医療裁判傍聴記

医療裁判傍聴および記録閲覧を通じて得た知見をはじめ,その他裁判関係の話題をご紹介。このブログでラフ・スケッチを掲載し,後日正式記事としてまとめた場合は,拙サイトの医療裁判・医療訴訟コーナーに上梓します。

顔を洗って出なおして来い!

2010年5月1日

(平成22年4月22日の出来事です)

平成22年4月22日,東京地裁と東京高裁で,医療裁判の第1回口頭弁論を傍聴してきました。

一つ目は東京地裁民事第14部,平成22年(ワ)第8189号。原告本人と代理人弁護士が出廷。
裁判長「訴状では,個々の過失と死亡との因果関係を述べていないので,個々の過失とのつながりをもうちょっと述べて頂くと良い」旨の発言あり。

二つ目は東京高裁民事第21部,平成22年(ネ)第364号。開廷直前まで,原告側に弁護士らしき人がいないなぁ…と思っていたら,ご本人登場。
本人訴訟だ…
裁判長「控訴理由書に,1, 2, 3, 4…と理由が述べられていて,7からは, 7, 8, 9, 10 と項目があるけれども,何も書いてありませんが…」
原告「…思いつきませんでした」(爆)
裁判長「ではこれは削除ということで宜しいですか?」
原告「はい」
で,地裁で主張は尽くされているということで,裁判長は結審しようと思ったようですが,原告側から「後医の私的意見書を依頼している」との発言があり,弁論続行になりました。しかし私的意見書について,後医は匿名で書くという意向だったようで,その旨を原告が述べると裁判長から「それでは尋問もできないし」みたいなツッコミあり。

でですね,二つ目の「控訴理由を思いつかなかった」本人訴訟の控訴審と,「過失と死亡との因果関係を述べていない」代理人弁護士がついた東京地裁の訴訟とで,その主張立証の鈍さ加減にどれほどの差異があるのだろうか,と思ってしまったわけです。

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判決文に違和感

2010年2月5日

「ダイビングツアーで死亡した妻の夫が,そのツアーを企画・主催した会社とそのガイドを務めた従業員に対し,不法行為又は債務不履行に基づいて求めた損害賠償が認められなかった事例」
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100205095412.pdf
・・・
判決そのものには違和感はありません。
ただ、「被告甲」という呼称に違和感ありまくりです・・・

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「すべての医療裁判は隠ぺいや改ざんとの戦い」by 勝村久司氏

2009年12月7日

12月5日に,医療過誤原告の会主催で,内容はよくわからないですがシンポジウムが開かれたようなんですが・・・
「医療事故調の早期設立訴えシンポ-医療過誤原告の会」キャリアブレイン 2009/12/07 13:35 より

この日コーディネーターを務めた勝村久司氏(医療情報の公開・開示を求める市民の会世話人)は、「すべての医療裁判は隠ぺいや改ざんとの戦いにすぎない。こういうことをしないケースでは裁判にならない」との考えを示した

例えばこういうののことかな?
それともこういうののことかな?

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今日は一宮西身体拘束訴訟上告審

2009年11月24日

先月の報道通りであれば,今日,最高裁で弁論が開かれます。
一宮西病院身体拘束訴訟(平成20年(受)第2029号、最高裁第三小法廷、担当 増森調査官)

患者拘束「違法」見直しか 愛知の病院敗訴に最高裁
2009年10月21日 提供:共同通信社
 愛知県一宮市の一宮西病院に入院していた80歳の女性がベッドに体を不当に拘束され苦痛を受けたとして、病院を経営する医療法人「杏嶺会(きょうりょうかい)」に損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(近藤崇晴(こんどう・たかはる)裁判長)は20日、弁論を来月24日に開くことを決めた。
 二審の結論変更に必要な弁論が開かれることから、違法な拘束があったと認め、70万円の支払いを命じた名古屋高裁判決が見直される可能性が出てきた。
 二審判決によると、女性は腰痛などで入院中だった2003年11月16日未明、何度もベッドを離れて車いすで移動したことから、ひも付きの手袋でベッドに数時間拘束された。女性は一審判決前に死亡、訴訟は遺族が継承した。
 一審名古屋地裁一宮支部は請求を棄却したが、二審は「拘束しなければ重大なけがをするという切迫した危険性があったとは認められない」として、拘束は違法と判断した。

関心があって以前に裁判所で記録を閲覧したことがあります。
その結果ですが、まずなにより弁護士(代理人)が壮観です。
一審 平成16年(ワ)第392号(名古屋地裁一宮支部)
原告代理人:六川 詔勝、復代理人:坂井田 吉史
被告代理人:中村 勝己、後藤 昭樹、太田 博之、立岡 亘、服部 千鶴、吉野 彩子、太田 成
結果:請求棄却
控訴審 平成18年(ネ)第872号(名古屋高裁)
控訴人代理人:副島 洋明、中谷 雄二、森 弘典、熊田 均、名島 聰郎、船橋 民江、中村 正典、山田 克己、大石 剛一郎、登坂 真人、相川裕、舟木 浩、石川 智太郎、田原 裕之、山根 尚浩、井口 浩治、水谷 博昭、矢野 和雄、澤 健二、太田 寛、岩城 正光、森田 辰彦、松本篤周、花田 啓一、田巻 紘子、川口 創、稲森 幸一、魚住 昭三、荒尾 直志
被控訴人代理人:一審に同じ
結果:被控訴人は控訴人に70万円+遅延損害金を支払え
中村勝己弁護士は医療側で頑張っている方のようですし、また副島洋明弁護士は身体拘束などで頑張っている方のようです。なにやら代理戦争のように見えてしまいました。何しろ高裁の認容額は70万円ですから、手間ひまかけるより終結させるほうが安上がりでしょうから。
で、上告申立ては病院側からだけなされているのですが、上告趣意書は42ページにわたる長文でした。ざっと読んでなるほどと思わせられたのですが、鳥頭なもので漠然としか覚えていません。過失認定を後方視的に判断しているとか、高裁が求める対応だけが合法で他を違法とくくってしまっているとか、医療の過失認定は事件当時の状況に基づいて判断すべきだとか、当たり前のことばかり書いてあった印象です。参考に、「元検弁護士のつぶやき」というブログに以前に書き込まれたものの,訴訟にかかわる内容で匿名で責任の所在が不明なものは頂けないという趣旨で管理人さんに削除された書き込みを紹介します。上告申立て趣意書には、以下の内容が含まれていました。

No.30 担当弁護士 さん | 2008年9月16日 23:47 | 返信 (Top)
議論が一人歩きしてしまうのを怖れて投稿します。
問題となっている事件の病院側担当弁護士です。
まず,41人の入院患者がいたと主張していたのに,27人の入院患者しかいなかったという報道は,本来は誤りです。41病床を3人の夜勤看護師で担当していたという主張で す。現実の入院患者数は27人でした。ただ,私は,看護師の負担が27/41に減るとは考えていません。4人部屋に2人しか入院していなかったとしても,看護師の訪室や声 掛け,パトロール等の現実の看護師の負担は2/4以上のものであると考えています。そのため,裁判では,病床数を基準に看護師の負担を考えるべきであると主張してきました 。
本件は,平成15年11月の事件です。厚生労働省の介護保険施設向けの抑制廃止の宣言が出されたのも同年ですが,当時,急性期の医療機関で,抑制マニュアルを作成していた 医療機関はどの程度の頻度で存在していたのでしょう。
家族との信頼関係の欠如を指摘する見解もありますが,まさに,突発的ともいうべき状況で起こったせん妄であり,事前の同意書は取り付けてありませんでした。急性期の医療機 関で平成15年当時に,そのような同意書を取り付けるのが通常だったのでしょうか。
無論,事前に同意書を貰っていたとしても,無制約な抑制が許されるはずもありませんが。
新聞では報道されていませんが,具体的な患者の行動は以下のとおりです。
リーゼ服用下で,夜間せん妄になり,患者はナースコールを頻回に行うのみならず,腰椎圧迫骨折で,昼間は疼痛もあって活動性が低く歩行障害もあるのに,せん妄状況で,車い すを「足で漕ぎながら」何度もナースステーションまで来ていました。
尿意を訴えていましたので,患者を納得させるため,オムツが濡れていない場合が殆どでしたが,すべてオムツ交換に応じていました。
消灯後のナースコールで何度も看護師が訪室したり,詰め所まで来た患者を連れ戻すために病室に出入りするため,同室者から苦情が出る状況でした。やむなく,詰め所で寝ても らおうとベッドごと詰め所に移動しましたが,リーゼの効果もあって半覚醒の状況にあり,詰め所のように,明るく,ナースコールでうるさい場所では入眠の妨げになると考え, 丁度,空いていた詰め所前の個室に収容しました。そこでお茶を飲ませたりしてなだめようとしましたが,せん妄が益々ひどくなり,ベッドから起きあがろうとする挙動を繰返し たため,やむなくミトンで抑制したものです。入眠を確認して,直ちにミトンを外していますので,実質の抑制時間は最大でも2時間です。
判決では,せん妄患者に,看護師が付き添って入眠するまでなだめるべきであったとされました。それをしていないから違法であるという論理です。せん妄患者に付き添っていれ ば,せん妄症状は緩解するのでしょうか。あるいは入眠するのでしょうか。せん妄状態にある患者の看護については,ケースバイケースであり,これをすれば良いという一義的な 答はないと考えています。
また,夜間に3名の看護師による当直体制で,本当に看護師1人が入眠するまで付き添うことが可能なのでしょうか。付き添わなかったことが違法と評価されてしまうのでしょう か。
この件については,精神科の専門医に,「せん妄」の病態論とともに,せん妄患者に対して,どのように対応すべきであったのか,という点と,看護学の専門家に,急性期病棟の 看護師が,せん妄患者に遭遇した場合に,看護師として何を考え,どのように対応するのが望ましいのかという意見をいただいた上で,急性期病棟におけるせん妄患者に対する対 応を考えていきたいと思います。
多分に感情的なコメントが含まれているかもしれませんが,ご容赦下さい。

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藤山判決一発逆転クイズ・正解

2009年11月22日

2ヶ月も前になりますが,ご紹介した事件の控訴審の終局を確認した結果です。
http://kaleidoscopeworld.at.webry.info/200909/article_1.html
で,正解なんですが,
和解してました…
和解金額なんですが,5000万円を平成19年4月27日までに支払えと。
一審判決「5983万1140円及びこれに対する平成12年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」
に従って,和解条項にある支払期限である平成19年4月27日時点の支払い金額を計算したところ,7973万9337円となりましたので,約3000万円の減額です。
控訴審は,病院側から準備書面が2通と新証拠を提出,遺族側からは特段の主張はされていないようでした。
玉虫色の和解という印象です。もうちょっと変化のある結末かと思ったんですが…

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