2013年4月の記事

ある医療事故調シンポジウムでの、小宮英美NHKラジオセンターチーフディレクターの放言

2013年4月21日

第45回比較法制シンポジウム「医療事故に関する第三者機関のあり方」というのを聴きに行って来ました。

真相究明と再発防止を目的として、刑事罰とか補償とかを切り離して医療事故調査機構を作ることは、悪いことではないと思うんですが、なんかこう、それを推し進めようとする非医療者の、「病院はそもそも安全な場所」みたいな思いは如何なものかと思いますね。むしろ「病院なんてそもそも危険な場所」というのが正しい捉え方でしょう。だからこそ昔は手術の終了を待っていた家族の第一声は「成功しましたか?」だったわけで、それは時代が変わって危険度は減った可能性はあっても、安全な場所になることはありえないわけです。第一、所詮は人間は体が壊れて死んでいくものなわけで、それを何とか治そうとしている病院において、ある部分で安全性が向上すれば、今度はその安全性が向上したことによって、後日にその振り替えとして発生する別の不具合に対処しないとならないわけで、そうすればその部分ではかえって危険性が増すのは当然の理なわけですよ。

そういう基本的な限界を全く無視して、あるいは見ないふりをして、一般市民に聞こえのいい事ばかりを並べ立てていた人がいました。NHKラジオセンターチーフディレクターの小宮英美氏なんですが、なんか自分の周囲の人が病院で骨折の手術を受けたら予期せず亡くなった、ありえないみたいな話を延々として、しまいには、病院に逃げ道を作らせるなとか、事故調査の結果は最終的には匿名ではなく顕名で報告させて、事故の多い病院を避ける権利を消費者側に持たせろとか言い出していましたね。

げんなりしながら聞いていました。

まず、この人は放送局でチーフディレクターまでされているというのに、自分の発表時間には無頓着。延々と時間オーバーして「すみません」とか言っていましたけど、こんなのはプロの仕事ではないですよ。こういう人が医者をやっていたら、さぞかし医療事故調のお世話になる機会が多いんだろうな、と思いましたよ。

骨折の手術を受けたら予期せず亡くなったという話は、それは大変悲しい話で深く同情しますが、そこでいきなり医療ミスとかに直結させて考えるようなのは、一般人ならやむを得ないとしても、マスコミの頭じゃないと思いますね。元々手術とか医療とかは危険がつきものなわけで、それをあたかも安全なものかのような、現実を無視した聞こえのいい話を広めてきたのはあなた方マスコミでしょう。イレッサだって「夢の新薬」だとか言っていたのはむしろマスコミの方で、現実の厳しさを広めずに甘言ばかり垂れ流して誤った認識を広めたわけでしょう。

事故の多い病院を避ける権利を消費者側に持たせろに至っては、受像機を持てば有無を言わさず受信料を頂戴して、その金で仕事をしている人が吐くセリフかと思いましたけどね。そうでなかったら皆保険制度を全廃して、自由診療にするような運動をしてから言えと思いますよ。

他にも色々と喋っていましたが、「どの口が言うか」と思い続けるばかりでした。

ところで、しばらく前から思っているのですが、医療事故調の次は、弁護事故調、そして司法事故調ですね。医療事故は常に悪い結果が見えるものなので、事故の存在が明瞭であるのに対して、弁護事故と司法事故は、悪い結果を被る人がいる一方で、得をする人もいるものであることから、事故の存在が明瞭でない場合が非常に多いですから、医療事故にも増してその事件把握と原因究明、そして再発防止には力を入れるべきだろうと思います。

空前絶後のインチキ裁判を行った大橋弘裁判長(現・首都大学東京法科大学院教授)のこの事件に対して、本質的な問題をきちんと指摘できないような最高裁の態度を見ると、強くそう思います。

(平成29年12月17日,日本語表現の不適切を修正。)

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北見赤十字病院抗精神病薬投与死亡訴訟、控訴審第一回弁論

2013年4月15日

原告敗訴となった北見赤十字病院抗精神病薬投与死亡訴訟。一審では原告側から自称「キチガイ医」こと内海聡医師と清水宗夫医師の意見書が提出され(尤も、清水医師の意見書は裁判所はあまり取り上げていなかった模様)、尋問にも内海医師が登場し、自分では信念があって語っているようでありながら、因果関係認定には有効でない証言をしていたようです。

そんな事件ですが記録を閲覧したところ、控訴審にあたって控訴人らは、新たに仲田洋美医師の意見書を提出し、そこで指摘された新たな主張(腸閉塞、肺炎を見逃し、その結果敗血症を発症した、等)を展開。被控訴人の答弁書では、そもそも時機に遅れた攻撃であり却下を求めるとしながらも、ひと通りの反論をしている状況でした(摘便で排便しており、腸閉塞とは言えない、等)。ついでに言うと、仲田医師の意見書には、「他科依頼の返書を初期研修医に書かせるのは言語道断」とか、「精神科主治医が3年3ヶ月目の後期研修医で未熟な医師」とか、表面的な意見が沢山見られました。この診療過程を見て、腸閉塞とか言い出す仲田医師の診断のほうが過誤ではないかと思ったのですが・・・

そんな事件が控訴審に入ったわけですが、係属がなんとあの加藤新太郎裁判長の民事第22部。本日その控訴審第一回弁論が開かれました。腸閉塞や肺炎などの新主張の証拠となるCTやレントゲン画像が、提訴前に控訴人側(原告側)になかったのかを裁判長が控訴人代理人の望月宣武弁護士に尋ねると、あったというのです。そこから、加藤新太郎裁判長の追求です。「なんで原審で言わなかったの?」「原審では18回も弁論準備をしている。乾いた雑巾を絞り込むほどやっている」などと突っ込み、果ては「訴訟代理人の無能を救うわけにはいかないが・・・」とまで言うのです。

ではその新主張は直ちに却下かというとそうはいかず、病院側代理人の門間晟弁護士に対しても、「医療側の戦いも気になる。死因は不明ということでしょう。死因は不明、というのは、一般にはトボケている、ってことになりますよ」「一審では、心電図を取らなかった過失があるとなった。しかし死因は不明、ここが気持ちが悪い。」と。まあねぇ、医学の素人から見れば、「原因不明」ってのは、歯がゆいかとは思うんですけど、人間なんて所詮は動物の一種であり、医療なんて未知のことだらけなわけで、原因がよくわからずに亡くなるなんてことはよくあることなんですけどね。

まあ最終的には、腸閉塞や肺炎に対して病院側がそれなりに反論していた甲斐もあってか、合議の上で新主張は却下し、結審するということになったのですが、過失はあったが原因不明の死ということからか、和解を提案するという流れになりました。精神科には疎い私ですが、心電図などを取らなかったことが過失と判断されたことにも疑問を持つ私としては、如何なものかと思うんですけどね。

普通だったらものの数分で終わる控訴審第一回弁論が、今日はなんと30分を超過。まあ加藤新太郎裁判長の法廷を一度でも傍聴したことがある人なら、その厳しさも含めて何とも思わないことですが、一緒に傍聴していた弁護士さん(加藤新太郎裁判長の訴訟指揮初傍聴)は震えあがっていたけど、医者が医療事故で患者・遺族から責められるのよりは全然大したことないと思います。よく見ていると、代理人が裁判長から尋問を受けているようにも見えますね、というかそれそのものでしたね。

(平成25年9月29日、専門用語である「イレウス」を、「腸閉塞」に置き換えました。)

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