東京産婦MRSA感染訴訟・二審判決文抜粋

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平成21年9月25日判決
平成15年(ネ)第5683号,平成18年(ネ)第2916号

控訴人代理人
鈴木俊光,平沼高明,平沼直人,棚瀬慎治,伊藤祐輔,加治一毅,馬渕俊介

被控訴人代理人
上條義昭,高木一嘉

主文

被控訴人Aに対し,9433万5054円及びこれに対する平成8年7月18日から支払済みまで年5分の割合。
被控訴人Aに対し,病院を退去した日から死亡するまでの間,毎月末日限り,1日あたり2万円

被控訴人Bに対し,385万3729円およびこれに対する平成8年7月18日から支払済みまで年5分の割合。
被控訴人C,同D及び同Eに対し,それぞれ110万円およびこれに対する平成8年7月18日から支払済みまで年5分の割合。

訴訟費用。10分して4を被控訴人,余を控訴人。

請求
付帯控訴
1億0309万1849円及びこれに対する平成8年7月16日これに対する平成8年7月18日から支払済みまで年5分の割合。 毎月末日限り1日当たり2万2220円。
控訴人Bに対し,715万3729円およびこれに対する平成8年7月18日から支払済みまで年5分の割合。
被控訴人C,同D及び同Eに対し,各自220万円およびこれに対する平成8年7月18日から支払済みまで年5分の割合。

事案の概要,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」「2 争点」及び「3 争点に関する当事者の主張」(ただし,「3 争点に関する当事者の主張」中「(5) 争点5(原告らの損害)について」(原判決22頁22行目~25ページ4行目)を除く。)に記載の通りであるから,これを引用する。

3 当審における控訴人の主張
(1) 争点2について

 平成8年7月13日の第2土曜日の時点で,臨床検査部に対して,同月10日に採取した本件羊水の細菌培養検査を特別に急がせなかったことも,同月13日における被控訴人Aの状況に照らせば相当であり,医療水準にもとるものではない。

(中略)

(略)
 原判決は被控訴人AのTSS発症を否定し,当審の野田洋一鑑定人もこれを否定するが,当時の被控訴人Aのカルテ(乙1)及び看護記録(乙3)によれば,CDC(アメリカ疫学調査センター)が示す診断基準の項目である「発疹」や「落屑」を認めることができ,同じく「消化管に嘔吐又は下痢」に該当する胃腸の障害の症状も認められるのであって,TSSは発症しているといえる。

P31
4 争点3(結果回避の可能性)について
 次に,控訴人病院が,上記の認定判断のようにバンコマイシンの投与を行っていれば,被控訴人Aの心停止を回避することができたかどうかについて検討する。
 この点について,上記(第2の3(2))のとおり,コは,当審において被控訴人AはTSSを発症しており,TSSが発症した場合には,発症後にMRSAを殺菌してもショック症状を回避することはできないから,上記認定判断の時期にバンコマイシンを投与しても,ショック症状の発生は避けられず,また,仮にTSSを発症していなかったとしても,バンコマイシンは,他の抗菌薬と異なり,その殺菌力は生体内において遷延性を示すから,上記認定判断の時期にバンコマイシンを投与し始めても,ショック症状の発症を避けることはできなかった旨改めて主張するので,これらの点についても検討する。
(1) まず,被控訴人Aが,平成8年7月15日午後7時ころ,TSSを発症していたかどうかについて検討する。
ア 上記認定の前提となる事実に後記各掲示の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次のような事実を認めることができる。
(ア) TSS(トキシック・ショック・シンドローム)は,突然に高熱,嘔吐,下痢,精神錯乱,発疹などをきたし,短時間にショック,全身臓器不全へと進展する重篤な症候群であり,手術や出産後の創部感染,乳腺炎,熱傷,呼吸器系感染等における黄色ブドウ球菌の感染によるものとされ,黄色ブドウ球菌の増殖に伴って産生されることがあるTSST−1やエンテロトキシン等の毒素が,全身反応を引き起こし,短時間にショック症状を呈し,重症例では多臓器不全のために死に至ることがあるというものである。
 このように,TSSは,細菌が産生した毒素が全身に作用することによって,症状を引き起こすものであることから,一旦TSSが発症してしまうと,抗菌を抗生剤等で死滅させたとしても,すでに産生された毒素の作用は止まらないので,TSSの進行を止めることは難しいとされる。治療法としては,やはり原因菌を特定してこれに対する抗生剤等を投与すること,及び輸液その他の措置により全身状態を適切に管理することが挙げられている。
(イ) CDC(アメリカ疫学調査センター)が示す,TSSの診断基準は,①体温が38.9度以上,②収縮気圧が90mmHg以下の低血圧,③びまん性の斑状紅皮症の発疹,④発症から1~2週間でみられる落屑(手掌,足蹠に顕著),⑤発症時における嘔吐又は下痢のような消化管障害,激しい筋痛等の筋障害,GOT,GPT値が正常値の2倍以上等の肝機能障害,血清クレアチニン値が正常値の2倍以上等の腎障害,意識障害があるなどの中枢神経系障害,粘膜障害,血液障害という臓器系の障害が3つ以上の多臓器障害,⑥血液,咽頭,脳脊髄液の培養検査等の検査結果が陰性であることの6項目を全て満足することとされ,この診断基準がTSSかどうかを判定するための一般的な診断基準として多数の文献に紹介されている(甲116の4,乙30,鑑定人野田洋一の鑑定結果添付の参考資料4,6,7,10~12)。
(ウ) ショック症状発症前後の被控訴人Aの状況については,①体温は平成8年7月15日の時点で,午前11時に39度,午後7時に39.1度となっており,②血圧は,収縮期血圧でみて,同月14日は112から94で推移し,翌15日は午前6時が112,午前9時が120であり,翌16日は午前7時に1度86となるが同7時30分には110となり,以降同9時に100,午後1時5分に96,同6時30分に126となり,ショック症状が発症する17日の午前7時に80となっている。③発疹については,同月14日の午前7時に顔面,上肢,胸部に発赤疹が,午後10時ころに全胸部,大腿,上腕に小発疹(被控訴人Aは,この発疹は手術の前の日くらいから出ていたと説明していた。)が,翌15日の午後1時に上肢,下肢に小発赤疹,腹部,背部,顔面に発赤,頚部に小膿痂疹が,翌16日の午前7時に全身に発疹が見られたほか,同日,F担当医から皮膚科の医師に対し,被控訴人Aの全身の発疹(集族性,小丘疹)について往診依頼がされ,皮膚科医師は,診断の結果,薬疹に加え細菌の反応が疑われるとして,外用薬を処方していた。④落屑については,同月20日からの数日間において,手指乾燥で落屑が著明であったり,手指,頚部,前胸部乾燥で落屑があったり,全身に落屑があるなどしていた。⑤消化管関係では,同月16日午後2時に咳をした際に軟便少量を漏らしたことがあるのみで,嘔吐及び下痢は見られず,筋関係に障害があったことは窺われず,肝関係では,同月15日に軽度の機能低下はあるものの,GOTはショック症状発生の3日後である同月20日から22日にかけて控訴人病院の基準値の2倍以上になったが,同月15日から17日まではGOT,GPTともにほぼ基準値の範囲内であり,腎関係は,血清クレアチニン値は同じく15日から17日は控訴人病院の基準値上限前後で若干高めではあるが,ほぼ基準値の範囲内で終始しており,中枢神経関係では,同月17日のショック症状発症時には意識レベルの低下が生じているが,それまでの間に障害は窺えず,粘膜関係では同じく17日に口腔内易出血があるが,それ以外に粘膜障害は窺えず,血液関係は,それまで基準値の範囲内で推移していた血小板数が,同月16日の午後8時30分に73000に低下したものである。(乙1~3)
イ このような事実関係を踏まえて,被控訴人AがTSSを発症したかどうかにつき,一般に認知されているCDCの診断基準(上記ア(イ))に当てはめて検討すると,まず,血圧については,ショックそのものの発症時までは,30分後に回復した1度の低下を除いて診断基準値を超えており,ショック発生時までは診断基準を満たしているとはいえないこと,発疹については,被控訴人Aに見られる発疹は,皮膚科の医師が薬疹に加え細菌の反応が疑われるとして外用薬を処方しており,その性状が診断基準にいうびまんせいの斑状紅皮症の発疹であったといえるのかには疑問があり,また,発疹は,被控訴人Aの全身状況がCDC診断基準に全く当たらない時期である帝王切開手術の前から出ているという疑問もあること,そして,嘔吐又は下痢といえるものは起こっておらず,消化管系の障害は認められず,筋障害,粘膜障害も認められず,肝機能障害はあったものの,同月17日までは比較的経度であり,腎機能も軽度の障害に過ぎず,中枢神経系は同17日のショック症状発生時までは障害は認められず,血液関係は,同月16日の午後8時30分以降には障害が発生したものの,それまでは障害は認められないという臓器系の状況であったことに照らせば,被控訴人Aは,7月15日午後7時ころの段階では,TSSは発症していなかったものということができる(乙19,鑑定人野田洋一の鑑定結果)。
 また,発疹の性状等について疑問はあるものの,同月17日のショック症状が発症した時点においては,被控訴人AにTSSが発症していたという可能性はないとはいえないが,控訴人病院が,上記の認定判断のように15日午後7時ころの段階でバンコマイシンの投与を行っていれば,その時点ではまだTSSは発症していなかったのであるから,同月17日のTSSの発症を回避することができたというべきである(なお,バンコマイシンの遷延性との関係で結果を回避できたか否かについては次の(2)において判断する。)。
 なお,以上の認定判断と異なり,被控訴人AにTSSが発症していたとする見解もあるが(鑑定人砂川の鑑定意見,証人砂川),前提としている事実関係に上記事実認定と必ずしも一致しない部分があり,またTSSが発症した時点を必ずしも明確にしていないものであるから,この見解を根拠にして15日午後7時ころの段階でTSSの発症があったと認めることはできない。また,近時CDCの診断基準を満たさないTSSの発症例が認められており,本件もTSSと認定する余地があるとする見解もあるが(乙32),この見解は,CDCの診断基準より緩やかな基準を採用することで軽症例をTSSに含めていくことになり,この見解にいうTSSの治療の難易度如何は,上記のCDC診断基準を満たすTSSのそれと同じと考えているものか,必ずしも判然とせず,本件の判断において,この見解を採用することはできない。

(2) 次に,バンコマイシンは,対MRSA殺菌力に遷延性を示すと主張されるところ,平成8年7月15日午後7時ころに投与し始めて,同月17日のショック症状の発症を避けることができたかどうかについて検討する。
ア 上記認定の前提となる事実に後記各掲示の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次のような事実を認めることができる。
(ア) バンコマイシンは,MRSAに優れた抗菌力を示す抗生剤であり,海外においては,MRSA敗血症について有効率90%という報告,重症のMRSA感染症について有効率89%,敗血症合併症例について治癒率80%という報告,MRSA敗血症に対して単独又は他剤と併用して治癒率67~75%という報告があり,わが国においても,重症ないし中等症の93症例について調査し平均有効率89.2%という報告があるなど,バンコマイシンの臨床的効果は広く認められており,MRSA感染症に対する第1選択薬となっている(甲92,94,乙35)。
 バンコマイシンの用法・用量については,1日2gとされ,1回0.5gを6時間毎又は1回1gを12時間毎に分割し,60分以上かけて点滴静注することとされている。これは,バンコマイシンは原因菌との接触時間に依存して殺菌力を発揮するとされ,高濃度でも短時間の殺菌力は弱く,MIC(薬剤の最近に対する最小発育阻止濃度)を超える濃度を保つ時間が長いほど治療効果が高いことから,分割して投与するのが相当とされているものである。なお,確実な成果を得,安全性を確保するためには血中濃度をモニタリングすることが望ましいとされる(甲92,93,108,116の3,117,乙35)。
(イ) このように時間依存性のあるバンコマイシンの殺菌効果はどれくらいの期間で得られるのかについては,生体内を模した試験管内における実験では48時間でMRSAを殺菌しうるとされるが(乙39),臨床的に効果が得られる期間については,効果が認められるまでには2~4日を要するとの見解もあり(乙19,22),2~4日を要することが多いとされるとするもの(乙23),臨床的に解熱などの効果が認められるまでには数日を要することが多いので,2~3日間の投与で無効と判定し,中止したり増量したりすることは奨められないと指摘するものもある(乙35)。
 具体的臨床例としては,①心臓疾患の手術を受けた患者が,術後に白血球数18000,CRP値16.1となり,MRSA感染症を疑って,バンコマイシンを上記用量の半分に当たる0.5g×2回/1日として投与し始め,3日間投与した後,4日目からは上記用量どおり1g×2回/1日を続けたという事例では,白血球数はバンコマイシン投与開始から2日後の3日目に下がり始め4日目には1万を下回り,CRP値は投与開始から3日間は上がり続けて4日目から下がり始め5日目には1桁台前半の値となっていたもの(乙38),②帝王切開手術を受けた患者が,術後に39.9度まで発熱があり,イミペネム/シラスタチン(チェナム)等の抗生剤を投与したにもかかわらず,白血球数多く,CRP値17~13で推移していたところ,MRSAが検出されたのでバンコマイシンの投与を始めたという事例で,この事例ではTSSが発症されていたとされるが,バンコマイシン投与開始から2日目には体温が37度台に下がり,CRP値も4弱まで下がり,投与から8日目にはCRP値が0.28まで戻ったというもの(乙31),③正常分娩のあとに感染症の診断を受けてアミカシンという抗生剤の投与で一旦回復した患者が,再び発熱し,再入院してセフォチアムという抗生剤を投与したにもかかわらず,体温は39度台から38度台に下がったものの,白血球数多く,CRP値19.8と上昇していたところ,MRSAが検出されたのでバンコマイシンの投与を始めたという事例で,この事例ではCDCの診断基準より緩やかな基準でTSSの可能性があるとされるが,バンコマイシン投与開始以降,体温は翌日37度台に,2日目36度台に順調に下がり続け,CRPは翌日若干上昇したが,2日目9程度まで下がり,6日目には0.71まで戻ったというもの(乙31),④長期間皮膚感染症を患っている患者が敗血症を起こし,栄養素を静脈注入するためのカテーテル挿入部及び血液からMRSAを検出され,イセパマイシンという抗生剤を5日間投与したが効果がなかったので,バンコマイシンの投与を始めたという事例で,1日目は上記用量の半分に当たる0.5g×2/1日,2日目以降は上記用量の4分の1に当たる0.5g×1/1日の投与を続けたところ,バンコマイシン投与開始の翌日に40度から36度台へと著明な解熱があり,6日目に血液中からMRSAが検出されなくなったというもの(甲107の参考文献5)等がある
 このようにバンコマイシンによる効果の発現の仕方は様々であるが,これは,投与時の患者の全身状態がどのようなものであるか,MRSAの菌量が多いか少ないか,菌の巣くっている場所がバンコマイシンの効きやすい場所かどうか,腎機能に影響を及ぼすことがある等の副作用を考慮して全身状態次第で用法・用量を上記所定の標準的な用法・用量より減じなければならないなどの理由により,用法・用量が所定の標準より減らされているかどうか,その他の様々な条件が異なっていることによるものと考えられるところ,上記の各事例を総合的にみれば,バンコマイシンは投与から2~4日を置いて3~5日目に急に効果が発揮されるというものではなく,MICを超える濃度の時間に依存して徐々に効果を上げているのであって,当該事案の様々な条件次第で,1日目,2日目においても臨床的に体温の低下や感染徴候の軽減という一定の効果を発揮し得るものであるということができる。
(ウ) ところで,控訴人病院が被控訴人Aにバンコマイシンの投与を開始すべき7月15日午後7時ころの被控訴人Aの状態は,上記認定の通り,白血球数,CRP値が上昇し感染症の徴候が明らかとなり,脈拍も120回となり,午前中に一旦39度となってから下がっていた体温が午後7時に39.1度となったものであって,ちょうどこの時点で初めて,感染を原因とするSIRS(セプシス=敗血症)に該当する状態になったといえるものではあるが,被控訴人Aは,昼間は普通に話をして行動でき,夕方も公衆電話から電話がかけられたのであり,その後,熱と苦痛を訴え始めたところであって,午後7時以降に確認して肺が多少よごれていたり呼吸機能の低下は見られるものの,肝機能及び腎機能については軽度の低下しかない状態(同日のGOTは45(控訴人病院の基準値8~40),GPTは28(控訴人病院の基準値2~38),血清クレアチニンは1.3(控訴人病院の基準値0.7~1.4)であった。)であった。
 被控訴人Aは,その後,翌16日午後6時30分にARDSの状況に陥り,同日午後8時30分にDICの状況となり,翌17日午前7時ないし10時ころにショック症状を呈するに至ったもので,このDICからショック症状までの間にMOFに陥っていたものであるが,さらに翌18日午前3時15分ころ,心停止となり,これが原因で低酸素脳症に陥った。
 控訴人病院が被控訴人Aにバンコマイシンの投与を開始したのは,これら一連の状況が経過した後の同月18日午前9時30分であり,すでに被控訴人Aの全身状態は非常に衰弱した状況となっており,用法・用量は1g×1回/1日と上記所定の半分であった。その後同月22日から1g×2回/1日に増やしたが,なかなかMRSAは消滅せず,完全な消滅には8月23日ころまでかかった(乙1~3)
イ 以上のような事実関係によれば,本件においては,平成8年7月15日午後7時ころというのは,被控訴人Aがまさに初めてSIRSに陥った時期であり,全身状態はまだそれほど悪化しておらず,肝機能や腎機能といった臓器系の機能もまだ控訴人病院の基準値から外れないか,それほど外れない程度の軽度の低下にとどまる状況であり,バンコマイシンの処方も上記所定の成人の標準的な用法・用量で投与することができるから,投与開始以降,時間の経過に沿って,MRSAの殺菌あるいは増殖を抑える効果を徐々に発揮することができたといえるのであり,1日目,2日目においても解熱や白血球数,CRP値の低下は優に期待することができたものと考えられ,そうすると,約23時間30分後のARDS,約25時間30分後のDIC,約36~39時間後のショック症状発生を回避し,約56時間15分後の心停止を回避することができた蓋然性は高いものということができ,この推認を覆すに足りる証拠はない。
 本件においては,同月18日以降にバンコマイシンが投与されたものの,なかなかMRSA消滅の効果を上げることができなかったが,このことを理由に,同月15日にバンコマイシンを投与していたとしても,被控訴人Aの感染した当該MRSAに対して効果を上げることはできなかったということはできない。すなわち,同月18日には同月15日午後7時ころの段階に比べて被控訴人Aの全身状態は極めて悪くなっていたこと,15日から18日の間にMRSAの菌量も増加していたであろうこと,本件では18日に上記所定の成人の標準的な用法・用量でバンコマイシンを処方できなかったこと等18日と15日では全く状況が異なっていたからである。

5 争点4(院内感染予防義務違反による不法行為の成否)について
 上記3,4のとおり,控訴人病院には,被控訴人Aに対し,7月15日午後7時ころ,抗MRSA抗生剤であるバンコマイシンの投与を開始すべき義務があったにもかかわらずそれを怠った過失があり,その結果,被控訴人Aに心停止という結果が生じたと認められるから,争点4について判断するまでもなく,控訴人病院を経営する控訴人は不法行為に基づく責任を負うものといわなければならない。

東京高等裁判所第22民事部
裁判官 垣内正
裁判長裁判官石川善則は退官につき,裁判官德増誠一は転補につき,それぞれ署名押印することができない。
裁判官 垣内正


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