八戸縫合糸訴訟控訴審判決文

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仙台高等裁判所平成18年(ネ)第494号

控訴人 X
同訴訟代理人弁護士 小野寺信一
被控訴人 八戸市
同訴訟代理人弁護士 水澤亜紀子

主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,3212万7811円及びこれに対する平成11年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを2分し,その1を控訴人のその余を被控訴人の各負担とする。
5 この判決は,第2項につき,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,7063万2307円及びこれに対する平成11年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事実の概要等
1 事案の概要
 控訴人は,耕耘機の操作中に左膝下(膝窩)部を耕耘機の刃に巻き込み負傷して,被控訴人が設置経営する病院に入院したが,負傷部位にガス壊疽(嫌気性細菌による感染症で,ガス発生を伴い,極めて速やかな進行により,筋肉の壊死や全身状態の悪化を招く疾病)を発症させ,これが重篤化したため,左大腿切断術を受け,左下肢を膝関節以上で失う後遺障害を負った。
 控訴人は,被控訴人に対し,ガス壊疽重篤化に基づく左大腿切断は,担当医の注意義務違反によるものであるとして,使用者責任(民法715条)又は医療契約の債務不履行責任(民法415条)に基づき,主位的には,左大腿切断に関する財産的損害及び精神的損害,予備的には,医療水準にかなった治療を受けられなかったこと(期待権侵害)に関する精神的損害の各賠償並びにこれらに関する遅延損害金の支払いを求めたが,原審は,控訴人主張の責任原因(注意義務違反)のうち一部を肯認しつつも,左大腿切断との因果関係を認め難いとし,期待権の侵害による精神的損害を一部認容するにとどまった。
 本件は,控訴人が,原判決を不服として,控訴を提起した事案である。
 なお,附帯請求の起算日について,控訴人は,原審において,一旦,左大腿切断日の翌日から訴状送達日の翌日に請求を減縮したが,公訴提起に際し,再度,左大腿切断日の翌日に請求を拡張した。

2 前提事実及び争点に関する当事者の主張
 前提事実及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり訂正し,下記3のとおり,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1項及び2項に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁25行目の「63頁」の次に「,66頁」を加える。
(2) 原判決5頁7行目の「生じていた。」を「生じており,これがガス壊疽の発症及び重篤化の一因となった。」に改める。
(3) 原判決6頁18行目の「筋膜切開」の次に「等」を加える。
(4) 原判決8頁17行目の「増殖と」の次に「組織への」を加える。
(5) 原判決9頁21行目から22行目にかけての「被告病院の担当医(以下「担当医」という。)」を「担当医」に改める。

3 当審における当事者の主張
 当審においては,上記2の争点のうち,取り分け,原審が担当医の注意義務違反自体としては肯認した膝窩動脈縫合術に際して太い縫合糸を使用した注意義務違反並びに血流ドップラー検査及び血管造影検査を実施しなかった注意義務違反とガス壊疽重篤化に基づく左大腿切断との因果関係が争点となったが,この点に関する当事者の主張の要旨は以下のとおりである。
(1)控訴人の主張
ア 原判決は,膝窩動脈縫合術に際して太い縫合糸を使用した注意義務違反を肯認しつつも,控訴人が同時に罹患していたコンパートメント症候群に伴なう血行障害の結果としてガス壊疽が発症していた可能性は否定できないなどとして,担当医の注意義務違反とガス壊疽発症との因果関係を否定するが,クロストリジウム性ガス壊疽は受傷から発症まで18ないし24時間と短時間であるとのデータがあるにもかかわらず,9日午前10時30分ころの受傷から12日午前のガス壊疽発症まで長期間を要したのは,コンパートメント症候群ではガス壊疽菌の増殖に適した環境としては不十分であったからにほかならないし,仮に,コンパートメント症候群がガス壊疽菌の増殖に寄与したとしても,筋膜切開術後はコンパートメント症候群の症状は緩和されるからこれにおける寄与度は格段に小さく,太い縫合糸の使用による血栓形成による血行障害が決定的な要因になったということができるから,因果関係は肯定されるべきである。
イ また,原判決は,仮に,11日午前の段階で血流ドップラー検査等を実施したとしても,血栓形成が緩徐なものであったなら,有意な血栓形成に至っていないため,異常が感知されなかった可能性があるなどとして,担当医の注意義務違反とガス壊疽発症との因果関係を否定するが,11日午前2時頃から血行障害の徴候がいくつも現れ,12日午前まで続いているのであるから,たとえ血栓の形成が緩徐なものであったとしても,血行障害は発見されたはずであるから,因果関係は肯定されるべきである。
ウ さらに,原判決は,10日時点の白血球数が1万5400という高い数値を示していることを根拠に,その時点で既にガス壊疽が発症していた可能性も否定できないなどとして,担当医の注意義務違反とガス壊疽発症との因果関係を否定するが,クロストリジウム性ガス壊疽は受傷から発症まで18ないし24時間と短時間であるとのデータがあることからすると,10日時点で発症していれば,11日に症状が出てしかるべきであるから,上記各注意義務違反とガス壊疽発症との因果関係は肯定されるべきである。
エ なお,12日午前にガス壊疽の発症が判明したにもかかわらず,(1)初期の外科的処置としての最小限度のデブリドマンと創の開放,(2)ペニシリン系を中心とする抗生物質の大量投与,(3)高圧酸素療法の開始等が遅れたのは,血栓除去術を優先させる必要があったためであり,その意味でも,血行障害の要因及び発見遅滞となった上記各注意義務違反と左大腿切断とには因果関係がある。

(2)被控訴人の主張
ア 控訴人に12日に確認されたのと同程度の血栓が11日時点で形成されていれば,速やかに皮膚変色,運動障害,激痛等の急性阻血症状が生じていたはずであるが,現実にはそのような症状は生じていない。しかも,血栓は一旦ある程度のものが生じると急速に増大する性質があるところ,仮に11日時点である程度の大きさの血栓が生じていたなら,同日夜のような血行状態の改善を示すはずはないから,同日時点の血栓が血行障害に寄与したかどうかは不明であるし,少なくとも決定的な要因ではない。
イ また,血流ドップラー検査は,血流の有無及び強弱を定量的にではなく定性的にのみ知りうるものであり,血管を途絶する大きなものであればともかく,わずかに生じた血栓を感知できるものではないし,11日夜には血行状態が改善していたのであるから,仮に血管造影検査を実施したとしても,血栓は確認できなかった。
ウ このほか,上記(1)の控訴人の主張は,受傷からガス壊疽発症までの期間を血行障害からガス壊疽発症までの期間と混同しているし,また,受傷からガス壊疽発症までの期間も,比較的短期間とされているものの,菌の多寡,菌の個体としての強さ,患者の抵抗力,低酸素の度合い,他の感染症の有無等の諸事情により左右され,実際には8時間から2週間程度と幅があるのであるから,単純に11日時点の血栓の存在がガス壊疽発症の原因ということはできない。むしろ,12日午前に発症したガス壊疽は,挫滅創,包帯による血管の圧迫といった受傷直後から続いていた原因又はコンパートメント症候群という10日時点の原因によるものというべきである。
エ なお,控訴人の主張エについては,(1)ガス壊疽発症後のデブリドマンは,単純に発症後直ちに行われるべきものではないところ,12日午前の時点において,既に創部は開放されており,また,患肢の状態は患部の一部にデブリドマンをすればよいというものではなかった,(2)担当医は,9日の術後からパンスポリン(抗生剤)の投与を継続していた,(3)高圧酸素療法はクロストリジウム性ガス壊疽の治療に重要な位置を占めるものの,外科的処置を最優先にすべきとの見解もあるし,決してガス壊疽の特効薬ではなく,これを実施しても断肢に至った事例も多く,逆に,実施しない事例も少なからずあるから,その主張は因果関係を肯定する根拠とはなり得ない。

第3 当裁判所の判断
1 被控訴人病院における控訴人の診療経過等について
 当裁判所が,被控訴人病院における控訴人の診療経過等について認定する事実は,次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1項に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決24頁18行目の「採血検査」の次に「(術前実施)」を加える。
(2) 原判決25頁末行の「85頁」を「83頁」に改める。
(3) 原判決28頁23行目の「末綱証言5頁」の次に「,C証言27頁,弁論の全趣旨」を加える。

2 担当医の各注意義務違反の有無について
 当裁判所の担当医の各注意義務違反の有無に関する判断は,次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の2項に記載のとおりであるから,これを引用する。
 原判決41頁25行目の「平行して」から末行末尾までを「並行して発症することもあり得る(鑑定の結果)から,被控訴人の主張は採用できない。」に改める。

3 担当医の各注意義務違反とガス壊疽重篤化に基づく左大腿切断との因果関係について
(1) まず,ガス壊疽発症の機序は前記第2の2の前提事実(原判決第2の1(5)参照)のとおりであるところ,11日時点で生じていた左下腿の血行障害がガス壊疽の発症及び重篤化の一因と生った事実は当事者間に争いが無いので,血行障害の原因につき検討する。
 前記1(原判決第3の3(2)参照)のとおり,控訴人につき,10日夕方の膝窩動脈縫合術の後,足背動脈の拍動が次第に弱くなっていき,11日午前6時以降は全く触れない状態になり,また,同日は,一貫して創部痛があり,夕方から改善傾向が見られたものの,冷感,皮膚色の蒼白化,背屈筋力の低下,腓骨神経領域の知覚低下等の症状を呈し,12日午前8時過ぎには,足背動脈及び後脛骨動脈の触知不可,左足趾の運動不良,左下腿前面筋肉の色調異常,皮膚のチアノーゼ等の症状を呈し,異臭も確認され,同日夕方に実施された血栓除去術において,膝窩動脈縫合術における縫合部位から約5センチメートル心臓側に長さ2ないし3センチメートルの細長い円筒形の血栓が発見され,10日に止血した部位に血管の狭窄と血液の漏出があった事実が認められるところ,血管縫合に際し太い縫合糸を使用すると縫合部の狭窄を来し血栓の形成を容易にし,そのような血栓は徐々に形成されること(乙41,鑑定の結果,弁論の全趣旨)にかんがみると,11日の諸症状の原因と考えられる血行障害は,10日夕方の膝窩動脈縫合術において,原判決説示のとおり通常太さ7−0の縫合糸が適切とされているのに,本件では4−0と太めの縫合糸が使用されたために,縫合部位(膝窩動脈が分枝を出す部分)の血管が手術後に狭窄し,心臓から送り出される血液がその前で滞留傾向を呈したため,徐々に血栓の形成が進んだことが一因であったと推認することができる。この点について,医師Cは,血栓の形成は受傷の際に動脈外膜(一番外側の層)は保たれていたが,内膜(一番内側,血液に接する部分の層)が損傷を受けていたところ,損傷を受けた内膜表面では血液凝固作機転用が生じる生理的作用があるので,次第に凝血が生じて血栓ができ,受傷から相当時間経過後に血管が閉塞した可能性を説明する(乙38)が,内膜損傷をうかがわせる資料はなく,一つの可能性として考えられるとするものであって,上記推認を左右するものではない。
 なお,血栓形成過程に関する被控訴人の主張(第2の3(2)ア)はこれを裏付ける証拠が提出されておらず,鑑定の結果に照らしても,採用できない。
(2)もっとも,前記1(原判決第3の1(6)イ参照)に認定のとおり,控訴人は,10日時点で左下腿にコンパートメント症候群を発症していたところ,コンパートメント症候群もまた血行障害を引き起こす要因となるものであり(鑑定の結果),前記1(原判決第3の1(9)のク以下参照)に認定のとおり,コンパートメント症候群に対する同日夕方の筋膜切開術後の11日夕方から血行状態に改善傾向がみられたことに照らせば,同日時点の血行障害にはコンパートメント症候群も一定程度寄与していたことが推認され(なお,10日夕方の膝窩動脈縫合術及び筋膜切開術後間もない血栓の形成が始まったばかりの時点において,直ちに血行障害が改善していないことからすると,コンパートメント症候群に対する筋膜切開術は血行障害に即効性を有さないものと認められる〔結論部分につき,乙37,証人E及び同C同旨〕から,控訴人主張〔第2の3(1)ア〕のようにコンパートメント症候群の11日時点の血行障害への寄与度が皆無または微妙であったとはいい難い。),前記第2の2の前提事実(原判決第2の1(5)イ参照)のとおり,クロストリジウム性ガス壊疽は,一旦発症すると,その進行が極めて早く,死亡率も高く,救命のため四肢の切断を余儀なくされることがあることにもかんがみると,仮に,担当医が,10日夕方の膝窩動脈縫合術の際に適切な縫合糸を使用することにより血栓を形成させず,また,適時に諸検査を実施して血栓を発見することにより血栓を溶解又は除去していたとしても,控訴人において,ガス壊疽の発症及び重篤化,さらには,それに基づく左大腿切断を免れたと断定することはできない旨の医学的知見(鑑定の結果)も一つの可能性として是認できる。
 しかしながら,上記(1)のとおり,担当医の各注意義務違反がガス壊疽の発症及び重篤化等という実際に発症した損害につき現実に寄与したと認められるのであれば,その間に因果関係が存しないということはできず,このことは,これら注意義務違反がなかったと仮定した場合において,いずれ同等の損害が発症したか否かに左右されるものではないと解される。
 さらに,ガス壊疽の発症の要因は,原因菌であるクロストリジウム・ペルフリンゲンスの増殖の好適環境をもたらした血行障害にあるが,その原因としては,コンパートメント症候群における阻血性あるいは血管縫合術で使用された縫合糸の太さの選択の誤りに起因する血栓の形成に基づく血管の閉塞が考えられるところ,本件については,上記(1)に認定説示したとおり,血管縫合術の際に縫合糸の太さの選択を誤って血栓を発生させて血行障害を惹起し,適時に血行障害の有無に関する諸検査を実施せず血栓の発見が遅れた担当医の各注意義務違反がガス壊疽の発症及び重篤化に寄与したことは,単なる可能性にとどまらず,具体的な機序を伴って証明されており,他方,コンパートメント症候群単独によるガス壊疽発症の症例が存在することは否定できないが,本件において,コンパートメント症候群単独に起因した血行障害がそのような症例に該当することにつき,実際的な診察資料,検査データ等に基づく具体的な主張立証はないから,コンパートメント症候群単独でもガス壊疽の発症及び重篤化に至った可能性を否定できない旨の医学的知見のみをもって,担当医の各注意義務違反と後記4の損害との因果関係を否定することは相当ではないというべきである。
 なお,10日に実施された術前の血液検査で白血球数が1万5400という高い数値を示していたことからすると,その時点で既にガス壊疽を発症していた可能性も否定できない(鑑定の結果)ところ,本訴において,ガス壊疽の発症時期が12日午前中であることは当事者間に争いがないので,その可能性は除外して判断すべきであるが,仮にこれを考慮するとしても,担当医の各注意義務違反に基づく血行障害の発生及びその発見遅滞がガス壊疽の重篤化に寄与したとみることはできる。
(3)また,膝窩動脈縫合術後間もない時期であれば,血栓の形成量が少ないため,担当医において諸検査を実施しても血栓を発見できなかったことも考えられるが,担当医には,自ら上記のような適切な太さの縫合糸を使用せずに膝窩動脈縫合術を実施したのであるから,適時に諸検査を実施すべき注意義務があるというべきであり,諸検査の実施時期如何により血栓を発見できない可能性があったことをもって,担当医が諸検査を実施しなかった注意義務違反とガス壊疽重篤化に基づく左大腿切断との因果関係を否定することはできないというべきである(なお,上記のとおり,担当医が膝窩動脈縫合術に際して太い縫合糸を使用した注意義務違反とガス壊疽重篤化に基づく左大腿切断との因果関係が認められる本件においては,この点が請求の当否を左右するものではない。)。
(4)以上,要るすに,担当医が膝窩動脈縫合術に際して太い縫合糸を使用した注意義務違反により,血栓の形成を招き,既に発症していたコンパートメント症候群とともに血行障害の原因となり,このような血行障害が控訴人の体内にわずかに残存していた嫌気性のガス壊疽菌(クロストリジウム・ペルフリンゲルス)を増殖に好適な環境下におき,さらには,担当医が血流ドップラー検査及び血管造影検査を実施しなかった注意義務違反により,血栓の早期発見が遅れ,2ないし3センチメートルの細長い円筒形の血栓を形成させて血管を閉塞させ,その溶解又は除去が遅れたことも相俟って,血行障害が長期持続したため,原因菌の増殖を招きガス壊疽の発症及び重篤化に至った事実が認められるので,被控訴人は,担当医の各注意義務違反と因果関係を有するガス壊疽重篤化に基づく左大腿切断により控訴人が被った後記4の損害を賠償する責任がある(ただし,損害額の算定に当たり,コンパートメント症候群が損害発生に寄与している点を斟酌すべきことについては,後記4(7)のとおりである。)。
 なお,担当医の各注意義務違反が一因となり12日午前に発症したガス壊疽が重篤化し,そのため,控訴人が左大腿切断を余儀なくされたとの経過が認められる以上,12日午前の時点で可能であった治療方法に関する控訴人の主張(第2の3(1)エ)の当否は,もはや因果関係の有無を左右しない。
4 損害について
(1)入院雑費 28万3400円
 証拠(乙2)によれば,控訴人は被控訴人病院に平成11年4月9日から同年11月15日までの221日間入院した事実が認められるが,上記2及び3の認定説示に照らすと,担当医の各注意義務違反と相当因果関係のある控訴人の入院期間は,ガス壊疽が発症した同年4月12日から同年11月15日までの218日間というべきであり,入院雑費としては,この期間につき,日額1300円,合計28万3400円を認めるのが相当である。
(2)家族の入院付添費 7万8000円
 証拠(甲10,証人Y)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は被控訴人病院に入院中,付添看護の必要があったため,平成11年4月10日から15日間,家族に付き添われた事実が認められるが,上記(1)と同様に,そのうち,担当医の各注意義務違反と相当因果関係のあるのは,同月12日から13日間というべきであり,家族の入院付添費としては,この期間につき,日額6000円,合計7万8000円を認めるのが相当である。
(3)入院慰謝料 150万円
 以上に認定のとおりの控訴人の症状,担当医の各注意義務違反と相当因果関係のある入院期間等にかんがみると,入院慰謝料としては150万円が相当である。
(4)後遺障害逸失利益 4089万4222円
 控訴人の左大腿切断による後遺障害,すなわち,1下肢を膝関節以上で失うという障害は,後遺障害等級4級(労働能力喪失率92パーセント)に相当するところ,控訴人の平成10年度の給与収入と農業所得の合計473万1986円(甲6,7)を基礎として,平成11年4月当時の控訴人の年齢55歳に対するライプニッツ係数9.39357を用いて,控訴人の逸失利益を計算すると,次のとおり,4089万4222円(1円未満切り捨て)になる。
4,731,986×0.92×9.39357≒40,894,222
(5)後遺障害慰謝料 1550万円
 上記(4)のような後遺障害の内容,程度等にかんがみると,後遺障害慰謝料としては,1550万円が相当である。
(6)小計 5825万5622円
(7)寄与度減額 2912万7811円
 前記3のとおり,控訴人の左大腿切断の原因となったガス壊疽の発症及び重篤化には,担当医の各注意義務違反とコンパートメント症候群がともに寄与したのであるから,控訴人が被った損害の全部を被控訴人に賠償させるのは公平の観点から相当ではないというべきである。そこで,被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合(最高裁平成4年6月25日第1小法廷判決民集46巻4号400頁参照)に準じて,民法722条2項を類推適用して,控訴人がコンパートメント症候群を発症していたことを斟酌することとする。そして,本件においては,双方の寄与度につきいずれが大きいとも断定できず,これを同等とみるほかないので,控訴人に生じた損害の2分の1を被控訴人に賠償させることとすると,その額は2912万7811円となる。
(8)弁護士費用 300万円
 弁論の全趣旨によれば,控訴人は,被控訴人に対する損害賠償請求権を行使するため本訴の提起を余儀なくされ,その追行を控訴人訴訟代理人に委任した事実が認められるが,本訴の事案の難易,経過,認容額その他諸般の事情に照らせば,弁護士費用としては,300万円が相当である。
(9)合計 3212万7811円

5 結論
 よって,被控訴人の請求は,控訴人に対し,使用者責任に基づき,3212万7811円及びこれに対する不法行為後の日である平成11年4月15日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で認容すべきで,その余は失当として棄却すべきである(なお,債務不履行責任に基づく請求によっても,これを超える認容額にならないことは明らかである。)から,本件控訴に基づき,原判決を本判決主文2項以下のとおり変更し,また,仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととし,主文のとおり判決する。

仙台高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官 井上稔
裁判官 畑一郎
裁判官 小林直樹


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