「僕は韓国人じゃない!」 (2002年頃の思い出話)

2007年11月23日

70歳くらいのおばあさん患者さん。思い込みが強く話が噛み合わない人だった。
病状は可哀想なものだった。何ヶ所かで眼の手術を受けたが結果が思わしくなく、このたび私のいる病院に受診したのである。ところが手術を受けた他の病院の紹介状などの情報は全くなし。
「だから、手術を受けた病院で、紹介状を書いてもらったほうがいいです」
「おかしなことを言う先生だー、あんなところにどうして行くの?」
「そのほうが、これまでの治療や今の眼の状態がわかって、これからの治療にいいんですよ」
「その必要はないですよ、私はここに来たのだからここで見てください」
「いや、だからここで診るにしても紹介状がないとこれまでにどんな治療をしたか分からないので…」
「それが分かる必要がどこにありますか? 今見れば分かりますよ!」
こんなやり取りが延々と繰り返された。どうにも面倒になってきた頃、その患者さんの日本語の発音が少しおかしいことに気づき、カマをかけてみた。
「…혹시 한국분이 아니십니까?」 (…もしかして韓国の方ではないですか?)
これを聞いたおばあさん、口あんぐり。そして開口一番
「아니, 당신도 한국사람이노?」 (なんと、あんたも韓国人か?)
「아뇨, 저는 일본사람인데 한국말을 조금 배운겁니다.」 (いえ、私は日本人ですが、韓国語を少し習ったので。)
「아냐, 당신 한국사람이다. 이런데서 한국사람을 만난다니…」 (いや、あんたは韓国人だ。こんなところで韓国人に会うとは…)
「いやいや、私は日本人で…」
「아이 됐어. 말하지 말아~ 한국말 배우는 일본사람이 없어!」 (もういいって。皆まで言うな、韓国語を勉強する日本人なんていないよ!)
すっかり在日韓国人と信じて疑わないのである。
しかしいつまでもバカな会話をしているわけにもいかず、「とにかく…」と、また紹介状の話に戻ったのであるが、そこからまた延々と「紹介状を書いてもらうべし」「いやその必要はない」の押し問答である。
で、その再度の押し問答がひとしきり交わしたのちに、また言うのである。
「ほんとにおかしなことを言う人だ… まあ 한국사람을 만나니까 반갑기는 하는데…」
(まあ韓国人に会ったんだからめでたいといえばめでたいが…)
「いやいやだから僕は韓国人じゃなくて…」
「말하지 말어~ 당신 한국사람이야!」 (言わんでよい、あんたは韓国人だ)
ということで、会話は全くかみ合わないまま時間が過ぎ、無理矢理診察を終了させたのであった。

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