一宮身体拘束裁判

(注: このページは書きかけて取り下げた版であり、最高裁判決を読み直して書き直した正式版があります。)

  事件番号 終局 司法過誤度 資料
一審名古屋地裁
一宮支部
平成16年(ワ)第392号 判決平成18年9月    
二審名古屋高裁 平成18年(ネ)第872号 判決平成20年9月5日 判決文要旨
最高裁
第三小法廷
(上告の有無は失念)
平成20年(受)第2029号
判決平成22年1月27日 ★(本文参照) 判決文

 入院中の患者が興奮状態となったために止むを得ず身体拘束をしたという事件です。一審では「他に危険を回避する手段がなかった」としたところ,二審で「緊急性はなかった」として病院側が逆転敗訴しましたが,最高裁が,「転倒,転落によりAが重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行った行為」として,二審判決を破棄しました。

一宮西病院の身体拘束「違法でない」…最高裁

 2003年に愛知県一宮市の「一宮西病院」に入院した女性(当時80歳、1審判決前の06年に死亡)が不必要な身体拘束で心身に苦痛を受けたとして、女性の遺族が、病院を経営する社会医療法人に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が26日、最高裁第3小法廷で開かれた。

 近藤崇晴裁判長は「今回の行為は女性が重大な傷害を負う危険を避けるため、緊急的にやむを得ず行ったもので、違法だとは言えない」と述べ、病院側に計70万円の支払いを命じた2審・名古屋高裁判決を破棄し、原告側の請求を棄却した。原告側の敗訴が確定した。

 患者に対する身体拘束の違法性が争われた訴訟で、最高裁が判断を示したのは初めて。最高裁は、身体拘束は原則として許されないとする一方、例外的に違法性が否定される場合があることを示した。

 判決によると、女性は03年10~11月、腰痛などのため同病院の外科に入院。意識障害の症状もあり、11月16日未明に何度もベッドから起きあがろうとしたことなどから、看護師がひも付きの手袋を使って、約2時間にわたって拘束した。女性は手袋を外そうとして手首などに軽傷を負った。

 同小法廷は「身体拘束は患者の受傷を防止するなど、やむを得ない場合にのみ許される」と述べた一方、拘束しなければ女性が骨折などを負う危険性が高かったことや、拘束以外にこれを防止する適切な方法がなかったことなどから、違法性は否定されると判断した。

 1審・名古屋地裁一宮支部は06年9月、「拘束以外に危険を回避する手段はなかった」などとして違法性を否定。2審は「重大な傷害を負う危険があったとは認められない」などとして、拘束を違法と判断していた。

2010年1月26日 読売新聞

 最高裁の判決文は大変わかり易く,筋が通ったものと考えられました。医療に対して過剰な要求をするごく一部の人々を除けば,非医療者であってもこの最高裁の判示に疑問を持つ人はいないのではないかと思います。医療関係者としても,無理を強いるかのような高裁判決が破棄されたことに,安堵しました。

(注: 以下は法律家の方向けです。)

 さて,私は医療関係者としてこの最高裁判決を読み安堵しながらも,同時に何とも言えない違和感を覚えました。というのも,最高裁は法律審を行う場所であるところ,この最高裁判決文をよく読むと,事件当時に身体拘束を行う程度の緊急性が認められる状況であったか否かという点についてのみ判断がされており,広い意味での事実審が行われただけであったと考えられたためです。因果関係の判断基準そのものについて最高裁による判断が期待された八戸縫合糸訴訟が受理されず,一方で内容的には事実審に過ぎない今回の事件が受理されたという,最高裁の受理不受理という取捨選択における一貫性の無さが気持ち悪いのです。しかも,八戸縫合糸訴訟とこの事件とは,同一の調査官(増森珠美調査官)が担当されていたのですから,その気持ち悪さはなおさらです。

 八戸縫合糸訴訟の稿で書いたことの繰り返しになりますが,法律家には法律家の方々のやり方があるのであって,特に専門職にあってはその場で実際に関係した担当者の考えが尊重されて然るべきと考えますので,最高裁の取捨選択の判断基準や,増森珠美調査官の調査姿勢までをも殊更に糺したいとまでは思いません。ただ,司法も医療も高度の専門性と結果の不確実性を持つ専門職であるというのに,海よりも広い裁量権を持つ最高裁から,全てが厳しいとまでは言いませんが,多くの厳しい判例によってガチガチに締め上げられている医療関係者という立場いる私としては,溜息のひとつもつきたくなるというものです。

平成22年1月28日記す。


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