亀田テオフィリン中毒事件,上告棄却,病院側敗訴確定

2008年11月25日

福島大野事件,割りばし事件などの陰になってほとんど話題にならないですが,重要な決定だと思います。

処置ミス、7300万円支払い確定 千葉の亀田総合病院
2008.11.21 18:31 – MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/081121/trl0811211832011-n1.htm
千葉県鴨川市の亀田総合病院でぜんそく治療を受けていた高校2年の男子生徒=当時(17)=が出血性ショックで死亡したのは処置のミスが原因として、両親が約8800万円 の損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(中川了滋裁判長)は21日、病院側の上告を退ける決定をした。病院側に約7300万円の支払いを命じた2審・東京高 裁判決が確定した。
2審判決などによると、男子生徒は平成13年1月1日未明、吐き気などを訴え受診。ぜんそく治療で病院から処方されていたテオフィリンの血中濃度が高いことが判明。処置の 過程で医師が脚の付け根にカテーテルを挿入した際、血管を傷つけたため、大量に出血、同日夜、死亡した。

千葉地裁の一審で出された鑑定意見に振り回されました。
最高裁第二小法廷で半年ほど前に,精神鑑定に関して,「専門家の鑑定意見は十分に尊重すべし」との判決を出しています。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=36327&hanreiKbn=01
上記はごもっともな判例だとは思いますが,医療訴訟における鑑定は,医療行為を行った専門家に対する専門家の意見であって,それらが対立する場合に鑑定の意見ばかりを尊重することには,私は疑問を持ちます。 上記判決に対して,某所で以下のような意見を書いたことがあります。

専門家の意見を尊重すべしという判断自体は至極当たり前の判断で、そもそも最高裁にこんな判示をさせるような高裁判決がどうかしているとは思います。
精神鑑定と通常の医療裁判の鑑定とを同一に扱っていいのかどうかということについては疑問があります。一般裁判の精神鑑定と、通常の医療裁判において鑑定の立ち位置の違い がちょっとあって、一般裁判における精神鑑定はそれ自体が第一回目の専門家による判断であるのに対して、通常の医療裁判における第三者鑑定は、専門家(=被告側医師)によ る第一回目の判断(=問題になっている医療行為)について、さらに重ねて専門家(=鑑定医)が判断するもの、つまり第二回目の専門家による判断なわけですね。ここで第一回 目の判断(被告側医師の判断)と第二回目の判断(鑑定)が異なる場合に、第二回目の判断を「鑑定だから」といって偏重するような判断の仕方は、正しい姿勢ではないのではな いかという疑問があります。

それ以前の問題として,意外なことですが,最高裁への上告においては事実関係はもう争えないことになっているので,地裁・高裁の判決文を見て激しく法律違反をしている部分などがなければ,そのまま上告棄却とされてしまうことが大部分です。この亀田事件でも専門家の鑑定意見を反映しており,さらに一通りの審議を遂行してある限り,上告棄却自体は”司法的には”やむを得ないともいえます。
この裁判の一審で提出された鑑定は,千葉地裁ご自慢の「複数鑑定」として、順天堂大学浦安病院の放射線科 住 幸治教授、腎臓内科 林野久紀助教授、血液内科 野口正章助教授が、文書にて回答したものです。この鑑定自体が疑問なことは間違いないと思うのですが,所詮は”後だし意見”である鑑定に大きな信頼を置くような司法のあり方自体のほうがよっぽど問題です。
この事件の詳細については,以下のページをご覧ください。
http://www.orcaland.gr.jp/kaleido/iryosaiban/H15wa202.html

このエントリーをはてなブックマークに追加

裁判員制度に「責任を押し付けるな」という理屈

2008年11月24日

私は裁判員制度には原則反対なのですが,それでも以下のような「責任を押し付けるな」と主張する活動には「どうかな~」と疑問を持つものです。

裁判員制度反対、各地でデモ 「勝手に名簿載せるな」
 来年5月から始まる裁判員制度に反対する弁護士や市民らが22日、仙台市、東京、福岡市で集会を開き、繁華街などをデモ行進した。反対行動は2月の日弁連会長選で制度廃止を主張した高山俊吉弁護士らが呼び掛けた。28日に裁判員候補者名簿に記載された人へ通知が送付されるため「通知が届いたら、勝手に名簿へ載せたと抗議しよう」などと訴えた。
 約600人が参加した東京都千代田区の集会で、新潟県弁護士会の高島章弁護士は「人を死刑にする権力を国民に担わせる制度だ」と批判し、漫画家の蛭子能収さんも「自由を束縛するので反対」と指摘。
 その後、約250人が銀座などをデモし「裁くことを押しつけるな」などと声を張り上げた。
 福岡市中央区天神の公園には弁護士や市民団体メンバーら約30人が集合。大分県豊後大野市の益永スミコさん(85)は「いや応なしに集められ死ぬまで秘密を守らせる制度は戦中と同じ。もうあんな思いはしたくない」と話した。制度をPRする検察庁のキャラクター「サイバンインコ」に対抗した着ぐるみ「裁判員制度はいらんインコ」も登場。参加者と一緒に天神をデモした。
 仙台市の弁護士会館に集まったのは約90人。東北大の小田中聡樹名誉教授は「裁判官らが主導・管理する司法に国民を強制的に動員し、被告に裁判の受け入れを強制する巧妙なシステムだ」と批判した。
2008/11/22 19:05 【共同通信】

日本国民として,それなりの義務があってもそれを一概にダメといっていては,そもそも国が成り立たなくなる場合だってあります。「人を死刑にする権力を国民に担わせる制度だ」と言っても,そもそもそのような権力は建前上国民の同意の上に成り立っているわけでして。
私が裁判員制度に反対する理由は,「先入観なく証拠を判断したり量刑を決めたりする裁判官の仕事は,簡単なものではない。長年の訓練を受けてようやくできるものであり,そこに一部とはいえ一般人が入って判断を任せることは,判断の誤りを招く原因になる。」というものです。付け加えるならば,「専門職である裁判官に失礼な結果につながるのではないか」というものです。
私は裁判員制度ができるくらいならば,医療にも医療員制度を創設して,一般人からくじ引きで医療チームに入ってもらい,医療の一部を担ってもらえばいいだろう,と思っているのですが,普通に考えればそんな制度は医療者も国民もまっぴらごめんだと思うでしょう。裁判員制度もそれと同様に思います。ただ,それが単に「責任の押し付けはやめろ」といわれて反対されることには,どうにも同調ができません。

このエントリーをはてなブックマークに追加

裁判の相手方の情報公開は

2008年10月21日

医療過誤原告の会のブログに,原告側からの裁判傍聴の依頼が掲示されています。
そこに,訴えた相手側の病院名もそのまま書いてあります。
私はしばしば医療訴訟を傍聴・記録閲覧して感想などを書いていますが,当事者の個人情報には相当慎重にしているのですが,相手方が法人であれば,相手方の情報をそのまま出してしまっても良いものなのでしょうかね?
実際のところ裁判は公開物なので,もしかしたら個人名ですら公開しても構わないものなのかも知れませんが…
どうなんでしょうね?

このエントリーをはてなブックマークに追加

亀田テオフィリン中毒事件その後

2008年10月18日

注:今日から,相当ディープな話題でも書くだけ書いておこうかと思います。
 つい先日,最高裁に電話して,亀田テオフィリン中毒事件の進行状況を確認しました。
 今のところ上告(ないし上告受理申立て,以下同様)棄却にはなっていないとのことです。これで上告から約10ヶ月経過しました。
 上告棄却の場合は2ヶ月くらいで決定されることが多いようですし,また上告受理されるには,上告から半年以上棄却をされないことが第一関門だということなので,亀田テオフィリン事件は既にこれをクリアーしていることになります。
 もし上告が受理されるとしたら,最高裁はどの点をポイントとしてくるのか,興味津々です。例えば,控訴審で病院側が持ち出した「死因はテオフィリン中毒」という主張について,控訴審判決では全く審理されていない点か,はたまた鑑定意見の取り扱いに関するようなもっと広い射程を持った根本的な点か…
これだけ待たされて,結局は上告棄却だったらさすがにがっかりです。
亀田テオフィリン中毒事件の症例検討会の様子はこちらをご参照ください。
http://lohasmedical.jp/blog/2008/02/post_1088.php
判決文についてはこちらをご参照ください。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20071225

このエントリーをはてなブックマークに追加

飛行機の中でお産に立ち会った医師たち(ただし外国)

2008年8月31日

こんなニュースが…

旅客機内で男児出産、乗り合わせた医師4人が立ち会う
2008-08-29 15:00:02
 香港から豪アデレードへと向かう旅客機内で28日朝、搭乗していた女性が男児を出産した―出産に立ち会ったのは、偶然同じ飛行機に乗っていた4人の医師だった。
 赤ちゃんを出産したのは、当時妊娠34週目だったParmajit Kaurさん(29)。香港を離陸したキャセイ航空の機内で、突然産気づいたという。
 出産に立ち会ったジュディス・ハメル医師は、オーストラリア放送協会(ABC)に対し次のように語っている。「わたしを含めて4人の医師がたまたま同乗していました。外科医、整形外科医、腎臓専門医、そして一般開業医のわたし。出産に関しては、4人の中でわたしが一番経験があると判断して“チーム”をリードすることになりました」。
「助産師役はわたし。ほかの3人は(Kaurさんを)励ます役、“吸って、はいて”を繰り返す役、(生まれた)赤ちゃんの面倒を見る役とそれぞれ役割を分担しました」と説明するハメル医師。「無事に出産を確認できた瞬間はほっとしました。4人とも“面白い”経験をさせてもらったと思っています」と付け加えた。
 母子を病院へと搬送するため、ダーウィンの空港に緊急着陸した同機。その後、残りの乗客を乗せたまま再びアデレードへ向けて飛び立ったという。(c)South China Morning Post/Martin Wong

えー,
外国人医師の皆さんには,「“面白い”経験」だったと思うんですが,
日本では,もしうまく行かなかったら訴えられるんではないかと思うと,緊急召集がかかっても,ちょっと名乗り出れないかも知れませんです,はい。

このエントリーをはてなブックマークに追加

医療裁判・医療訴訟
医療裁判傍聴ブログ新着記事: 父の診療を担当した医師(息子)が、姉妹から訴えられた事例 | 「頑張れる自信が全く無いですよ」 | 腹部大動脈瘤の有無を疑い、検査を追加すべき義務? | 鼻の整形手術後死亡事例の訴訟、一審の認定事実抜粋 | 癒着を剥がそうとすると出血する脳動脈瘤をクリッピングした際の合併症で争われている事例 |
★基礎編: 医療事故を裁判で裁くのは好ましくありません | 裁判傍聴の方法 | 裁判記録閲覧の方法 | 書類送検について | 医療訴訟の原告の方へのアドバイス | 医療訴訟の患者側勝訴率が急低下 | 裁判官の方々へのメッセージ | 「業務上過失人権侵害罪」の立法を | 沖田光男さん痴漢誤認逮捕事件の差戻し審判決に思う | 医療訴訟の現状と問題点 | (HTML版はこちらから) | 訴訟記録閲覧時のメモ取り行為と,裁判の公開原則,レペタ裁判の関係 | 宮川光治裁判官の余計な一言 | 手術の合併症と法的過失 | 画像検査の見逃しと法的過失
★事件編: 東日本大震災トリアージ訴訟妥当 | 抗癌剤内服拒否死亡事件妥当妥当 | クルーズ船脳出血発症緊急搬送訴訟 | 高松三つ子緊急帝王切開訴訟 | 静岡羊水塞栓症訴訟(富田善範裁判長の不適切訴訟指揮)妥当 | 大橋弘裁判長トンデモ訴訟指揮事件妥当 | 富山医科薬科大学MRSA腸炎訴訟 | 代理人が辞任してしまったので・・・和解 | リピーター弁護士 なぜムリを繰り返すのか不定不定 | 沖縄総胆管結石摘出不成功訴訟和解 | 不要な点眼処方は暴力行為だ!和解 | 素人も削ってみたけれども、悪いのは歯医者です和解 | 眼底造影検査アレルギー死亡訴訟妥当妥当 | 開業医時間外診療拒否訴訟和解 | 異食症高齢者誤嚥死亡訴訟 | 行き当りばったり提訴医療訴訟事件妥当 | 三平方の定理血管穿刺訴訟妥当 | 日野心筋梗塞訴訟妥当 | 京卵巣腫瘍摘出尿管損傷訴訟妥当 | 老人ホーム誤嚥常習者心肺停止訴訟和解 | 椎間板ヘルニア術後下垂足訴訟和解 | 北陵クリニック筋弛緩剤点滴事件妥当妥当妥当 | これを治っているというのはどこの医者だ!和解 | 東京産婦MRSA感染訴訟 | 徳島脳性麻痺訴訟不明微妙 | 医療問題弁護団問題1和解 | 医療問題弁護団問題2和解 | 医療問題弁護団問題3和解 | 医療問題弁護団問題4 | 谷直樹弁護士の謬論 (医療問題弁護団問題~5~) | 青森里帰り妊婦OHSS訴訟C以上妥当 | 一宮身体拘束裁判妥当妥当 | 八戸縫合糸訴訟妥当 | 加古川心筋梗塞訴訟 | 東京脳梗塞見落しカルテ改ざん訴訟妥当和解 | 東京の皆さ~ん,こちら岡山で~す妥当 | 関東中央病院PTSD訴訟妥当妥当 | アヴァンギャルド癌治療訴訟和解 | 十日町病院術中死訴訟妥当 | 腰椎圧迫骨折保存療法訴訟和解 | ゼロ和解したRSD訴訟和解 | 福島VBAC訴訟和解 | 過剰な吸引分娩による胎児死亡訴訟微妙妥当 | 産婦大量出血死亡訴訟妥当 | 新島骨折見逃し訴訟 | 奈良先天緑内障訴訟 | カルテ改ざん訴訟妥当妥当 | 円錐角膜移植手術後散瞳症訴訟妥当 | 奈良救急心タンポナーデ訴訟妥当 | 亀田テオフィリン中毒訴訟 | 村田渉判事の判決文に学ぶ1妥当 | 村田渉判事の判決文に学ぶ2妥当 | 村田渉判事の判決文に学ぶ3妥当