入れる方針を決めた。
協議会の冒頭で有我会長は「医療人としての心構えなどを検証し、市民が不安にならない医療体制を構築していきたい」とあいさつ。会合は非公開となったが、4病院からの事実確認では「集中治療室(ICU)が満床だった」などの理由が報告されたという。
有我会長は会合後の会見で、今回の事態で「1時間も医師が患者に接していなかったことが問題」と指摘し、今後は当番病院が最初に診察することを原則とし、その上で設備の整った県立医大付属病院への転院などを検討する体制を明らかにした。有我会長は「ICUが満床であることは(受け入れ拒否の)理由にならない」としながらも、「医師のマンパワーが不足しているのは明らか。今後も行政と一つになって、体制確保に努めていきたい」と話した。【松本惇】
毎日新聞 2007年11月20日
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2007年10月26日
数日前、とある医療裁判の口頭弁論を傍聴した。次回予定の医師証人尋問にかかる時間を巡っての、患者側弁護士の発言。「我々としては、言葉尻をとらえて追求しようと思ってますので、ちょっと時間がかかると思います」みたいなことを言っていた。
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「言葉尻をとらえて追求」………
結構あきれて、帰って来ました。
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