富山医科薬科大学MRSA腸炎訴訟・控訴審判決概要

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 MRSA腸炎は、早期にバンコマイシンを投与して治療する必要がある。便培養には時間がかかるから、MRSA腸炎の発症が疑われた場合は、便培養とともにグラム染色を行い、グラム陽性ブドウ球菌が確認されれば、MRSA感染を疑いバンコマイシンを投与する。

 平成13年発行の「抗菌薬使用の手引き」には、MRSA腸炎は治療のタイミングを逸すれば、急激に重症化し、多臓器不全となりやすいから、発熱と下痢を呈する症例には直ちに便のグラム染色を行い、グラム陽性球菌が発見されれば治療を開始すると記載されている。平成16年発行の「感染症診療のコツと落とし穴」にも、激烈な下痢、発熱などの症状が術後早期に認められた場合で、便のグラム染色でグラム陽性ブドウ球菌が多数認められたときは、バンコマイシンを投与すべき」との旨記載がある。この治療法は平成16年には一般的だった。

 MRSA腸炎の臨床症状は、頻脈を伴う高熱、頻回大量の水様便、腹痛、腹部膨満、胃管チューブからの水溶性の排液増加があり、術後早期に発症することが多いが、術後50日程度を経過して発症することもある。

 平成16年12月8日の患者の状態から、MRSA腸炎を疑うことは十分可能であり、便培養の他にグラム染色検査をすべき注意義務があった。

 控訴人は、12月8日の症状は、MRSAに感染していない12月3日以前の症状と変わらないから、12月8日にMRSA腸炎の発症を疑うことは困難と主張するが、だからといって、12月8日の症状がMRSA腸炎と無関係とはいえない。現に、12月8日午前0時21分に採取された便からMRSAが検出されている(死後判明)。MRSA腸炎は発症すると重篤化し、生命の危険が生じることが認められること、ステロイドの総使用量が1万mgを超えていることから、感染症について注意を要する患者であったのだから、MRSA腸炎の発症について注意を払う必要があった。

 控訴人は、便には他種類の菌が混在し、菌種の特定が困難であると主張するが、便を検体としたグラム染色でグラム陽性ブドウ球菌の有無を確認することは一般的な方法である。

 12月8日にMRSA腸炎を疑って、便のグラム染色を行なっていれば、グラム陽性ブドウ球菌が検出されてバンコマイシンの投与ができていた。控訴人は、便培養の結果を待たずにバンコマイシンの投与をするのは、症状や経過から判断して、MRSA腸炎にほぼ間違いないと合理的又は客観的に認められた場合に限定すべきだと主張するが、MRSA腸炎は発症すると重篤化し、生命の危険が生じるので、グラム染色でグラム陽性ブドウ球菌が確認できれば、MRSA腸炎が発症したことがほぼ間違いないと認められなくても、バンコマイシンを投与すべきである。


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