日航機ニアミス事故・最高裁決定書読後感

2010年11月3日

医療事故の過失責任とも通じるところがあり,気になっていた事件ですが,最高裁の棄却決定書をようやく読みました。

で,感想なんですが…

・ 言い間違えているのだから,過失があったという判断は正しいでしょう。

・ でも907便機長が自己判断で,航空機衝突防止装置からの指示(RA)に従わずに管制官からの誤指示に従ったことにも,不適切かも知れない面があったわけでしょう。

・ そうすると,過失と損害との因果関係を肯定しないという櫻井裁判官の判断にも一理あるというか,「それって,907便機長の判断が違っていれば事故にならなかったってことじゃね?」ということで,「高度の蓋然性」は否定されるのが普通だと思われますが。(「高度の蓋然性」は民事で多用される用語かな…?)

・ ただ,管制官と907便機長をまとめて起訴されていたとしたらどうなるのでしょう。907便機長の判断は過失には当たらなさそうで,そうすると「過失+非過失行為」と損害との因果関係が認められるわけですが…

・ 宮川裁判官の補足意見の「航空管制官として緊張感をもって,意識を集中して仕事をしていれば,起こり得なかった事態である。」という文言,これはいいですね。「航空管制官」を「医師」に替えても使えるのは勿論ですが,さらに「裁判官」や「弁護士」に替えても使えることは分かっているのかなぁ。まずは一宮身体拘束裁判の裁判長あたりに投げかけたい言葉です。

・ 一番不快な部分は,宮川裁判官の補足意見の,「本件のような行為について,刑事責任を問わないことが,事故調査を有効に機能させ,システムの安全性の向上に資する旨の所論は,政策論・立法論としても,現代社会における国民の常識に適うものであるとは考え難く,相当とは思われない。」として,国民の常識を決めつけている部分です。それは確かにそうかも知れないけれども,なんでそれをわざわざ裁判所が言うのよ? ということと,そもそもそういう「国民の常識」を裁判所がリードしちゃってる面もあるでしょうに,という点。

・ ま,ただし,このような事例を刑事事件に問わないことによって調査機能がより有効になるかならないかという部分は,実際のところ大差は無いのではないかと思います。実際,この事件のあとに対策は取られたわででしょう。そういえば竹の塚踏切事故のあとも,対策は取られたわけでしょう。尤もこのような事例を刑事事件化することが,現場を萎縮させているのは確かでしょうし,そしてそれは大局的にはその領域の安全を損なうことに繋がると思いますが。参考:「業務上過失人権侵害罪」の立法を

・ この事件の場合は,907便機長の迷判断が因果関係判断に介在するので,無罪という判断もあり得たと思うけれども,専門領域の事例では一発アウトの事例もいくらでもあるでしょうから(例えば医療において,塩化カルシウムと塩化カリウムを間違えて投与して死亡させた,とか),もしこの事件が無罪にしていたとしても,それは根本的な解決ではないでしょう。

・ 結局,僕の思いは,「特殊技能を要する職業を,一歩誤れば刑法犯に陥れるような環境下で働かせることは,人権侵害じゃないの?」というところに至るわけです。

・ ところで,「…と思われる」なんていう曖昧な語の連発で有罪認定するってのは,一体どうなのよ?

町村先生が意見を書かれています。これも参考にどうぞ。
http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2010/10/arret-e243.html

平成24年4月27日追記: 宮川光治裁判官の余計な一言もご覧ください。

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