カテゴリー「医療訴訟」の記事

注目すべき福島県立病院の和解協議

2009年1月21日

毎日新聞地方版
http://mainichi.jp/area/fukushima/news/20090121ddlk07040247000c.html
の記事です。

県立医大病院医療過誤訴訟:双方とも和解に前向きな意向--控訴審 /福島
 県立医大付属病院で出産した次女が重度脳性まひになり、4年9カ月後に死亡したのは医療ミスが原因として、福島市の両親が同大を相手取り、約1億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、初の和解協議が20日、仙台高裁(大橋弘裁判長)で開かれた。再発防止策などを条件に、双方とも和解に前向きな意向を示した。
 1審の福島地裁判決は、医大側の過失を認め約7340万円の支払いを命じた。医大側が控訴し、高裁は昨年12月25日の口頭弁論で、和解を勧告していた。
 原告の幕田智広さん(42)によると、原告側は和解条件として慰謝料のほか、医療事故の再発防止策の策定を求めたという。幕田さんは協議後、「互いに方向性に食い違いはない。次回は良い結果が出ることを期待している」と語った。医大は取材に対し「和解に向けて進んでいる。次回の協議に備え、内部で検討している」と話した。
 次回協議は2月13日の予定。【神保圭作】
毎日新聞 2009年1月21日 地方版

1審では高額な賠償金をもって原告側が勝訴しましたが,そもそも原告側が勝訴した一審判決がトンデモ判決なのであって,標準的な法的判断をできる普通の裁判官であれば原告敗訴が出て当然の裁判であったと考えます。一審の鑑定(原告側でも被告側でもない,裁判所が依頼した鑑定)を読んでみても,どうしてこれで原告勝訴の判決を書く気になったのかが不思議でなりません。
http://www.orcaland.gr.jp/kaleido/iryosaiban/H14wa114_kanteisho.html
「和解」の中には「ゼロ和解」と言って病院側からの和解金を支払わないような和解もあるので,今回の事件も和解内容を確認しないままには病院側の対応を批判することはできませんが,和解で終わった場合にはその和解内容を確認するべきだと思われました。
http://www.orcaland.gr.jp/kaleido/iryosaiban/H14wa114.html

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亀田テオフィリン中毒事件,上告棄却,病院側敗訴確定

2008年11月25日

福島大野事件,割りばし事件などの陰になってほとんど話題にならないですが,重要な決定だと思います。

処置ミス、7300万円支払い確定 千葉の亀田総合病院
2008.11.21 18:31 – MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/081121/trl0811211832011-n1.htm
千葉県鴨川市の亀田総合病院でぜんそく治療を受けていた高校2年の男子生徒=当時(17)=が出血性ショックで死亡したのは処置のミスが原因として、両親が約8800万円 の損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(中川了滋裁判長)は21日、病院側の上告を退ける決定をした。病院側に約7300万円の支払いを命じた2審・東京高 裁判決が確定した。
2審判決などによると、男子生徒は平成13年1月1日未明、吐き気などを訴え受診。ぜんそく治療で病院から処方されていたテオフィリンの血中濃度が高いことが判明。処置の 過程で医師が脚の付け根にカテーテルを挿入した際、血管を傷つけたため、大量に出血、同日夜、死亡した。

千葉地裁の一審で出された鑑定意見に振り回されました。
最高裁第二小法廷で半年ほど前に,精神鑑定に関して,「専門家の鑑定意見は十分に尊重すべし」との判決を出しています。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=36327&hanreiKbn=01
上記はごもっともな判例だとは思いますが,医療訴訟における鑑定は,医療行為を行った専門家に対する専門家の意見であって,それらが対立する場合に鑑定の意見ばかりを尊重することには,私は疑問を持ちます。 上記判決に対して,某所で以下のような意見を書いたことがあります。

専門家の意見を尊重すべしという判断自体は至極当たり前の判断で、そもそも最高裁にこんな判示をさせるような高裁判決がどうかしているとは思います。
精神鑑定と通常の医療裁判の鑑定とを同一に扱っていいのかどうかということについては疑問があります。一般裁判の精神鑑定と、通常の医療裁判において鑑定の立ち位置の違い がちょっとあって、一般裁判における精神鑑定はそれ自体が第一回目の専門家による判断であるのに対して、通常の医療裁判における第三者鑑定は、専門家(=被告側医師)によ る第一回目の判断(=問題になっている医療行為)について、さらに重ねて専門家(=鑑定医)が判断するもの、つまり第二回目の専門家による判断なわけですね。ここで第一回 目の判断(被告側医師の判断)と第二回目の判断(鑑定)が異なる場合に、第二回目の判断を「鑑定だから」といって偏重するような判断の仕方は、正しい姿勢ではないのではな いかという疑問があります。

それ以前の問題として,意外なことですが,最高裁への上告においては事実関係はもう争えないことになっているので,地裁・高裁の判決文を見て激しく法律違反をしている部分などがなければ,そのまま上告棄却とされてしまうことが大部分です。この亀田事件でも専門家の鑑定意見を反映しており,さらに一通りの審議を遂行してある限り,上告棄却自体は”司法的には”やむを得ないともいえます。
この裁判の一審で提出された鑑定は,千葉地裁ご自慢の「複数鑑定」として、順天堂大学浦安病院の放射線科 住 幸治教授、腎臓内科 林野久紀助教授、血液内科 野口正章助教授が、文書にて回答したものです。この鑑定自体が疑問なことは間違いないと思うのですが,所詮は”後だし意見”である鑑定に大きな信頼を置くような司法のあり方自体のほうがよっぽど問題です。
この事件の詳細については,以下のページをご覧ください。
http://www.orcaland.gr.jp/kaleido/iryosaiban/H15wa202.html

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裁判の相手方の情報公開は

2008年10月21日

医療過誤原告の会のブログに,原告側からの裁判傍聴の依頼が掲示されています。
そこに,訴えた相手側の病院名もそのまま書いてあります。
私はしばしば医療訴訟を傍聴・記録閲覧して感想などを書いていますが,当事者の個人情報には相当慎重にしているのですが,相手方が法人であれば,相手方の情報をそのまま出してしまっても良いものなのでしょうかね?
実際のところ裁判は公開物なので,もしかしたら個人名ですら公開しても構わないものなのかも知れませんが…
どうなんでしょうね?

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亀田テオフィリン中毒事件その後

2008年10月18日

注:今日から,相当ディープな話題でも書くだけ書いておこうかと思います。
 つい先日,最高裁に電話して,亀田テオフィリン中毒事件の進行状況を確認しました。
 今のところ上告(ないし上告受理申立て,以下同様)棄却にはなっていないとのことです。これで上告から約10ヶ月経過しました。
 上告棄却の場合は2ヶ月くらいで決定されることが多いようですし,また上告受理されるには,上告から半年以上棄却をされないことが第一関門だということなので,亀田テオフィリン事件は既にこれをクリアーしていることになります。
 もし上告が受理されるとしたら,最高裁はどの点をポイントとしてくるのか,興味津々です。例えば,控訴審で病院側が持ち出した「死因はテオフィリン中毒」という主張について,控訴審判決では全く審理されていない点か,はたまた鑑定意見の取り扱いに関するようなもっと広い射程を持った根本的な点か…
これだけ待たされて,結局は上告棄却だったらさすがにがっかりです。
亀田テオフィリン中毒事件の症例検討会の様子はこちらをご参照ください。
http://lohasmedical.jp/blog/2008/02/post_1088.php
判決文についてはこちらをご参照ください。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20071225

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医療ミス・司法ミス

2008年5月21日

備忘録的に書いておきます。北海道新聞より
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/society/93337.html

誤って執行猶予判決 地裁北見支部、適用外の罰金額(05/17 15:41)
 【北見】釧路地裁北見支部が言い渡した刑事裁判の有罪判決で、刑法では適用できないケースなのに執行猶予を付けていたことが、十七日までに分かった。同地裁は誤りを認め、「あってはならないミス。おわびし、再発防止に努める」としている。
 同支部の植田智彦裁判官は十五日の判決公判で、出資法違反などに問われた被告三人に実刑を含む有罪判決を下した。このうち一人に「懲役二年、罰金百五十万円、執行猶予五年」を言い渡した。
 しかし、刑法は執行猶予を付けられる場合を「三年以下の懲役もしくは禁固または五十万円以下の罰金」と規定。今回の額の罰金にも執行猶予を付けたのは、規定外だった。
 同地裁によると、判決後に地裁内で判決内容を精査した結果、誤りが分かった。判決は言い渡し時点で効力が生じるため、変更には控訴が必要。同地裁は十六日に釧路地検と弁護人に事情説明しており、「今後の対応を待ちたい」としている。

医療で同レベルのミス(例:投薬量間違い)をしたら、患者さんが一人亡くなってもおかしくないでしょう。その場合医師は、刑罰、賠償責任、行政処分(医師免許停止)などをすべて喰らう可能性があります。
この判決ミスをした裁判官の処分・責任はどうでしょう。個人にかかる責任は全くないでしょう。この落差はなんなんでしょうね。
腑に落ちないものを感じます。いや、この裁判官を罰せよというのではなく、医師への過剰な責任追及について。

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