令和4年3月11日: 東日本大震災トリアージ訴訟を掲載
静岡羊水塞栓症訴訟(富田善範裁判長の不適切訴訟指揮) -追記-
事件番号 | 終局 | 司法過誤度 | 資料 | |
一審静岡地裁 | 平成21年(ワ)第1809号 | 判決平成27年4月17日 | 妥当~B | 判決文 |
二審東京高裁 | 平成27年(ネ)第3174号 | 判決平成28年5月26日 | A | 判決文,前稿 |
以前に傍聴と記録閲覧をして報告を書いた事件でしたが,再度記録閲覧をしたのて,特に弁論終結から判決に至る間に起きたことについて記録を残しておきたいと思います。以前の報告(前稿)をまだお読みでない方は,そちらをまずお読み頂ければと思います(こちら)。以下,年表示(平成28年)を省略します
弁論終結から判決に至る間に起きたことに関してまとめると,素人視点ではありますが,以下のような問題がありました。
(1) 弁論終結をした後に,裁判所の判断が変わった。
(2) 裁判所が,遺族側が主張していない事項について過失を認めようとしていた。
(3) 裁判所が作成した,「和解勧告に際しての当裁判所の所見」が訴訟記録に綴られていなかった。
(4) 病院側が提出した上申書が訴訟記録に綴られていない時期があった。
まず(1)と(2)について説明します。
前稿で書きましたが,全ての審理を終えて弁論の終結を宣言したその法廷で,富田善範裁判長は「当時に注意義務の水準が存在していたが、被控訴人(病院側)は反論ができていない。ただし因果関係のところは考慮する。」との旨を述べつつ、「最高裁で、『医療訴訟では、因果関係がなくても過失がある場合に責任を認める』という判断が出ている」と,因果関係がないことを前提としていると受け取れる見解を述べていました。
ところが,裁判所が4月15日の和解期日に当事者に渡したという,「和解勧告に際しての当裁判所の所見」という裁判所の考えを記したと思われる文書では,因果関係が認められるとの判断が記されていました。また,同書面には裁判所が考える過失の内容として,(1)出産当日午前8時過ぎに常位胎盤早期剥離を認めた段階で輸血の準備を怠ったこと,(2)産婦がショックに陥った午前9時30分の時点で,出血量に見合う輸血を行わなかったこと,(3)午前11時の時点で抗ショック療法および抗DIC療法を行わなかったこと,が挙げられていました。なお,遺族側の損害額は7490万4252円と計算しながらも,和解金額としては2000万円を提示していました。因果関係を認めるというわりには,損害額の3割足らずという和解金額の提示は,私は初めて見たように思います。
この裁判所の所見に不服を持った病院側は,反論をまとめて5月6日付上申書として提出しました。特に目についたのは以下の点でした。「午前8時過ぎに輸血の準備を怠った点はそもそも争点になっていない(原告側から指摘されていない)ことであり,そのことに対して過失を認めるのは弁論主義に違反して違法である(裁判所は当事者が主張したことについてのみ判断するのが,裁判の大原則です)。常位胎盤早期剥離と診断した時点で輸血を準備する義務を示す証拠はない。」
このような指摘を受けたためか,裁判所は最終的な判決では前記裁判所の所見とは異なり,午前8時過ぎの輸血準備に関しては言及をせず,前稿に記したとおり時点を特定しての過失判断を放棄して,全体を一括して過失を認定するに至っています。
次に(3)と(4)について説明します。
裁判所が作成した4月付「和解勧告に際しての当裁判所の所見」及び病院側が提出した5月6日付上申書は,控訴審確定後に東京高等裁判所で記録閲覧をした際には訴訟記録に綴られておらず,上告中に最高裁判所で,及び確定後に静岡地方裁判所で記録を閲覧した際にその存在を認識したものです。しかも,「和解勧告に際しての当裁判所の所見」そのものは東京高等裁判所は記録に綴っておらず,病院側の上告受理申立て理由書(病院側が最高裁判所に主張を述べるための書面)に,参考資料としてそのコピーが添付されているだけでした。裁判所が作成した書面であっても訴訟記録に綴じないという扱いは,和解のための資料であるからといっても許されないように思うのですが,本件ではそのような扱いになっていました。
また,病院側の5月6日付上申書も,控訴審判決後に東京高等裁判所で記録閲覧をした際には訴訟記録に綴じられていなかったわけですが,その後に,すでに綴じられていた書類に付された通しページ番号を修正した上で,あとから綴じられたようでした。ちなみに同じく病院側が提出した4月26日付上申書も同じ扱いがされていました。一方,病院側の上申書提出よりも後に遺族側から提出された書面に関しては,正しく綴じられていました。病院側の上申書はいずれも,同日の裁判所受付印が押印されていましたが,受付されたにもかかわらず綴じられていなかったわけです。まとめると以下のようになります。
東京高等裁判所での閲覧時
通し頁番号 | ||
815-821 | 送付状などの書類 | 3月16日~4月21日付 |
822-827 | 弁論終結後の準備書面(患者側)関係書類 | 5月9日~5月10日付 |
828-835 | 訴訟記録閲覧申請書延べ8回分(うち5回が筆者) | 6月2日~8月16日付 |
上告審以降の閲覧時
通し頁番号 | ||
815-821 | 送付状などの書類 | 3月16日~4月21日付 |
822-840 | 上申書(病院側) | 4月26日付 |
841-856 | 上申書(病院側) | 5月6日付 |
857-862(修正された番号) | 弁論終結後の準備書面(患者側)関係書類 | 5月9日~5月10日付 |
863-870(修正された番号) | 訴訟記録閲覧申請書延べ8回分(うち5回が筆者) | 6月2日~8月16日付 |
(1)から(4)のいずれもが姑息で,同様の行為を医師が行えば,過失ないし故意の所業との認定は到底免れないと感じました。
令和2年5月16日記す。