南北海道修羅場(その2) (1982年の思い出話)

2000年2月12日

以下の話は,私のHP(ここ)のTwilight Zone(過去の思いだし話)のコーナーに必ず書き残そうと思っていた話である。私の人生の中でも,最も印象に残っている話のうちの一つである。

渡島当別駅から長い冬の終わりの雪の中を歩き,ポプラ並木の先にトラピスト修道院が見えてきた。見学に訪れていたのは,私のほかに大学生とおぼしき男性3人女性1人のグループ。ところが受付の修道士さん曰く「見学したい人は予約するんですよ」とのこと。そこを中学生の若さに一人旅ということで,お目こぼしで大学生グループと一緒に見学させてもらうことができた。トラピスト修道院は男性修道院であり女性は入院禁止のため,女性一人は外で待つこととなった。

見学が一通り終わると,大学生3人は女性を気遣い早々と外に出た。そこに通りがかった老修道士が「時間があればゆっくりしていきなさい」と私に一言。時間があった私はその老修道士の言葉に甘えることに。「私の部屋に来なさい」との誘いに「キリスト教の話でも聞かされるかな?」と思いつつ,興味半分でついていくことにした。

部屋までの道中老修道士は,雪に足をとられぬよう注意して歩く私の手をとった。中学生と老修道士。手をつなぐことがなんだか不思議な気もしたが,これが修道士というものかと思い私も手を握ったところ,老修道士は力いっぱい手を握ってきた。どうしていいのかわからないまましばし歩くと,老修道士の部屋に着いた。

部屋に入ると老修道士は,今にも顔から湯気が出そうな勢いで興奮して気色ばっていた。「おお,私の可愛い可愛い子供よ!」と言いながら老修道士は私を力いっぱい抱きしめてきた。もうどうしていいかわからない私は,ただただ何事もなく終わってくれと祈るばかりであった。しかるに老修道士は,今にも私の唇を奪わんばかりの勢いで顔を近づけてきて,私に頬ずりをする。私は力いっぱい避けることもままならず,既に脱力している腕の力を振りしぼってやっとのことで抵抗するのが精一杯だった。

凍る時間。私のなけなしの抵抗が通じたのか,私の唇は奪われることなく抱擁は解かれた。しかしその事件は,中学生の少年の心の奥深くに何をか残すのには充分すぎるほど強烈であった。

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