令和4年3月11日: 東日本大震災トリアージ訴訟を掲載
切開方法
黒目のへりをわずか2〜3mm程度切るだけなのですが、医者によってこだわりがあります。大雑把にいって二つの方法があります。
方法 | あらまし | 長所 | 短所 |
強角膜切開 | 黒目としろめの境目よりも、しろめ側から切れ目を入れる方法です。 | ばい菌の侵入をよく防ぐと言われている 傷口がより閉まりやすい |
手順が煩雑で時間がかかる しろめに出血する場合がある。特に、血をさらさらにする薬を飲んでいる場合は真っ赤になる |
角膜切開 | 黒目としろめの境目か、わずかに黒目側から切れ目を入れる方法です。 | 手順が簡単で速い 傷口がきれい 出血を防ぐことができる |
ばい菌が侵入しやすいと言われている 傷口が強角膜切開より閉じにくい |
このどちらを選ぶかは、医者の信条が強く現れるところです。ポイントは「角膜切開より強角膜切開のほうがばい菌に強いと考えられている」という点です。
というのは、しろめの構造は、実は白い強い壁(強膜)の上に透明な薄い膜(結膜)が被さっているのですが、強角膜切開だとその切り口は、白い強い壁の切れ目を、さらに透明な薄い膜が覆うことになります。この透明な薄い膜があることと、しろめそのものの切り口の癒着がばい菌の侵入を防ぐと言われています。
一方、角膜切開は、黒目の表面の透明な硬いレンズ(角膜)を切ります。その切り口は隙間なくくっつくのですが、皮膚や結膜が元通りがっちりくっつくのとは違って、弱いつき方なのです。そのため手術後にばい菌が侵入しやすいと考えられています。
手術後に手術の切り口からばい菌が入って、目玉の中が膿んでしまう「術後細菌性眼内炎」は、下手をすると失明の元にもなりかねないので、絶対に避けたいものなのです。
こうしてみると、ばい菌により強いと言われている「強角膜切開」の方がより安全なので良いと思われるかも知れませんが、本当にそうなのか疑わしいところもあります。
これまでに、非常に多数の手術の比較で、「強角膜切開よりも角膜切開のほうが、術後眼内炎の発生率が高い」という報告がありましたが、その報告では、術後眼内炎が少ないとされている強角膜切開ですら相当に多くの術後眼内炎が起きていて、そもそもその発表の元になった施設自体が術後眼内炎が多すぎるとして、その信憑性が疑問になっています。
また、私自身が以前に在籍した病院では角膜切開で手術をしていましたが、私が在籍した3年4ヶ月の間の約7000症例の白内障手術で眼内炎は一回も無く、それ以前の記録とあわせて1万症例以上起きていませんでした。
私としては、どちらの方法でも良いのではないかと思っています。