カテゴリー「司法問題」の記事

宮川光治最高裁判事、本日退官

2012年2月27日

先日、光市母子殺人事件最高裁判決で、破棄差し戻しの反対意見を書いたことで一躍有名になった、弁護士から最高裁判事になった宮川光治裁判官が、本日退官です。それ以前にも、学校行事での国歌斉唱の不起立問題の事件では、処分に反対する意見を書く等で耳目を集めました。それらの事件に対する判断は、私には荷が重いので、評論を控えざるを得ません。

私にとっては何と言っても、日航機ニアミス事故の最高裁決定の補足意見で、「緊張感をもって,意識を集中して仕事をしていれば,起こり得なかった事態である」と書いたことが衝撃的でした。他の判決文での宮川判事の文章は、私にとっては判決文よりも、弁護士が裁判所に提出する準備書面を思わせるものでした。判決文を書く訓練を受けていない者が、いきなり司法の最高機関である最高裁の判事になるという今の仕組みに問題はないのかと、強い疑問を抱かせる事件でした。同じようなことは他の組織では到底あり得ないことでしょうから。

なにはともあれお疲れさまでした。退官を喜ばしく思います。

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イレッサ訴訟、弁護士のミスで上告却下

2012年1月11日


薬害イレッサ訴訟で、弁護士のミスで上告が門前払いになったそうです。以下、時事通信から。

弁護団ミスで2人の上告却下=印紙代払わず-イレッサ訴訟
肺がん治療薬イレッサの副作用被害をめぐる訴訟で、原告側逆転敗訴を言い渡した昨年11月の東京高裁判決を不服として最高裁に上告した3患者の遺族4人のうち2人について、弁護団は10日までに、訴訟費用に当たる印紙代を払い忘れるミスで上告を却下されたと発表した。
2人については高裁判決が確定したことになり、弁護団は謝罪した。残った原告の訴訟を継続するという。
弁護団によると、原告2人について、昨年12月7日までに印紙代を納付するよう命じられたが、事務局長の男性弁護士が手続きを忘れたため、同月8日に上告を却下された。不服を申し立てたが、今月7日付で退けられたという。(2012/01/10-19:45)

薬害イレッサ訴訟弁護団サイトによれば、東日本訴訟原告団の事務局長は阿部哲二弁護士でしょうか。


弁護士のミスによって当該原告は、上告して裁判を受けるという、当然に持っていたはずの人権を奪われたわけです。 


このことについては、「業務上過失人権侵害罪の立法を」にも書きましたが、医療で同様のことが起これば、人が死ぬことがあります。医療行為でミスがあって人命を奪えば業務上過失致死だというのならば、弁護士業務でミスがあって人権を奪えば業務上過失人権侵害として刑罰に付すに値すると思います。 


法律家はそういう連想をしてみないことには、医師の業務に対して業務上過失罪を科すことによる、労働環境の苛烈さを理解できないことでしょう。 


ちなみに上告却下のポカは、こちらにあるように、弘中惇一郎弁護士が犯したのを見たことがあります。  


イレッサ訴訟弁護団と、私とのちょっとした関係は、「これを治っているというのはどこの医者だ!」で書きました。イレッサ訴訟とは全く関係ないですが、ご関心があればご覧ください。

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宮川光治裁判官の余計な一言

2010年11月16日

日航機ニアミス事故の最高裁棄却決定書の話です。
 事件そのものは,管制官の言い間違いを端緒として,コンピュータによる事故防止機構であるTCASもうまく機能せず,結果的にニアミスを引き起こしたというもので,言い間違いという過失は明らかであり,それがニアミスにつながったという判断は,TCASの介在があったとはいえ,誤っているとも言えないもののようです。事件については町村先生のブログからご確認下さい。
 私はこの事件で被告人らの有罪が確定したことには憂慮をしますが,しかし過失と因果関係の有無という点では,一般的な刑事司法の判断方法からすれば,有罪という結論になることには止むを得ない面があり,その点では高裁判決を出した裁判官らや,棄却決定を出した最高裁裁判官らを責めても仕方がないのかも知れないと思います。
 しかしそうは言ってもこの有罪確定が何とも腑に落ちないのは,言い間違いという,誰しもが日常生活で犯しうるちょっとした間違いが犯罪と認定されたということです。宮川光治裁判官は「緊張感をもって,意識を集中して仕事をしていれば,起こり得なかった事態である」などと断定しています。確かに緊張感をもって仕事をすれば間違いを減らせる可能性はあるかも知れませんが,それでも間違いを完全にゼロにできるとは言い切れないというほうが,むしろ一般的な感覚ではないかと思います。むしろ,緊張感を持っている時こそ,その緊張感が仇となって,かえって間違いに気づかない可能性すらあるのではないかと思われます。「緊張感を持って仕事をすれば,間違いなど起こさない」という考えは,証拠を伴わない単なる空想なのであり,現実に即していない単なる願望に過ぎないのです。もし本当に,緊張感をもって意識を集中して仕事をしていれば,間違いは起こさないものだというのであれば,例えば,2年もかけてお粗末な矛盾判決を含んだ判決を書いた,一宮身体拘束裁判の高裁裁判官らなどは,緊張感を持たずに仕事をしていたということになるでしょう。その裁判官らは法的に罰せられることはないにしても,緊張感をもって意識を集中して仕事していないような裁判官なのですから,左遷されるなどの不利益があってしかるべきだと思われます。
 どんなに重要な場面であっても間違いを起こす場合があることは,それはもう人間の限界なのであって,そのようなヒューマンエラーを低減すべくコンピュータを用いて対策を講じたところ,それがかえって事故を導き出した可能性があったというのが,今回の事件です。そのような事故で,事故の端緒となったからといって,単なる言い間違いをした管制官(およびそれに気付かなかった管制官)だけを刑罰に付すことが,一体何の正義なのか理解不能です。既に述べたように,言い間違いなどというものは日常誰もが起こしうるミスでしかないのですが,それに対して結果が悪ければ刑罰を与えるというシステムは,恐怖政治であり,強権司法なのではないかと考えます。百歩譲って,そのようにすることが安全向上に資するという確証があるのであれば,渋々ながら首肯せざるを得ないのかも知れませんが,単なる言い間違いを罰することが安全向上に資するという証拠はどこにもないでしょう。わざと言い間違いをしようなどという悪意を持った人間は別として,通常業務において言い間違いを犯してしまう瞬間というのは,一種の心神喪失状態であると捉えることもできるでしょう。そのような状態で犯した所業を罰することは,却って人権侵害とすら言えるのではないかと思います。
 業務上過失致死傷罪の存在に異議を唱える人がほとんどいない日本の法曹界は,総じて人権意識が希薄であるかのように,私には映ります。少なくとも,今回のようなシステムエラーが問題となる事故において,その端緒となった被告人を有罪とすることについて,「緊張感を持って仕事をすれば,間違いなど起こさない」などと,実生活上の現実と異なる前提を持ち出して肯定しようという人が,最高裁判事を務めているような国においては,業務上過失致死傷罪などというものは,ナントカに刃物になりかねない恐怖の悪法であると思われます。ま,上記のような意見を書いてしまった宮川光治裁判官も,単に緊張感を持って仕事をしていなかっただけなのかな,と想像することもできますが,そうであればその点は赦すとしても,その現実直視力の貧困は,裁判官として働くには不適格なのではないかと思う次第です。
 単なる言い間違いを刑法犯として処分することに,一点の疑義も抱かないような法律家は,法律家であることを辞めたほうが良いと思います。
 そういえば,落合洋司弁護士が書いたこの記事も酷いものがありますね。恐らく人権意識に乏しいのでしょう。

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日航機ニアミス事故・最高裁決定書読後感

2010年11月3日

医療事故の過失責任とも通じるところがあり,気になっていた事件ですが,最高裁の棄却決定書をようやく読みました。

で,感想なんですが…

・ 言い間違えているのだから,過失があったという判断は正しいでしょう。

・ でも907便機長が自己判断で,航空機衝突防止装置からの指示(RA)に従わずに管制官からの誤指示に従ったことにも,不適切かも知れない面があったわけでしょう。

・ そうすると,過失と損害との因果関係を肯定しないという櫻井裁判官の判断にも一理あるというか,「それって,907便機長の判断が違っていれば事故にならなかったってことじゃね?」ということで,「高度の蓋然性」は否定されるのが普通だと思われますが。(「高度の蓋然性」は民事で多用される用語かな…?)

・ ただ,管制官と907便機長をまとめて起訴されていたとしたらどうなるのでしょう。907便機長の判断は過失には当たらなさそうで,そうすると「過失+非過失行為」と損害との因果関係が認められるわけですが…

・ 宮川裁判官の補足意見の「航空管制官として緊張感をもって,意識を集中して仕事をしていれば,起こり得なかった事態である。」という文言,これはいいですね。「航空管制官」を「医師」に替えても使えるのは勿論ですが,さらに「裁判官」や「弁護士」に替えても使えることは分かっているのかなぁ。まずは一宮身体拘束裁判の裁判長あたりに投げかけたい言葉です。

・ 一番不快な部分は,宮川裁判官の補足意見の,「本件のような行為について,刑事責任を問わないことが,事故調査を有効に機能させ,システムの安全性の向上に資する旨の所論は,政策論・立法論としても,現代社会における国民の常識に適うものであるとは考え難く,相当とは思われない。」として,国民の常識を決めつけている部分です。それは確かにそうかも知れないけれども,なんでそれをわざわざ裁判所が言うのよ? ということと,そもそもそういう「国民の常識」を裁判所がリードしちゃってる面もあるでしょうに,という点。

・ ま,ただし,このような事例を刑事事件に問わないことによって調査機能がより有効になるかならないかという部分は,実際のところ大差は無いのではないかと思います。実際,この事件のあとに対策は取られたわででしょう。そういえば竹の塚踏切事故のあとも,対策は取られたわけでしょう。尤もこのような事例を刑事事件化することが,現場を萎縮させているのは確かでしょうし,そしてそれは大局的にはその領域の安全を損なうことに繋がると思いますが。参考:「業務上過失人権侵害罪」の立法を

・ この事件の場合は,907便機長の迷判断が因果関係判断に介在するので,無罪という判断もあり得たと思うけれども,専門領域の事例では一発アウトの事例もいくらでもあるでしょうから(例えば医療において,塩化カルシウムと塩化カリウムを間違えて投与して死亡させた,とか),もしこの事件が無罪にしていたとしても,それは根本的な解決ではないでしょう。

・ 結局,僕の思いは,「特殊技能を要する職業を,一歩誤れば刑法犯に陥れるような環境下で働かせることは,人権侵害じゃないの?」というところに至るわけです。

・ ところで,「…と思われる」なんていう曖昧な語の連発で有罪認定するってのは,一体どうなのよ?

町村先生が意見を書かれています。これも参考にどうぞ。
http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2010/10/arret-e243.html

平成24年4月27日追記: 宮川光治裁判官の余計な一言もご覧ください。

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判決文に違和感

2010年2月5日

「ダイビングツアーで死亡した妻の夫が,そのツアーを企画・主催した会社とそのガイドを務めた従業員に対し,不法行為又は債務不履行に基づいて求めた損害賠償が認められなかった事例」
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100205095412.pdf
・・・
判決そのものには違和感はありません。
ただ、「被告甲」という呼称に違和感ありまくりです・・・

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