関東中央病院PTSD訴訟・尋問記録抜粋等

(事件概要はこちら,一審判決文抜粋要旨はこちら,高裁判決文はこちら)

原告側協力医G医師への尋問より

被告代理人からの質問
「パーソナリティ障害(=境界型人格障害=BPD)」の診断基準では,その内容の性質上,理解の仕方が異なる可能性が高い。DSMでは判断に関してのトレーニングを推奨しているものの,診断名が100%一致することは考えにくいものである。」とこうおっしゃっていますよね。
------ はい

これはDSMについてのご意見なんですけれども,PTSDについてはどうなんでしょうか。
------ PTSDに関しても,もしDSMの基準でこの人をPTSDと言えるのかということでいえば,一応僕はそういうふうに理解してますが,僕のとらえ方はおかしいですよという意見があってもおかしくないと思います。

今回の原告について,PTSDという診断をする人もいるだろうし,しない人もいるだろうと。それから,今回の原告についてBPDであるというふうに診断する人もいるだろうし,しない人もいるだろうというふうに理解してよろしいですか。
------ そういうふうに,はい。

それは,どっちが多いとかいうことではないんですね。
------ うん,と思いますね。

そうすると,本件において先生がおっしゃっておられることは,この患者さんに対してPTSDという診断をするかとか,あるいはBPDという診断をするかということではなくて,先程からのお話を伺っている限りでは,言い方がけしからんということなんですか。
------ 要するにPTSDであるという診断を下からどうのこうのじゃなくて,常識的な話ですけど,トラウマらしいことがあって,そのことで傷ついているというふうな僕の理解ですけれども,そういう状況のある人に対して,あんまり一方的に診断はこうだからこうだというふうな言い方をすれば余計辛いでしょうと。だから,精神科の医者で普通に臨床をやるんであれば,相手の話をしっかり聞いて,何をこの人が言わんとしているのかということとか,実際にどういうことがあったのかを情報を集めていく中で,この人に対する治療の方向性を決めていくというのがスタンダードだろうと僕は思っています。

それは,スタンダードだろうと思っているのは,先生がそう思っているということですか。
------ はい。


A医師(被告病院担当医)への尋問より

被告代理人からの質問
原告の訴えが執拗であった,他罰的な傾向が見られたというが,具体的には?
------ 退職した前任者に代わって1月9日に初めて診察した。主訴は2年間続く頭痛。前任者の初診時,自分は頭痛で受診したらうつ状態といわれてドグマチールが出てプロラクチンが上昇した。このときの訴え方が非常に確信的で,初診時から非常に不満を強く訴えるという様子だった。そのことにちょっとビックリした。あと,うつ状態といわれてショックだったというが,X県でも抑うつ神経症と言われていた。そのときはショックではなくて今回はショックだというのは疑問だ。プロラクチン上昇も,当院処方のせいではない。前年12月26日には,ドグマチールは止めていたのにプロラクチンが上昇していた。11月29日処方のドグマチールでプロラクチンが上昇したと訴えた。主観的な思い込みで事実が変わってしまう。そのあたりを強く訴えられたので他罰的な傾向が強いのではないかと判断した。
(峰村注:記録によれば,前年11月21日初診時に,既にプロラクチンが高かった。12月26日にはプロラクチン値は下がっていた)

治療においては両親の協力と了解も必要と考え,次回は両親と同席面接を指示したが。
------ このときは脳外科を紹介した。その間にカルテを読んで,プロラクチン上昇は関東中央病院での処方によるものではなかったので,あれっと思った。その後本人が戻ってきて,MRIを早く撮って欲しいから精神科で依頼して欲しいと言われた。しかし筋を通したほうが良いのでMRIも脳外科の指示で撮ったほうが良い旨を繰り返し説明するも本人が納得せず,仕方なくこちらでMRI依頼を書くことになった。その辺のこと,ドグマチールのことも含めて本人の主観的な訴えに沿って動くといろんな事実と違うようなことが起こるのではないかという懸念があったので,多少客観的な目も入れる必要があると思った。それで両親も来いと。その場その場で訴えとか過去の事実が変わる可能性があると判断し,何人かの情報を集めながらやっていく必要があると。

1月30日の受診についてはどうか。
------ 受診される患者の状態によっては,ある程度柔軟に対応しているので,緊急性がある場合は受けるが,本人の訴えはMRIの結果を聞きたいと。これは緊急性が無いので次回にと看護師に伝えたが,「私はいつも調子が悪いんだ」ということでとにかく今日の診療をして欲しいという感じだった。電話口の看護師の話だともう興奮した状態だったので,とりあえず(MRIの)結果は伝えると。ただ,疑問だったのは,MRIを撮って脳外科にいったんだから,脳外科医師が以上なしと伝えているはずなのに,それを改めてここに来るのはどういう意味か疑問だった。

結果を伝えて終了しようとしたところ,原告から「落ち込むことがある」,「叫んだりすることがある」などと訴えがあった。
------ はい。

脈絡があったのか。
------ 突然出てきて少々驚いたが,それ迄のやり取りで,こちらに対していろんな怒りというか依存を含んだような怒りを向けてくる感じがあったので,ここから先にいろいろ内界に入っていくのは非常に危険だと思った。結局,頭痛の話から,いきなり叫ぶという,かなり原始的な反応,そういう話に及んだので,これは結構深いレベルの話になるかなと思った。そこで,両親も含めて対応する必要があると。

原告の状態の評価は。
------ こうしたらどうかと話しても,ではこれはどうすればよいかと次から次へと質問・不満が述べられる状態だった。最後のほうは,婦人科での待ち時間が長いとかの話で,本人にしてももう切るに切れない,目の前の医師に対して質問をしながらすがっているという状態を切り上げられない状態じゃないかと。30分くらい話していたが,これ以上話すと却って混乱を引き起こすので望ましくないと考えて面接打ち切りを考えた。しがみつき不安,見捨てられ不安の状態だった。

・・・・・

BPDの基準のうち,衝動的な行動については。
------ 受診が遅れる,バスが遅れたとかの話で,看護師が,緊急性が無いならと話した途端,急に立ち上がって,私はいつだって緊急なんです!調子が悪いんですという感じで,急な感情の爆発のようなものがあり,その辺を考えると,思うようにいくときはいいけど,いかないときに衝動性が現れる可能性はあるかなと思った。MRIも,何が何でもMRIを協和脚にオーダーしなければならないという感じでというやり方も衝動性の高さを感じた。

BPD告知については。
------ 自分の現状にある程度医師が適切な判断を伝えることは必要だと。今回のケースはかなりいろんな情緒的なものが主治医に向けられて,診察室ではご本人ももう身動きが取れないくらい,座っていながらも非常に怒りを込めたような状態だった。これについてこうだと伝える必要があり,と。


被告側協力医F医師への尋問より

被告代理人からの質問
A医師が原告に対していろんなお話をされると,あるいは人格障害であるというような病名を告げるというようなことについて,それをどの時点で,どのように相手に伝えるかというのは医者の裁量,あるいは医者の診療上のスタンス,あるいはポリシーの問題ではないかというふうに考えるんですけれども,その点については如何でしょうか。
------ それは大いに賛成です。しかし,一般的にBPDの診断に関しては意見書にも述べたように多くの医師がなるべく早い段階でそれを疑い,なるべく早く診断を告知するほうが治療的であるというような論文が非常に多いと思われますし,私自身も臨床の中でそのようにしています。

・・・・・・

原告代理人からの質問
原告が全然良くなってないという意見ですが,本人に症状を聞いたところ,ずいぶん軽くなっているように思うが。
------ それは本人の思うようにG医師が話を聞いてくださったということで満足しているという意味合いです。

本人に現れる症状が軽くなっても違うというのか。
------ 表面上の症状は良くなったかのように一端は見受けられるかと思う。しかしそれが医者の役割としていいかどうかは,もう少し疑い深い解釈をしていく必要があるかと思う。言われるなりにやることが,本当に治療的に良いことなのかどうかということを医者は考えるべきだと思う。


甲B14の2号証,G医師意見書から

4 患者がPTSDの可能性がある場合,診察場面で診断目的にでさえ,トラウマ体験を本人に喋らせることが外傷となる場合がある。従ってまず医師は患者との信頼関係の構築を進めることが基本である。安易に外傷に関して明確化しようとすることは極めて危険であると考えねばならない。もしPTSDであった場合,非常に精神的負荷に対して脆弱であり,些細な言葉が症状増悪を来たしうるのである。・・・


甲(忘れた)号証,Gクリニック初診時カルテより

(峰村注:まずX県での体験話がたくさん書かれている。)

平成15年11月21日,頭痛がひどくて関東中央病院受診。一応かかっておこうと思った。そうしたら,うつ病といわれた。それがショックで頭から離れない。

現症
不眠
頭痛
集中力低下
フラッシュバック
 首絞められたこと
 何でこんな目にあっても頑張っているのかな
 例のストーカー発言
 言い寄ってきた人の発言

Dx PTSD


甲B27号証,G医師意見書の最後の部分

 要約すると,精神医学的診断名の議論が問題ではなく,病名告知を含めたA医師の治療者としての対応が,通常臨床現場で行われるべき広義での治療的要素が欠落していたことが,病態を増悪させたと考えることができる。


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