He married with her.(×)はなぜ間違いなのか?


例文3 He married her.

例文4 He reached Tokyo. (彼は東京に着いた)

例文5 Somebody robbed him of his bag. (誰かが彼のバックを奪った)

例文5’Somebody robbed his bag. (▽,すなわち×に近い△) [後で解説]

例文5”Somebody robbed his house. [後で解説]

 これらの例文は、いずれも 「何々を」に当たる語(直接目的語)が「何々を」と訳せない厄介な文と思われている。しかしこれらの文は日本語ではなく英語であり、英語で考えている人にとっては例文3の"her"も例文4の"Tokyo"も例文5の"him"も全て同じく「 何々を」なのだから、根本的には同じ感覚で捉えているはずである。ここではこれらを理解しやすくするために,まず日本語と韓国語とでの例を挙げ,それを英語につなげて解説する。

 皆さんは韓国語について何か知っているだろうか? 実は韓国語は日本人にとって大変簡単な 外国語である。というのは、韓国語の文法が日本語の文法と瓜二つだからである。語順も同じ、テニヲハも同じ、おまけに漢字熟語もほとんど同じなのである。とはいえ外国語であることには変わりはないのだから,所々に微妙な違いがある。例えば、日本語なら「タクシー乗る」と言うところを、韓国語の言い方では「タクシー乗る」と言うのである。これ、変だと思わないかい? 『どうやってタクシー乗るんだ?』という気にもなるだろう。しかし我々がそう思う一方で韓国人の耳にも,日本語の「タクシー乗る」という言い方がすごく気持ち悪く聞こえているのである。もし君が韓国人に、『「タクシー乗る」というのは「タクシー乗る」のことですね、この場合の「何々」は、実は「何々」の意味ですね』と聞かれたらどう思うだろうか? 『そりゃ韓国語に訳せばそうかもしれない、だけど日本語を喋る日本人は「タクシー乗る」なんて感覚は全然ないんだから、日本語を喋るときはいちいちそんな言い換えを考えてないで「タクシー乗る」をそのまま受け入れなきゃ速く喋れないんじゃない?』と言いたくもなるだろう。我々が「何々」と言ったら、それは「何々」でも「何々」でもない「何々」であって、勝手に「を」とか「で」なんかで置き換えられたら感覚が狂ってしまうというものだ。

 英語だって同じなのである。 「何々を」に当る直接目的語を、我々はどうも自分達の言葉の勝手な都合で「何々と」とか「何々に」とか「何々から」にしてしまっているのではないのだろうか。

 英語で考えている人達は一体何を考えているのだろう。直接目的語に共通する感覚は一体何であろう?やはり日本語の「何々を」に近いのではなかろうか?

1−2−1 He married her.

 「はじめに」の章にも登場したこの例文の正しい捉え方は、それ程難しいものではない。"marry"という単語は、もちろん結婚するという事実を表してはいるのだが、"He"の"her"に対する態度という点では,実は「結婚する」というよりは「受け入れる」に近い感じなのである。実際,語源(言葉の本来の意味)を調べると「夫にする」となっている。不思議な感じがするかな? でも日本語でも「結婚する」の代わりに他の言葉を使うことだってある。例えば次の会話では「もらう」が「結婚する」という内容を表している。

「おい、となり町の留さんが所帯持ったんだって?」
「おう、そうらしいぜ」
「で、どこの娘もらったんだい?」
「なんでも川向こうに住んでいた由紀ちゃんもらったっていう噂だぜ」

もちろん「もらう」という単語の表面上の意味はあくまで「もらう」であって、結婚するという意味ではないのだが、留さんと由紀ちゃんが結婚したのだという内容は明らかである。ところがこれをもし「由紀ちゃんもらったっていう噂だぜ」などど言ったらおかしい。「もらう」という単語は「何々もらう」と使うのが自然だからである。

 例文3も同じことである。 "marry"という単語を,本来の表面上の意味である「受け入れる(結婚相手として)」として捉えていれば、

という構造の中に"with"が入る余地などあるはずが無い。それだけのことである。

1−2−2 He reached Tokyo.

 "He reached Tokyo."(彼は東京に着いた)この文では「着いた」であるからどう転んでも「何々を」にはならないようにみえる。どう考えたらよいだろうか。まずは図にしてみよう。

 どうやら英語ではこの場合,"Tokyo"を"reach"する相手、つまり到着する相手と見ているのではないかとわかる。日本語でも言い方によって先程の"marry"と同じ様にある程度の説明は付く。例えば「山頂に着いた」という内容を,「制する」という単語を使って言い換えると、「山頂制した」となり、決して「山頂制した」とは言わない。"reach"は「制する」ほどおおげさではないけれども、"Tokyo"を,"reach"という動作の相手と見ているという点ではよく似ているのである。"reach"=「到着」という内容だけで考えていてはこうはいかない。英単語,特に動詞を覚えるときは、その単語の使われている英語の文の構造に着目して、それに見合った表面的な意味をイメージする努力も必要なのである。

 そうは言ってもそのイメージ作りが難しいかもしれない。そんな場合は,まず,「Tokyoをreachする」と頭の中で繰り返してみるとよい。そしてその言い方になれたら,

He reached Tokyo.

の "reached" と "Tokyo" の間に前置詞をいれる気は起こらないであろう。

 (なお,余談であるが,「英語では『場所』も『物』のうち」であることも,この使い方からわかると言うものだ。)

1−2−3 Somebody robbed him of his bag.

 さて、悪名高き"rob"の登場である。"rob"はひっきりなしに登場する入試重要語で、辞書や参考書などを見れば、その意味は「奪う」と書いてある。なのに日本語訳にしたときの「何々を」に当たるものが, 「何々を」に来ないので日本人は戸惑うのである。ということは入試に出せばバンバン引っ掛かるということなのだが、入試問題作成者を含め、一体どれほどの人がこの単語の表面上の意味を把握しているのかは疑問である。それはいろいろな参考書に"Somebody robbed his bag.(▽)"が文法的に誤りであるとされているのを見るとわかる。まず言っておくが、この文に文法的な誤りなど一つもないのである。もっともこの文を見て多くの日本人が考えるであろう「誰かが彼のバッグを奪った」といった内容は全く表さない。言い回しが変なので訳しにくいが、「誰かが彼のバッグの中身を奪った」というような意味になる。

 なぜそうなるのか?

 それは"rob"の表面上の意味が、「奪う」よりは「襲う」「身ぐるみはぐ」「カモにしていろいろぶんどる」に近いものだからである。実際語源を見ると「衣類をはぐ」などとなっている。だから"Somebody robbed his bag."と言ったら、誰かが彼のバッグをまさぐって、中身を盗んでいくようなイメージが浮かぶのが正しい。図にしてみよう。

 動詞の直後に書いてある"his bag"は,ちゃんとここでも"robbed"の相手となっている。

 "Somebody robbed his house."なんていうのもある。「誰かが彼の家をまさぐって、中身を盗んでいった」というイメージなのだが内容がわかるかな? 実はこれ、「彼の家に泥棒が入った」という内容なのである。しかし日本語に訳してしまうとどうしても本来の表面上の意味がつぶれてしまう。それならばこういったものは、訳す前にまず,表面上の意味にしたがい本来のイメージ(誰かが彼の家をまさぐった)を浮かべるように練習すべきである。それを心掛けることによって、表面上の意味のずれた日本語の訳(彼の家に泥棒が入った)を考える前に、元々何を言っているのか自然な感覚でわかるようになり、それにつれて読解の速さもぐんぐん上がっていくのである。

 さてそれではメインの例文である"Somebody robbed him of his bag."に行こう。これはまず"Somebody robbed him"までを読めば、表面上の意味は「誰かが彼を襲った」「誰かが彼を丸裸にした」ということである。そしてここまでで橋渡し構造は完成している。ただ、その後に"of his bag"とあって、彼が何から分離されたかが示されている。そこで"of his bag"まで考えてこの文全体の内容を考えると「誰かが彼から彼のバッグを奪った」ということになるわけである。しかし、この文の 中心はあくまでも"Somebody robbed him"であり、後半の"of his bag"は補助情報である。ゆえに中心部分だけの"Somebody robbed him."という文もある。(ぴったりの日本語が無いので訳しづらいが、表面上の意味は「誰かが彼を身ぐるみ剥いだ」といったところである。)

1−2−4 まとめ

 「はじめに」の章で書いた先生達による直接目的語の説明を再批判してこの章を終わることにする。

 私の友人で、以前某予備校で英語のチューターをしていた友人に聞いたところ、その友人も「はじめに」で書いたものと同様の説明をしていたそうである。そこで、その説明は実は何も言っていない単なる詭弁だということを知っているかと尋ねると、「それは分かっている。でも生徒を煙に巻くには一番手っ取り早いからな」ということであった。確信犯なのである。

 私が思うに、「動詞には自動詞と他動詞があり、自動詞は目的語を取らず、他動詞は目的語を取る」…(1)という説明は、ヨーロッパ人用の説明をそのまま使っているものではないかと思う。多くのヨーロッパの言葉には英語と同じく自動詞と他動詞があり,ヨーロッパの人々はそれらがどういうイメージで使われるものなのかも知っているので、彼らが(1)のような自動詞と他動詞の説明を聞いても、「そうか、英語も我々の言葉と同じ構造なんだ」とすんなり受け入れられるのである。しかし日本語には英語のような自動詞とか他動詞なんてのはないので、今の説明だけでは「はあ、そうですか」としか言いようがない。「重要なことだからよく理解しろ」などといわれても、何しろ詭弁なのだから理解できるわけがない。(念のため(1)を言い換えれば、「動詞には目的語を取らない動詞と目的語を取る動詞があり、目的語を取らない動詞は目的語を取らず、目的語を取る動詞は目的語を取る」となる)我々が今の説明を納得するには、直接目的語とは一体何なのかをまず考えなければならなかったわけである。それをまったくサボっているところが、日本の英語教育の最大のガンである。

 私は皆さんが、たった一回ここまで読んだだけで直接目的語が何かを理解するのは難しいだろうと想像する。日本語の「何々を」と英語の直接目的語のいかんともしがたいギャップはそう簡単に理解できるものではないから。しかし皆さんはもう,直接目的語が結局のところ何であるのかを考えるヒントを得たに違いない。ここまで見てきたように 「何々を」である直接目的語は、とどのつまり動作の相手であり、日本語でいえば「何々を」に大変近いものである。今後英文を読むときは、これを土台に、すべての直接目的語に対して共通するイメージを描けるよう努力をしていって欲しい。

 どうしても「何々を」というイメージがわかない動詞については,"reach"でやったように,強引に「somethingをdo somethingする」(「何々を何々する」)と何回も口ずさんでから,英語の語順にしてみると良い。以下にイメージの掴み方の例を示す。

discuss something 内容は「何々を議論する」「何々について議論する」だが,英語のイメージでは「somethingを議論する」→「somethingをdiscussする」のみが正しい。

resemble somebody 内容は「何々に似ている」だが,イメージでは「somebodyを模写している」→「somebodyをresembleしている」といったところ。

enter something 内容は「何々に入る」だが,イメージは「somethingを侵す」(内容は「侵す」とは全く違うが)→「somethingをenterする」

accompany somebody 内容は「同行する」「ついてまわる」だが,イメージは「somebodyをぴったりマークする」→「somebodyをaccompanyする」

mention something 内容は「何々に言及する」だが,イメージは「somethingを話題にする」→「somethingをmentionする」


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