やめれば死亡する治療の継続を拒否し,その結果亡くなった患者の遺族が起こした裁判

証人尋問の一部を傍聴 した,東京地裁医療集中部の事件です。全部を傍聴したわけではないので,わかった要点だけをかいつまんで紹介したいと思います。事件番号は平成29年(ワ)第9227号。

慢性骨髄性白血病の患者が,グリベックという特効薬を服用していたものの,副作用が辛くて2013年に休薬を願い出たそうです。患者さんはその後に亡くなり,遺族が提訴しました。

諸事情から血液内科専門ではない医師が担当していました。グリベックがよく効いており,服用を続けていれば良くなっていた可能性が高い一方,服用を中止すれば死亡する可能性が高いと認識していました。そんな中,患者が休薬を希望したため,医師は服用を継続するよう説得を試み,その説得内容についての詳細な記載も残っているとのことでした。それでも説得はうまくいかず,やむなく「投薬の休止願い」を書いてもらい,投薬を中止したとういのです。担当の先生は,一般には休薬願いを書いてもらっても,説得によって再開をした人が多かったと証言していたので,この患者さんに対しても,休薬後も説得を試みていたのだろうと思います。

原告(遺族)からの主張の中には,「グリベックから第2世代の薬に変えるべきだった」「無理矢理に服用させるべきだった」との主張があったとのことでした。

1つ目の主張に対しては,当時はまだ第2世代は多くは使われていなかったし,効果の違いはよくわからなかった,グリベックがとても良く効いていたので,服用するよう説得することが治療だと考えていたということでした。この点については私は門外漢ですから,評価ができません。

2つ目の主張に対しては,縛ってでも飲ませることはできなかった,と証言されていました。これは全くそのとおりで,意識の明確な大人に対して,本人が望まない治療を強制することが,どれほどの人権蹂躙になるかを考えれば当然です。かつて,日本の医療界では患者を縛ってでも治療することが正義と考えられていた時代があったように思いますが,少なくとも近時の裁判所の判断では,患者の自己決定権を重く捉えていますし,私もそれがより妥当な考えだと思います。

昨今,人工透析治療を巡って,患者が中止を希望しても中止してはいけないだとか,透析を中止するような選択肢を提示してはいけないだとかいうようなおよそ頓珍漢な議論がなされている中,この裁判の動向にも注目したいと思っています。

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