福島VBAC訴訟・鑑定書,補充鑑定書(抜粋)

(事件番号平成14年(ワ)第114号、福島地裁判決平成20年5月20日、事件概要はこちら,判決文はこちら。控訴審事件番号平成20年(ネ)249号,仙台高裁 、和解成立)


鑑定書

 平成19年1月30日 三重大学教授 佐川典正

◆鑑定事項1 平成7年当時,産婦人科医は患者に対しVBACを行うに際し,どのような説明をすべきとされていたか。

結論 平成7年当時,日本産科婦人科学会や日本母性保護医協会からはVBACを行うに際し,どのような説明を行うかに関して具体的な指針は出されておらず,個々の施設の判断に委ねられていた。

理由 平成7年当時は,インフォームドコンセントの概念は確立していなかった。平成7年の日本産科婦人科学会の研修コーナー,日本母性保護医協会の研修ノートには,VBACに際しては家族のインフォームドコンセントをとるとされていたものの,内容についての指針はなかった。
 平成15年のそれらにも具体的内容の記載はなかった。平成7年の前回帝王切開妊婦の取り扱いは,VBACのリスクとベネフィット,特に子宮破裂の予防と対策が強調されている。
 自己決定権を尊重し書面にて確認をという記載が一般的になるのは2004年から。

◆鑑定事項2 本件平成7年5月17日以前の原告患者及び胎児の診療経過において,被告病院の医師は,経膣分娩を断念し予定帝王切開を選択するとの判断をすべきであったといえるか。また,被告病院の医師は,その判断をするために必要な診察,検査を行ったといえるか。

結論 平成7年5月17日に陣痛発来にて入院するまでに,経膣分娩を断念し予定帝王切開を選択すべき所見は認められない。また,その判断をするために必要な診察・検査を行っていたといえる。

理由 インフォームドコンセントについては,母子手帳に「子宮破裂が心配なので子宮壁の厚さを測定」していたことが記載されている。したがって原告患者は経膣分娩を試みた場合子宮破裂のリスクが高くなることは認識していたし,そのことに関して,E医師の説明を聞いていたと解釈できる。ただし説明の詳細な内容や形式は文書で残されていないので判定できない。このような形式の文書によらない説明が本来の意味でのインフォームドコンセントといえるかどうかは,現在の医療水準からすると問題がないとはいえないが,平成7年当時の我が国でのVBACに際しての患者への説明は,統一指針もなく,施設に委ねられていたことを考慮すると,インフォームドコンセントが得られていないのでVBACの禁止条件に当たるとはいえない。なお,現代のインフォームドコンセントと当時のそれとの差に関しては,鑑定事項10でも述べる。

◆鑑定事項3 本件の入院出産に至るまでの間に,被告病院の医師が,VBACを断念し,帝王切開に移行すべき時期はあったか。また,あったとすれば,その時期はいつか。

結論 胎児心拍数陣痛図モニタリング上,平成7年5月17日午前3時35分頃に胎児心拍数が60/分に低下し,酸素投与を行っても回復せず,切迫胎児仮死の診断のもとに吸引分娩は困難であると判断され,また,続く超音波検査にて子宮破裂が強く疑われた時点で,すなわち,平成7年5月17日午前3時40分頃に,帝王切開術に切り替えるべき状態になった。

理由 (前略)
 胎児心音の低下から帝王切開決定に5分要した。これが妥当か否か考察する。
 分娩中に胎児心音が低下したら,まず酸素投与と体位変換を試みる。それでも回復しない場合,子宮口全開大で児頭 Station 0以上の下降であれば吸引分娩が第1選択である。吸引分娩回数2回は適正である。2回施行後児頭が上方移動して吸引分娩を断念したことも正しい。胎児及び子宮の状態を超音波検査で確認したことも,手術に移行するか待機するかを決定する上で必要である。
 吸引2回で3~4分,超音波検査で2~3分を考慮すると,極めて迅速に処置と検査,帝王切開の決断が行われたというべきである。

◆鑑定事項4 本件において,被告病院の助産師が分娩監視装置による継続監視を中断したことは,適切であったか。

結論 適切か否かは,何を対象とするかにより異なる。一般論としては,VBAC中にはモニターをするべきであるといえる。しかし,本件において,モニターを一時的にはずしたことが,子宮破裂をきたす原因になったという根拠はない。また,子宮破裂の診断を遅らせたともいえない。したがって,これらの視点からは「適切でなかった」とはいえない。

◆鑑定事項5 本件において,被告病院の助産師が人工破膜を行ったことは適切であったか。

結論 被告病院の助産師は,子宮口が全開大していることを確認した後,分娩監視装置を装着しつつ人工破膜を施行しており,この処置は適切に行われたといえる。

◆鑑定事項6 本件において,人工破膜の3分後に児心音が80~50bpmに低下した原因は何か。また,このときに被告病院の医師が取るべき処置は何であったか。

結論 帝王切開時の腹腔内所見で,胎児の一部及び臍帯が子宮腔から腹腔内に脱出していたことを根拠として,後方視的に判断すると,児心音低下の原因は,臍帯脱出が原因であったと推定できる。しかし,実際臨床の現場では突然の胎児心拍数悪化の原因として,短時間のうちに,母体血圧低下,臍帯下垂,臍帯脱出,胎盤早期剥離,子宮破裂など様々な要因を鑑別診断しなければならない。
 分娩第2期に胎児心音が悪化した場合に取るべき処置としては,まず酸素投与,母体の体位変換を行う。それでも回復しない場合は吸引分娩や鉗子分娩による急遂分娩を考慮する。この間に内診や外診,超音波などで臍帯下垂の有無や子宮破裂の有無など,胎児心音悪化の原因を検索する。ただし,吸引分娩や鉗子分娩により30分以内に娩出できないと判断される場合は帝王切開に移行する。

◆鑑定事項7 本件において,被告病院が吸引分娩を試みたのは適切であったか。また,その時点においてクリステレル胎児圧出術を行うことは,適切であるといえるか。

結論 本件において,被告病院が吸引分娩を試みたことは,その適応及び要約に照らして,適切であった。また,吸引分娩の際にクリステレル胎児圧出術を併用したことは,不適切であったとはいえない。

◆鑑定事項8 本件において原告患者の子宮破裂が起きた時期はいつか。また,子宮破裂の原因は何か。

結論 子宮破裂の時期を正確に診断するのは不可能である。ただし,子宮破裂に特徴的といわれる症状から推定すると,5月17日午前3時34分~3時40分頃の間に起こったと考えられる。子宮破裂の原因としては,前回帝王切開の子宮瘢痕部に子宮収縮に伴う張力が加わったため,瘢痕部の離開,すなわち子宮破裂が生じたと考えられる。

理由 (前略)
 5月17日午前3時頃に,腹緊時「下の奥のほうが痛い」との記録があり,この訴えを子宮破裂の症状とするか否かが問題となる。この点に関しては,子宮破裂による疼痛がどのような機序で生じるかを考慮する必要がある。子宮破裂が生じると局所には組織の破壊と出血が起こり,その結果腹膜刺激などによる疼痛が生じると考えられる。そのような機序で生じる疼痛は,陣痛に伴う周期的疼痛とは異なり,持続的であることが特徴である。本件で5月17日午前3時ごろから見られた下腹部の疼痛は,持続的ではなく,腹部緊満時すなわち陣痛発作時に認められる疼痛であり,子宮破裂に伴う局所刺激による持続性の疼痛とは区別される。つぎに,膣出血に関しては,午前3時10分頃に少~中等量の膣出血を認めているが,この時すでに子宮口は全開大していたことから,子宮頚部の開大に伴い子宮下部の卵膜が剥離した部位からの出血である可能性も考えられる。実際,子宮口が全開大し,児頭が固定されている状態で前回帝王切開の部位が破裂した場合,出血は殆どが腹腔内に流出し,膣からの出血は多くないと考えられる。従って,本件の場合,膣からの出血が子宮破裂に伴うものであった可能性は低いと思われる。

◆鑑定事項9 平成7年5月当時の医療方法の普及状況からみて,VBACを行うにあたり,帝王切開に移行するための準備として,どの程度準備すべきであったか。

結論 平成7年当時,我が国の医療状況では,昼間と夜間を問わず,VBACを断念して帝王切開に移行することを決定してから,30分以内に手術が開始できるように準備することが求められていた。具体的には,術前検査を行うこと,手術室および機械の準備(消毒),複数の産婦人科医師の確保(不可能なら3人目の産婦人科医師が代行してもよい),などである。

理由 平成7年,日本産科婦人科学会研修コーナーでは,VBACの条件として,帝王切開決定から30分以内に手術可能であることを挙げている。
 平成10年,日本母性保護医協会研修ノートでは,VBACを行う場合,速やかに帝王切開に切り替えることができる準備が必要とされているが,具体的な基準となる時間は記載されていない。ただし,子宮破裂の場合17分を超えて娩出した場合に新生児仮死が増加したとの Leungらの報告を引用し,可及的かつ速やかに帝王切開が出来ることが望ましいとの記載があるが,同時に,当時の国内の施設では,通常30分以上を要することも併記されていることから,当時としては「30分以内の手術開始」がむしろ目標値であったといえる。(中略) 1991年に発行された米国の参加教科書: Obstetrics Normal and Problem Pregnanciesには,"In 1985, the ACOG Committee on Obstetrics recommend ~ for an urgent cesarean birth was 30min" と記載されており,当時の米国でも,VBACの条件の一つに「決定から速やかに帝王切開ができること」を挙げているが,その基準は30分であったといえる。

◆鑑定事項10 本件において,児に障害を負わせることなく出生させることが可能であったか。可能であったとすれば,その方法及び時期はどのようなものか。また,可能であり,その方法及び時期が特定されるとすれば,被告病院において,その時期にその方法をとらなければ児の障害の結果が生じうると予見し得たか。

結論 分娩には,胎児の生命予後だけでなく母体の安全性もかかわるので,児に障害を与える可能性のみを理由に分娩方法選択の是非を論ずることは,客観性に欠けると思われる。また,分娩方法の選択はその時代の医療水準や社会的背景によっても影響される。従って,ここでは現代医療水準に基づいて平成7年当時の分娩方法の選択の是非を,仮定の話として論ずることは避けたい。
 また,「児に障害を負わせることなく出生させることが可能な方法があったと仮定して,その方法をとらなければ児の障害の結果が生じうると予見し得たか。」との問いに答える際には,「児に障害を負わせることなく出生させる方法をとった時に,母体に致死的障害を負わせる可能性がなかったかどうか」という問いに答える必要があるが,1回の妊娠に2つの分娩方法を実際に実行してみて結果を比較することができない以上,一般論として考察する以外にない。
 以下に分娩方法選択の一般論を述べ,平成7年当時の前回帝王切開妊婦の分娩方法選択について述べる。

理由 経膣分娩は,母体リスクは低いが,児のリスクが高くなる。経腹分娩は,母体リスクは高いが,児のリスクは低くなる。分娩方法は,個々の症例ごとに様々な角度から見て,母体と胎児のリスクとベネフィットを総合的に判断して選択される。
 本件では母体は1年9ヶ月前の平成5年8月9日に双胎骨盤位を適応として,子宮下部横切開帝王切開となり,術後合併症はなく回復した。母体は身長161cm, 体重47kg。前回帝王切開以外に妊娠,分娩のリスクはない。胎児は発育順調,39週5日で推定体重3212g。40週5日で推定体重3667g。心拍モニタリングでも異常はなかった。これらから,平成7年当時のVBACの適応と禁忌のうち,インフォームドコンセントを除く全ての項目が満たされていた。
 インフォームドコンセントについては鑑定事項1でも述べたように,現在の概念のインフォームドコンセントが得られていたという根拠はないが,当時のインフォームドコンセントのあり方が現在のそれとは全く異なっていたことに留意する必要がある。
現在:文書を用いて十分説明をし,患者による選択。
平成7年:指針はない。今日的な意味でのインフォームドコンセントという概念は十分確立されていなかった。
 文書による説明と同意は,平成12年以降であった。本件では,母子手帳に「子宮破裂が心配なので子宮壁の厚さを測定」していたことが記載されている。したがって原告患者は経膣分娩を試みた場合子宮破裂のリスクが高くなることは認識していたし,そのことに関して,E医師の説明を聞いていたと解釈できる。その前提では,現代の文書によるインフォームドコンセントと異なっているからといって,平成7年当時のインフォームドコンセントとして十分でなかったとはいえない。インフォームドコンセントが得られていたとすれば,本件においてVBACが試みられたことになんら過失を認めることはできない。

おわりに

 分娩には,母体と胎児の2つの生命が関与している。妊娠,分娩の管理に当たっては,それぞれのリスクとベネフィットを天秤にかけつつ,その当時の医療水準に照らして最も良いと思える治療法を選択するが,検査法や治療法の進歩に伴い,当然選択の基準も変遷している。また,選択肢が複数ある場合,それぞれを実際に行った後,結果を見てから,遡って治療法を再度選択し直すことができないというジレンマがある。本件の場合でも,帝王切開をしていたら胎児が後遺症を残さず出生した可能性(確率)が高かったということを一般論として論ずることはできるが,その選択をした場合,母体がどのような後遺症を併発したかということに対する解答も,あくまで一般論として確率の次元でしか論じることができない。また,これらの確率があくまで一般論であるという前提に立てば,実際の臨床では稀な母体合併症が起きたり,母体死亡に至る可能性も皆無ではなく,必ず一定の頻度で発生する。一般論としていくら確率が低くても,実際に重篤な後遺症が発生すればその人にとっての確率は100%ということになる。このように,治療に限らず臨床の場では殆ど全ての選択は100%完全に正しいということはなく,常に一定のリスクを伴うというジレンマがある。そのジレンマに対して以前は治療者としての医師がその責任において選択をしていた時代もあったが,1990年代にかけて,患者の治療への参加(自己決定権)という観点と医事紛争を防止するという観点から,リスクの高い治療に関してはインフォームドコンセントという概念が導入されはじめ,何らかの形で治療に関する説明を行うようになった。しかし,2000年ごろまではその説明に関してもそのような形式でどの程度の内容を説明するのかという基準はなく,各施設や医師の裁量に委ねられていた。しかし,このような曖昧な形のインフォームドコンセントでは施設ごとに内容が異なる場合があったりするので,医療事故の防止に十分には役立たないことが反省され,前述の如く,2000年頃を境に治療の標準化を目指して,クリニカルパスに基づいた文書によるインフォームドコンセントが提唱されるようになり,現在に至っている。
 本件は現在におけるような文書によるインフォームドコンセントの概念が確立されていない時代に起こったため,不幸にして,医療者側と患者側の共通の理解が得られず相争う結果となったと考えられる。


補充鑑定書

 平成19年9月7日 三重大学教授 佐川典正

はじめに

 前回の鑑定書の冒頭にも記載したように,周産期医療の進歩は急速で,かつ周産期医療を取り巻く社会的環境も時代により著しく変化している。この30年間の間に超音波診断装置の高性能化と普及,胎児心拍数モニタリングの普及,各種胎児診断技術の進歩,これらが相まって母児共に安全な妊娠分娩の管理が高い確率で達成できるようになった。すなわち,産婦人科医師数は米国や欧州の先進国に比して半数以下であるにもかかわらず,周産期死亡率は世界のトップとなり,妊産婦死亡率も大幅に改善しトップレベルとなっている。これらの進歩は医療機器や技術の発展だけではなく,それらを導入し応用発展させた周産期医療従事者の献身的努力に負うところが大きい。そのことは,その国の周産期医療レベルを反映するとされる周産期死亡率,妊産婦死亡率が,いずれも同じ医療機器を使用し,医師数,医療費共に我が国の2倍以上を費やす米国よりも優れていることからも窺い知ることができる。既往帝王切開妊婦の経膣分娩(VBAC)に関しても同様で,1980年代に米国で推奨されたことが我が国にも導入されて1990年代に入って一般病院にも普及拡大した背景がある。1990年代半ばには米国ではVBACに関連した医療訴訟の増加などからやや慎重になる傾向がでてきたが,VBACを否定するものではなかった。それが我が国の産婦人科医療現場に反映されるのはやや遅れて2000年頃からであった。本件における医療行為の是非を論ずる際には,少なくとも,このような周産期医療に関する考え方の変遷を前提としておく必要がある。

◆鑑定事項1 入院時までVBAC実施のために必要な診療,検査を行っていたかどうかについて
(1) 超音波検査による児体重,胎盤の位置,創部菲薄化の有無について

結論 被告病院は分娩までに超音波検査による児体重,胎盤の位置,創部菲薄化の有無について検査を行っていた。

(2) CPDを疑う所見及び診断について

結論 本症例においては明らかにCPD(児頭骨盤不均衡)を疑わせる客観的所見は見られない。

理由 BPDは児頭の向きや骨盤への侵入度によっては過大に計測されることがある。実際,40週5日の超音波検査による推定体重は過大であったことからすると,児頭の計測も過大でありその前の週までの94mm前後と考えるのが妥当と推定する。
 子宮底長から胎児の大きさを推定することは,測定に誤差があるので今はしない。
 このように不正確な指標でCPDであると判断して帝王切開の適否を決定することは,検査方法の限界を無視したものである。測定ごとに変動する結果のうち極端な一つの値だけを取り上げて結果の是非を論ずることは,むしろ非科学的との誹りをまぬがれないであろう。

(3) X線骨盤計測の有用性について

結論 VBACに先立ってX線骨盤計測が必須であるとの客観的根拠はない。

理由 CPD診断が前回帝王切開のVBACに及ぼす影響を検討した Thubisiらの論文によると,
X-pによるCPD診断を施行した144例で,VBAC可能とされたのが84例。そのうちVBACが成功したものが27例。
X-pによるCPD診断を施行しなかった144例で,VBACが成功したものが60例。しかし分娩後にX-pを施行し判断したところ,33例がVBACが不可能の判断になっていた。

◆鑑定事項2 人工破膜前の症状について
 分娩経過表に記載されている「腹緊時"下の奥のほうが痛い"と」という記載と,「出血パッド 少~中等量」という記載が子宮破裂を疑うべき症状といえるか否か,について。

結論 「腹緊時"下の奥のほうが痛い"と」という記載と,「出血パッド 少~中等量」という記載は,それ自体は正常分娩でも頻回に認められる症状なので,積極的に子宮破裂を疑って,帝王切開に切り替えるほどの症状とはいえない。

◆鑑定事項3 人工破膜について
(1) 佐藤郁夫氏の「人工破膜時の注意事項と陣痛促進効果」に関する見解について。

結論 佐藤郁夫氏の見解(甲B29)とほぼ同じである。

理由 佐藤郁夫氏は破膜によって促進されるのは,子宮口の開大であって陣痛ではないとしている。

(2) 人工破膜時,助産師が児頭の固定状態を把握していたか否かについて

結論 当該助産師は人工破膜時には子宮口は全開大し,下降度は+1であったと把握していたといえる。

(3) 人工破膜時に予測すべき危険性について

結論 人工破膜は適切に行われたと言える。

(4) 心拍数が低下した時点で子宮破裂を強く疑うべきか否かについて,村田鑑定書(19~20頁)と同じ見解かどうか

結論 徐脈イコール子宮破裂ではなく,臍帯下垂や胎盤早期剥離などの除外診断の後に子宮破裂の診断が行われる。すなわち,小職の理解では,村田氏の言う徐脈の発生時期ではなく,徐脈の原因を鑑別すべく行った超音波検査と体位変換や酸素吸入で胎児心拍が回復しなかった時点から子宮破裂と臨床診断すべきで,村田氏の意見より数分遅い,5月17日午前3時35分~午前3時40分頃と考える。

(5) 持続性の徐脈に対する処置に関して,村田鑑定書(20頁)と同じ見解か。

結論 同じである。理由は(4)の通り。

(6) 人工破膜後に発生した徐脈の定義について

結論 前回の鑑定書の鑑定事項6(11頁)の理由の部分(2行目と3行目)に記載した「遷延一過性徐脈」という字句は「徐脈」に訂正するのが妥当と考えます。
(峰村注:前回の鑑定書の該当部分は,写しがないので読み流してください)

◆鑑定事項4 吸引分娩について
(1) 児頭がステーション0~+1での吸引分娩の適否。他の文献との比較で,本件において吸引分娩を試みたことが適切な処置であったといえるか。

結論 本件において吸引分娩を試みたことは,補充鑑定事項書に挙げられた文献と比較しても不適切とは断定できず,適切な処置であった。

(2) 本件において吸引分娩を試みたことが適切であったか否か

結論 本件の状況下で吸引分娩を選択したことは明らかな間違いであるとはいえず,むしろ妥当な選択であったと考える。

理由 鑑定補充事項の項目には「切迫子宮破裂」と診断した場合,吸引分娩が適切か否かとなっているが,「切迫子宮破裂」とはまだ破裂していない段階のものであり,破裂した後に胎児徐脈が持続している状態とは全く異なる。
(中略)
5月17日午前3時35分頃の状況下で,担当医が急遂分娩の方法として吸引分娩を選択したことは明らかな間違いであるとはいえず,医師の裁量の範囲であると思慮する。かかる緊急の事態にこの程度の裁量を認められないとしたら,防衛的医療となり,殆ど全ての分娩は帝王切開をせざるを得なくなってしまうことを危惧する。

◆鑑定事項5 吸引分娩とクリステレル胎児圧出術を併用したことについて
(1) 児頭の高さが0~+1の状態で,吸引分娩とクリステレル胎児圧出術を併用することが適切か否か

結論 本件のように子宮破裂によると考えられる徐脈が持続しており,体位変換や酸素吸入など各種処置によっても回復が期待できない場合は,急遂分娩の方法として,一定の状況下での吸引分娩あるいは吸引分娩とクリステレル法の併用を選択することは妥当と考える。

(2) VBACの実施中に,子宮破裂が疑われる場合,吸引分娩とクリステレル胎児圧出術を併用することの是非

結論 吸引分娩とクリステレル胎児圧出術を併用したことは必ずしも間違いであったとはいえない。

◆鑑定事項6 子宮破裂の時期及び原因について
(1) 人工破膜またはクリステレル胎児圧出術を併用した吸引分娩が子宮破裂の発生に何らかの影響を与えたか否か。また,これらの処置が,子宮収縮に伴う張力を増加させたか否か。
(2) 下腹部痛や中等量の出血が瘢痕部の理解を疑う所見といえるか否か。

結論 本項目に関しては,前回鑑定書の鑑定事項8と内容がほぼ同じであるので,(1)と(2)合わせて意見を記載することとする。
 子宮破裂の時期を正確に診断するのは不可能である。ただし,子宮破裂に特徴的と言われる症状から推定すると,5月17日午前3時35分~3時40分頃までの間に起こったと考えられる。子宮破裂の原因としては,前回帝王切開の子宮瘢痕部に子宮収縮に伴う張力が加わったため瘢痕部の離開,すなわち子宮破裂が生じたと考えられる。人工破膜はそれ自体は子宮収縮を促進する作用はないので,人工破膜が原因で子宮破裂が促進されたとは考えがたい。また,各種症状の時間経過から後方視的に判断して,吸引分娩やクリステレル胎児圧出術は子宮破裂が生じた後に施行されているので,それ自体が子宮破裂の誘引になったと考えるには矛盾がある。さらに,本件における下腹部痛の出現や少~中等量の世紀出血が,直ちに子宮破裂の症状であるとはいえない。


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